フェイバーブラッド ~吸血姫と純血のプリンセス~

ヤマタ

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第28話 再会

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 小根山の事故現場では過激派吸血姫に関する収穫は得られず、千秋と小春は早坂に送られて街中へと帰ってきた。

「今日はお手数をおかけしました。それでは」

 敬礼して去って行く早坂に会釈し、夕刻の繁華街へと二人は繰り出す。晩御飯の買い出しもそうだが、賑わう場所を歩くのは鬱憤晴らしの気分転換に丁度いい。

「そういえば、ママが珍しく早く帰ってこられるそうよ」

「また労働災害があったのかな?」

「経理課の人間が横領して捕まったらしいの。それで警察の立ち入り調査があるんで、早めに帰ることになったって」

「ガチの事件・・・一体美広さんの職場はどうなってるの・・・?」

 問題だらけなのは間違いないが、もはや何をどう改善すれば良いのか分からないレベルだ。むしろ何故事業を続けられているのか謎である。

「それじゃあ久しぶりに美広さんと一緒に夕食を食べられるね。栄養のある料理を作ろう」

「そうね・・・で、栄養のある食事とはどんなモノなのかしら?」

「私に任せて」

 小春のレクチャーで千秋の料理に関する知識と技術は向上してきたものの、それでもまだまだヘナチョコだ。美広ならどんなに不味かろうと千秋の手作り料理なら有り難く食べるだろうが、どうせなら美味しく健康的な食事を摂ってほしいと小春は思う。

「そのためにも良い食材を・・・って、アレって相田さんよね?」

 見慣れた金髪少女が見知らぬ女性と共に歩いていた。向こうも千秋達に気が付いたようでヘラヘラと手を振りながら寄ってくる。

「あらまぁ、お二人揃ってこんなところでデート?」

「そんなところよ。で、相田さんこそ何を?」

「アタシもさっきナンパしたこのコとデート中なんさ」

「そうなの。アナタにしては随分庶民的なデートなのね」

「いや、駅前のラブホに向かうところなんだけど」

 あっけらかんと言う朱音だが年齢的にアウトなのではないだろうか。

「相田さん、高校生でそれは・・・・・・」

「同意の上だし、適度な性経験はむしろ健全ってね。それにアタシには人間の法律は適用されないし、ラブホの受付は例のアレで抜けられるしな」

 これまでにも催眠術を使って受付を突破してきたようで、朱音は自信満々にウインクしてみせる。こうも奔放に生きられるのはある意味で才能か。
 千秋は呆れたように首を振りつつ、去りゆく朱音達を見送った。

「元気ね、あの人は」

「いいことだよ。さっ、私達も買い物の続きだよっ」

「ええ、行きましょう」





 陽が完全に暮れる直前の、いわゆるマジックアワーはまさに幻想的な空模様を見せてくれる。淡い黄金色が広がり千秋は目を細めながら顔を上げた。

「明日の日曜は何をしましょうか。今日は思わぬ事で時間を使ってしまったから、せめてゆっくりしたいわね」

「ゲームしたりアニメを観たりもいいけど・・・千秋ちゃんとずぅっとただ寝てるだけでもいいな」

「ふふ、そうね。一緒にいられるなら・・・・・・」

 笑顔で答えた千秋だったが、

「な・・・あれは・・・!」

 自宅玄関前に立つ少女を見て一気に表情が強張った。
 小春は何事かと視線を移し、そこにいる千秋似の少女を凝視する。どこかで見たことがあるなと顎に手を当て、幼い頃の千秋と写真に写っていた少女だと思い出す。

「あのコは、千秋ちゃんの妹の・・・・・・」

「秋穂・・・しかし何故ここに・・・!」

 真広と共に過激派へと移った吸血姫である。千秋は襲撃かと警戒し小春を庇うように前に立って秋穂を問い詰めた。

「秋穂、今更姿を現して何のつもり?」

「お、お姉様・・・私は・・・・・・」

「ヘタなマネはよしなさい。ここが住宅街であろうと、私は容赦しない」

「違うんです! お姉様にお話したいことがあるのです!」

 どうやら秋穂に交戦の意思はないらしく殺気など微塵も感じさせない。千秋はひとまず深呼吸して落ち着きゆっくりと近づいていく。

「話ですって・・・?」

「実はお母様がお姉様と戦うための準備を進めています。戦力が整っていない今対処しなければ、お姉様に勝ち目はありません」

「なに・・・? 何故そんなことを私に伝えるの?」

「信じてもらえないとは思いますが、お姉様に死んでほしくないのです。それに、お母様を止められるのはお姉様しかいません」

 死んでほしくないという秋穂の言葉は嘘ではなく心からのモノだと千秋には理解できた。それは血が繋がっている家族だからなのかは知らないが、ともかく直感的な感覚が秋穂を信じられると教えてくれている。
 しかし理性の面では疑いが残っていた。過激派へと渡った彼女が揺さぶりをかけてきたのではという疑心だ。

「・・・過激派に行ったのにどうして私を気遣うの?」

「私はお母様の真意を知りたかったのです。ずっと過激派と刃を交えてきたのに、何故急にそちらへ付いて行ったのか・・・近くにいればそれを知ることができると・・・ですから私には過激派へ賛同する気持ちはありませんし、お姉様のことを大切に想う気持ちだって変わらないのです」

「・・・それであの人の真意は分かったの?」

「いえ・・・レジーナという吸血姫によって引き離されてしまったので、もうお母様とは何年も会っていなくて・・・・・・」

 レジーナという名前は千秋の記憶には無い。

「ずっと軟禁状態のまま、傀儡吸血姫用の魔具を作る仕事をさせられてきました。でもこのままではお母様のことは解決できません。気がつくのが遅すぎましたが、だからこそ手を打たねばと思って抜け出してきたのです」

「そう・・・・・・」

 千秋の心には複雑な感情が渦巻き目の前の秋穂にどう接すればよいのか分からなかった。
 少しの沈黙が両者の間に流れて相手が次の言葉を紡ぐのを待っている中、一台の車が近づいてくるのが視界に入った。それは美広の車で千秋達の傍で止まる。

「秋穂ちゃん、なの・・・?」

「あっ・・・叔母様・・・・・・」

「秋穂ちゃんなのね!?」

 ドアを開けるなり、美広は駆け寄って秋穂を抱きしめた。美広にとって秋穂も大切な姪であることに違いはないし、消息不明となってもずっと心配していたのだ。

「良かった・・・無事だったのね」

「叔母様、私は・・・」

「いいのよ。生きていてくれただけで、それだけでいいの」

 優しく、母親のように秋穂の頭を撫でてあげる。それだけで秋穂の目には涙が浮かび、ぎゅっとしがみつくように美広の背中に手を回した。久しぶりに感じる愛情が嬉しくてたまらなかったのだ。

「小春、私はどうすればいいのかしら・・・?」

「行ってあげて。秋穂ちゃんの元へ。きっと秋穂ちゃんは敵じゃないと思う」

「・・・そうね」

 小春に背中を押され、千秋は秋穂へと手を伸ばす。

「お姉様・・・・・・」

「信じるわ。そして・・・お帰りなさい」

 千秋と美広、二人に挟まれるように抱きしめられる秋穂を見て、小春は家族の暖かさが羨ましいと心底思う。両親との関わりが薄くなって久しく、千祟家の繋がりはただただ眩しかった。




 
 秋穂を家へと上げ、ひとまずシャワーを浴びさせてあげる。薄汚れた粗末な衣服を着ていたことから秋穂が清潔な環境に居たわけではないと分かり、それは軟禁状態にあったという言葉の裏付けであった。

「こんなに体が細くなって・・・ご飯や血はちゃんと摂取していたの?」

「いえ、死なない程度の最低限の食事だけで・・・血もあまり飲ませてもらえなかったので・・・・・・」

「そう・・・可哀想に」

 美広は秋穂の体を洗いながら、その体躯の弱弱しさに悲しさと憤りが同時に湧いてくる。まるで虐待を受けていたようなもので、そんな秋穂をもっと早く保護できたらと悔いても悔やみきれない。

「でも、もう大丈夫だからね。わたしが守ってあげるから」

「・・・私に守ってもらう権利なんか・・・間接的とはいえ、過激派に協力していたのは事実で・・・・・・」

「秋穂ちゃんが悪いんじゃないわ。子の責任は親の責任で、秋穂ちゃんを追い込んだのは全てお姉ちゃんのせいよ。それにわたしだって千祟家の大人だもの、秋穂ちゃんに罪があるのならばそれはわたしが背負うわ」

「叔母様・・・・・・」

「秋穂ちゃんや千秋ちゃんがのびのびと生きていけるように手助けするのがわたしの使命よ。だから、気に病まなくていいの」

 千祟の名の元に産まれたというだけで吸血姫界隈では色眼鏡で見られる。それがプレッシャーになるのは美広にも理解できることだし、あまつさえは真広の勝手な行動で家族が引き裂かれた状態になれば、幼い少女の心が曇って正常な判断を鈍らせるのは当然だ。

「お姉ちゃんに、これ以上好き勝手はさせない・・・!」

 千秋と秋穂の苦しみを少しでも和らげるために、その第一歩として始末しなければならない相手を思い浮かべながら秋穂の体を流す。





 秋穂達を待つなか千秋は過去に撮った家族写真を眺めていた。前まではそこに写る秋穂の姿を直視することができなかったが今は違う。再び家族として迎え入れることができたからだ。

「秋穂ちゃんが戻ってきて良かったね」

「ええ。でもまだ心が落ち着かないの」

 突然の再会だし心の整理が付かないのも仕方ないだろう。時間が解決するのを待つほかない。

「まずは秋穂にもう一度話を聞かないと。真広が私と戦う準備を進めていると言っていたし、レジーナとかいう吸血姫も気になるわ」

「そうだね。でも、どちらにせよ真広さんと再び戦うことになりそうだよ?」

「覚悟はできてるわ」

 美広と同じ覚悟は千秋もとっくにできている。なので戦えるチャンスがあるなら、むしろ歓迎するべきことである。負ける気はしないし次こそは確実に息の根を止めるだけだ。

   -続く-
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