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第35話 レジーナへの闘志
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仮面とフードを被った不審者が真夜中の山中から現れたら、速攻で通報されてもやむなしだろう。だが今は夜明け前であり、吸血姫でもなければ出歩かない時間であることから誰にも目撃されることなく拠点としている邸宅に辿り着くことができた。
「まったく不愉快だな・・・千祟め・・・・・・」
レジーナは肩に付着していた葉っぱを落としつつボヤく。ここ最近、千秋のせいで計画が乱れに乱れて破綻していた。保有していた戦力も大損害を受けて残り少なく、もう一大攻勢をかけることもできない。
「まーた失敗したん?」
地下の遊戯室でくつろいでいた宝条は、不機嫌さを隠さないレジーナの様子からまた千秋達に負けたのだろうと推察する。
「千祟秋穂が裏切った。そのせいで廃旅館に傀儡吸血姫を蓄えていたことが敵にバレて、しかも千祟真広を取り返されてしまった」
「千祟真広まで? それはマズいんじゃないの?」
真広を表舞台に立たせ自分が裏から操って戦争をコントロールするのがレジーナのやり方だった。それなのに真広を失っては作戦行動に支障が出るのは間違いなく、傀儡吸血姫を増やそうにもこれまで以上に苦労するのは目に見えていた。
「だからこの家を捨てる。千祟真広にはこの場所を知られているからな」
「ちぇー・・・お気に入りだったんだけどなあ・・・・・・」
「仕方ないだろう。他の場所だって楽園にすることはできる。まずは生き延びねばならない」
秋穂を閉じ込めていたボロ小屋もそうだがレジーナはいくつかの拠点を用意していた。この邸宅はその中でも居心地が良く、レジーナの本拠点として活用されていたが真広の目が覚めれば千秋達に場所がバレて襲われることだろう。
「退却の準備をしろ。三十分後には出発し、この邸宅は破壊する」
もしもの時に備えて複数のお手製爆弾を仕掛けてある。それを起爆し自らがいたという証拠もろとも消し炭にするつもりであった。
「こうなれば、やはりブラッディ・コアを使って逆転を狙うしかない」
「けれど稼働に至るまでにはまだ条件に足りないんだろう?」
「方法は考えるさ。それに平行して、千祟千秋達の監視を強化しないとな」
共存派の吸血姫は他にもいるが、特に脅威的なのは千秋一行だ。彼女達をどうにか始末しなければ今後も邪魔をされてレジーナ自身の命も危険に晒される。
「フェイバーブラッドでもあればな・・・・・・」
吸血姫にとって恵みの血とされているフェイバーブラッド。それさえ手に入れられれば、この不利な状況を覆すことだってできるだろう。
レジーナはフェイバーブラッドへの渇望を口にしつつ、自室へと持ち出すべき荷物を回収しに向かうのだった。
廃旅館での戦いの翌日、千秋達は真広の入院している病院へと来ていた。この病院に勤める吸血姫は早坂の友人であったようで、特別に用意された個室に真広は入院している。
「秋穂、様子はどう?」
「お母様はまだ目覚めません。体に異常は無いようですが・・・・・・」
真広は肉体的ダメージを負ってはおらず、検査の結果、体は健康そのものであった。しかし長い間強力な催眠下にあり精神的な被害は計り知れない。更に催眠の乱れによって生じた負荷がかかってショック状態になってしまったことから意識回復には至っていないのだ。
「秋穂ちゃんも休んだほうがいいわ。わたしが休みの日は交代しましょうか?」
「私は平気です。お母様の傍にいられることが幸せですので・・・それにお姉様に窺ったのですが叔母様は休みがほとんど無いと・・・・・・」
「た、確かに休みの日はあまり無くて・・・実は今日も会社を抜け出して来てるの」
「人間社会は過酷なのですね・・・・・・」
共存派吸血姫である以上、人間社会に溶け込んで生活しなければならず、労働という自己犠牲の世界に飛び込む必要がある。秋穂はそんな労働社会への畏怖を抑えることができず、過激派吸血姫も実は働きたくないから荒くれ者になったのではと思う。
「お姉ちゃんの意識が戻らないとレジーナとかいう吸血姫の居場所も分からないわねぇ・・・・・・秋穂ちゃんは何か手がかりとか知らない?」
「いえ、なにも・・・レジーナは本当に慎重な吸血姫です。自分の正体に繋がる情報を残さないのです」
軟禁されていた秋穂が知ることのできる情報などたかがしれている。知っているのは傲慢で他者を利用することしか考えていない性格であることくらいか。
「どこにいようと叩き潰す。早坂さんにも手伝ってもらっているし、この街から出てさえいなければ必ず見つかるはずよ」
「レジーナはプライドが高いようですから、きっとこの街に残っていると思います。むしろお姉様への復讐心に憑りつかれているかもしれません」
「好都合ね。私に執着してくれるなら迎え撃てばいいだけのこと」
今の千秋なら真広さえ上回る力を発揮できる。それは小春のフェイバーブラッドありきでのことだが、親密なパートナーなのだから自分のモノとして勘定して問題ないだろう。
レジーナへの闘志を燃やしつつ、眠ったままの真広の顔を見下ろして回復を願う千秋であった。
戦いに一区切りは付いたが日常は続いていく。千秋達は今日も今日とて学校に登校し、人ならざる者同士の殺し合いなど知らない生徒達と退屈な授業を受けている。
「で、レジーナについて進展は?」
「なにも。あれから一週間近く経つけど動向はまだ掴めないわ。神木さんの巫女の力で導いてくれるとありがたいのだけれど?」
「無茶言わないで。巫女はエスパーじゃないのよ」
「でもあの時、真広の首輪の邪気は感じ取れたでしょう?」
「アレは尋常ならざる気配を漂わせていたからね。そういえば、あの首輪の残骸は回収したんでしょ? 何か分かったことはないの?」
真広に取り付けられていた首輪は千秋によって引き裂かれたが、残骸は持ち帰って調べていた。
「術の残滓などは残っていなかった。ただの革の塊にすぎないわ」
「そう・・・けど、吸血姫を操る催眠術なんて聞いたことがない。そんなの可能なの?」
「普通には無理よ。でもレジーナはやってみせた。不可能を可能にする敵・・・ほんと不気味よ」
もし同じ手を使って自分が操られたらと思うと寒気がする。感情が押し込まれた状態で体の制御を乗っ取られるなど想像もしたくない。
「私が操られたら小春に危害を加える前に殺してちょうだい」
「もしもの時は任せなさい。まあ殺す前に術の解除は試みてあげるわよ」
「フッ・・・私と戦ってその余裕があるかしらね?」
「余裕よ。あくびしながら片手間にやれるくらい」
そんな軽口を叩けるほど二人の信頼関係は強くなっていた。最初は敵対心や警戒心を持っていたが、共に修羅場を経験したことで吸血姫と巫女という種族を超えて仲間になることができたのだ。
「そういえば赤時小春は?」
「さっきトイレに行ったわよ」
「付いていかなかったの?」
「・・・行ってこようかしら」
その頃、トイレから出た小春はハンカチで手を拭きながら教室へと足を向けたが、背後から声をかけられて立ち止まった。
「赤時小春さん、少しよろしいですか?」
「えっ? 生徒会長・・・?」
その人物は界同世薙で人畜無害そうな笑みを浮かべながら小春に近づく。一方の小春は千秋から世薙に近づかない方がいいと助言を受けていたため、教室にいる千秋を呼ぶべきかと迷っていた。
「そう怖がらないでくださいまし。わたくしも吸血姫ですが、アナタに危害を加えようとは思いません」
「は、はぁ・・・・・・」
「アナタは千祟千秋の協力者なのですね? 吸血姫同士の戦争に参加しているという話しを耳にしまして」
「それがなんです?」
「興味がありまして。人間であるアナタが何故吸血姫のいざこざに首を突っ込むのかと」
世薙は純粋に疑問に思っているようで小春の瞳を覗き込む。まるで心までをも覗こうとしているようで、小春は不快に感じて目を背けた。
「・・・千秋ちゃんは私の大切な人なんです。だから手伝う。いけないですか?」
「そうですか。まあそれはいいのですが、千祟千秋の強さの秘訣を知りませんか? どうやら小根山の戦いで千祟真広に勝ったらしいではないですか。そんな強さをどうやって手に入れたのかを知りたいのです」
「そんなの・・・単に千秋ちゃんが強いだけです。秘訣なんて分かりません」
「ふーむ・・・明らかに性能アップしたように感じるのですけどねぇ・・・数か月前に二人が戦った時は、真広のほうが優勢だったらしいのですが」
小春と出会う以前にも千秋と真広が戦ったことがあった。その時は終始真広が優勢で千秋はどうにか生還できたレベルだったのだ。なのに真広を千秋が上回ったことに世薙は疑問を抱いているらしい。
「前にも言ったけれど、アナタには関係ないことよ」
怒気を孕んだ声が廊下に響く。声の主は確認するまでもなく千秋だと小春には分かり、ホッとしながら胸をなで下ろした。
千秋は小春の手を握り一歩前に出て世薙と相対する。
「どうして私を詮索するの? 少し前にも同じようなことを訊いてきたわよね」
「わたくしも前に言ったでしょう? アナタのような強い力を持った者が恐ろしいからです。強い力は災いを呼ぶ・・・特に千祟家は吸血姫すら畏怖する恐怖の象徴。そんな相手が益々力を付けているとなれば、わたくしのような脆弱な吸血姫が警戒するのは普通でしょう?」
「恐怖の象徴に喧嘩を売っておいてよく言う・・・アンタが恐れるべきは別にいるわよ」
「誰です?」
「レジーナよ」
千秋自身は負の吸血姫になるつもりはない。現実に迫る脅威はレジーナであり、世薙が恐れるべきはその吸血姫なのだと千秋は諭そうとする。
「レジーナという吸血姫が影で暗躍している敵よ。真広すら手駒にしてね」
「ほう・・・レジーナ、ですか?」
「アナタお得意の諜報活動で居場所を掴めたりできないのかしら?」
「そう言われましても・・・・・・」
世薙は独自の情報網を持っているようで、度々千秋達に過激派吸血姫の潜伏場所などを知らせてきた。ならばレジーナについても知っているのではと訊いたのだが、世薙は首を傾げるだけで有益な情報は持っていないらしい。
「私を探る前にレジーナについて調べたほうがいいわよ。それじゃ」
「あっ、お待ちになってくださいな。丁度、千秋さん達にお願いしたいことがありましたの」
「よくも頼み事など・・・・・・」
面の皮が厚いというか、都合のいい奴だなと千秋はため息をつく。
無視することもできたのだが、また後で何を言われるか分からず仕方なく世薙のお願いとやらについて聞いてみることにした。
-続く-
「まったく不愉快だな・・・千祟め・・・・・・」
レジーナは肩に付着していた葉っぱを落としつつボヤく。ここ最近、千秋のせいで計画が乱れに乱れて破綻していた。保有していた戦力も大損害を受けて残り少なく、もう一大攻勢をかけることもできない。
「まーた失敗したん?」
地下の遊戯室でくつろいでいた宝条は、不機嫌さを隠さないレジーナの様子からまた千秋達に負けたのだろうと推察する。
「千祟秋穂が裏切った。そのせいで廃旅館に傀儡吸血姫を蓄えていたことが敵にバレて、しかも千祟真広を取り返されてしまった」
「千祟真広まで? それはマズいんじゃないの?」
真広を表舞台に立たせ自分が裏から操って戦争をコントロールするのがレジーナのやり方だった。それなのに真広を失っては作戦行動に支障が出るのは間違いなく、傀儡吸血姫を増やそうにもこれまで以上に苦労するのは目に見えていた。
「だからこの家を捨てる。千祟真広にはこの場所を知られているからな」
「ちぇー・・・お気に入りだったんだけどなあ・・・・・・」
「仕方ないだろう。他の場所だって楽園にすることはできる。まずは生き延びねばならない」
秋穂を閉じ込めていたボロ小屋もそうだがレジーナはいくつかの拠点を用意していた。この邸宅はその中でも居心地が良く、レジーナの本拠点として活用されていたが真広の目が覚めれば千秋達に場所がバレて襲われることだろう。
「退却の準備をしろ。三十分後には出発し、この邸宅は破壊する」
もしもの時に備えて複数のお手製爆弾を仕掛けてある。それを起爆し自らがいたという証拠もろとも消し炭にするつもりであった。
「こうなれば、やはりブラッディ・コアを使って逆転を狙うしかない」
「けれど稼働に至るまでにはまだ条件に足りないんだろう?」
「方法は考えるさ。それに平行して、千祟千秋達の監視を強化しないとな」
共存派の吸血姫は他にもいるが、特に脅威的なのは千秋一行だ。彼女達をどうにか始末しなければ今後も邪魔をされてレジーナ自身の命も危険に晒される。
「フェイバーブラッドでもあればな・・・・・・」
吸血姫にとって恵みの血とされているフェイバーブラッド。それさえ手に入れられれば、この不利な状況を覆すことだってできるだろう。
レジーナはフェイバーブラッドへの渇望を口にしつつ、自室へと持ち出すべき荷物を回収しに向かうのだった。
廃旅館での戦いの翌日、千秋達は真広の入院している病院へと来ていた。この病院に勤める吸血姫は早坂の友人であったようで、特別に用意された個室に真広は入院している。
「秋穂、様子はどう?」
「お母様はまだ目覚めません。体に異常は無いようですが・・・・・・」
真広は肉体的ダメージを負ってはおらず、検査の結果、体は健康そのものであった。しかし長い間強力な催眠下にあり精神的な被害は計り知れない。更に催眠の乱れによって生じた負荷がかかってショック状態になってしまったことから意識回復には至っていないのだ。
「秋穂ちゃんも休んだほうがいいわ。わたしが休みの日は交代しましょうか?」
「私は平気です。お母様の傍にいられることが幸せですので・・・それにお姉様に窺ったのですが叔母様は休みがほとんど無いと・・・・・・」
「た、確かに休みの日はあまり無くて・・・実は今日も会社を抜け出して来てるの」
「人間社会は過酷なのですね・・・・・・」
共存派吸血姫である以上、人間社会に溶け込んで生活しなければならず、労働という自己犠牲の世界に飛び込む必要がある。秋穂はそんな労働社会への畏怖を抑えることができず、過激派吸血姫も実は働きたくないから荒くれ者になったのではと思う。
「お姉ちゃんの意識が戻らないとレジーナとかいう吸血姫の居場所も分からないわねぇ・・・・・・秋穂ちゃんは何か手がかりとか知らない?」
「いえ、なにも・・・レジーナは本当に慎重な吸血姫です。自分の正体に繋がる情報を残さないのです」
軟禁されていた秋穂が知ることのできる情報などたかがしれている。知っているのは傲慢で他者を利用することしか考えていない性格であることくらいか。
「どこにいようと叩き潰す。早坂さんにも手伝ってもらっているし、この街から出てさえいなければ必ず見つかるはずよ」
「レジーナはプライドが高いようですから、きっとこの街に残っていると思います。むしろお姉様への復讐心に憑りつかれているかもしれません」
「好都合ね。私に執着してくれるなら迎え撃てばいいだけのこと」
今の千秋なら真広さえ上回る力を発揮できる。それは小春のフェイバーブラッドありきでのことだが、親密なパートナーなのだから自分のモノとして勘定して問題ないだろう。
レジーナへの闘志を燃やしつつ、眠ったままの真広の顔を見下ろして回復を願う千秋であった。
戦いに一区切りは付いたが日常は続いていく。千秋達は今日も今日とて学校に登校し、人ならざる者同士の殺し合いなど知らない生徒達と退屈な授業を受けている。
「で、レジーナについて進展は?」
「なにも。あれから一週間近く経つけど動向はまだ掴めないわ。神木さんの巫女の力で導いてくれるとありがたいのだけれど?」
「無茶言わないで。巫女はエスパーじゃないのよ」
「でもあの時、真広の首輪の邪気は感じ取れたでしょう?」
「アレは尋常ならざる気配を漂わせていたからね。そういえば、あの首輪の残骸は回収したんでしょ? 何か分かったことはないの?」
真広に取り付けられていた首輪は千秋によって引き裂かれたが、残骸は持ち帰って調べていた。
「術の残滓などは残っていなかった。ただの革の塊にすぎないわ」
「そう・・・けど、吸血姫を操る催眠術なんて聞いたことがない。そんなの可能なの?」
「普通には無理よ。でもレジーナはやってみせた。不可能を可能にする敵・・・ほんと不気味よ」
もし同じ手を使って自分が操られたらと思うと寒気がする。感情が押し込まれた状態で体の制御を乗っ取られるなど想像もしたくない。
「私が操られたら小春に危害を加える前に殺してちょうだい」
「もしもの時は任せなさい。まあ殺す前に術の解除は試みてあげるわよ」
「フッ・・・私と戦ってその余裕があるかしらね?」
「余裕よ。あくびしながら片手間にやれるくらい」
そんな軽口を叩けるほど二人の信頼関係は強くなっていた。最初は敵対心や警戒心を持っていたが、共に修羅場を経験したことで吸血姫と巫女という種族を超えて仲間になることができたのだ。
「そういえば赤時小春は?」
「さっきトイレに行ったわよ」
「付いていかなかったの?」
「・・・行ってこようかしら」
その頃、トイレから出た小春はハンカチで手を拭きながら教室へと足を向けたが、背後から声をかけられて立ち止まった。
「赤時小春さん、少しよろしいですか?」
「えっ? 生徒会長・・・?」
その人物は界同世薙で人畜無害そうな笑みを浮かべながら小春に近づく。一方の小春は千秋から世薙に近づかない方がいいと助言を受けていたため、教室にいる千秋を呼ぶべきかと迷っていた。
「そう怖がらないでくださいまし。わたくしも吸血姫ですが、アナタに危害を加えようとは思いません」
「は、はぁ・・・・・・」
「アナタは千祟千秋の協力者なのですね? 吸血姫同士の戦争に参加しているという話しを耳にしまして」
「それがなんです?」
「興味がありまして。人間であるアナタが何故吸血姫のいざこざに首を突っ込むのかと」
世薙は純粋に疑問に思っているようで小春の瞳を覗き込む。まるで心までをも覗こうとしているようで、小春は不快に感じて目を背けた。
「・・・千秋ちゃんは私の大切な人なんです。だから手伝う。いけないですか?」
「そうですか。まあそれはいいのですが、千祟千秋の強さの秘訣を知りませんか? どうやら小根山の戦いで千祟真広に勝ったらしいではないですか。そんな強さをどうやって手に入れたのかを知りたいのです」
「そんなの・・・単に千秋ちゃんが強いだけです。秘訣なんて分かりません」
「ふーむ・・・明らかに性能アップしたように感じるのですけどねぇ・・・数か月前に二人が戦った時は、真広のほうが優勢だったらしいのですが」
小春と出会う以前にも千秋と真広が戦ったことがあった。その時は終始真広が優勢で千秋はどうにか生還できたレベルだったのだ。なのに真広を千秋が上回ったことに世薙は疑問を抱いているらしい。
「前にも言ったけれど、アナタには関係ないことよ」
怒気を孕んだ声が廊下に響く。声の主は確認するまでもなく千秋だと小春には分かり、ホッとしながら胸をなで下ろした。
千秋は小春の手を握り一歩前に出て世薙と相対する。
「どうして私を詮索するの? 少し前にも同じようなことを訊いてきたわよね」
「わたくしも前に言ったでしょう? アナタのような強い力を持った者が恐ろしいからです。強い力は災いを呼ぶ・・・特に千祟家は吸血姫すら畏怖する恐怖の象徴。そんな相手が益々力を付けているとなれば、わたくしのような脆弱な吸血姫が警戒するのは普通でしょう?」
「恐怖の象徴に喧嘩を売っておいてよく言う・・・アンタが恐れるべきは別にいるわよ」
「誰です?」
「レジーナよ」
千秋自身は負の吸血姫になるつもりはない。現実に迫る脅威はレジーナであり、世薙が恐れるべきはその吸血姫なのだと千秋は諭そうとする。
「レジーナという吸血姫が影で暗躍している敵よ。真広すら手駒にしてね」
「ほう・・・レジーナ、ですか?」
「アナタお得意の諜報活動で居場所を掴めたりできないのかしら?」
「そう言われましても・・・・・・」
世薙は独自の情報網を持っているようで、度々千秋達に過激派吸血姫の潜伏場所などを知らせてきた。ならばレジーナについても知っているのではと訊いたのだが、世薙は首を傾げるだけで有益な情報は持っていないらしい。
「私を探る前にレジーナについて調べたほうがいいわよ。それじゃ」
「あっ、お待ちになってくださいな。丁度、千秋さん達にお願いしたいことがありましたの」
「よくも頼み事など・・・・・・」
面の皮が厚いというか、都合のいい奴だなと千秋はため息をつく。
無視することもできたのだが、また後で何を言われるか分からず仕方なく世薙のお願いとやらについて聞いてみることにした。
-続く-
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来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。
中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。
26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。
勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。
同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。
――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。
「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。
だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった!
経営者は魔族、同僚はガチの魔物。
魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活!
やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。
笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。
現代×異世界×職場コメディ、開園!
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