フェイバーブラッド ~吸血姫と純血のプリンセス~

ヤマタ

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第36話 弟子志望の吸血姫

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 ニコやかな笑顔を浮かべる世薙だが、どこか不気味で千秋は不愉快そうに睨みつけた。先程まで恐怖の象徴だのと煽ってきていたクセに、頼み事をしてくる根性だけは大したものだと思う。

「実はわたくしの妹、二葉(ふたば)が過激派吸血姫狩りをすると言い出しましてね。それがアナタに憧れてのことらしいのですが、わたくしは反対なのです。戦いに身を投じるなど厄介事に巻き込まれるだけで英雄にはなれませんもの」

「立派な妹さんじゃない? 逃げ隠れて、挙句は自分の学校の生徒を暗殺しようと企む卑怯者よりはよほどね」

「・・・わたくしはその程度で怒ったりしませんわ。それより、妹が夜な夜な街へ繰り出して過激派を探すのを止めてほしいのですよ。二葉は貧弱で戦いに耐えられるような吸血姫ではないのです。わたくしの家の近くにある閉鎖された市民体育館に傀儡吸血姫が出入りしているなんて目撃情報もありますし、もしものことがあったらと思うと・・・・・・」

「そんなに心配なら自分でどうにかすればいいでしょう? それでも姉なの?」

 およそ妹のことが心配とは思っていないような言い方だ。自分の家族なら自分で探すなりすればいいだろうと千秋は抗議する。 

「わたくしの言う事を聞かないで無駄に正義感に駆られての行動のようですわ。それにわたくしも弱い吸血姫なのですから過激派が跳梁闊歩する場所など出歩きたくないのです。アナタが善良な吸血姫なら、か弱い者を見捨てるなどしませんわよね?」

「生憎私は大衆的な正義の味方ではなく、自分の中の正義に則って行動しているの。まあアナタがクズでも私に憧れるようなマトモな妹さんは見捨てはしないわ。言われた通り過激派狩りのついでに探して家に帰るよう言ってあげるわよ」

「それはどうも。二葉はわたくしに似て美形ですから、すぐに分かりますわ」

「ああそう・・・・・・」

 千秋は肩をすくめ、どこまでコイツは人をムカつかせるのが得意なのかとため息をつく。
 世薙は用は済んだと背を向けて立ち去ろうとしたがクルッと首と視線だけを小春に向けてきた。

「赤時さん。吸血姫の世界に関わるのはお止めになったほうが身のためですわよ。アナタのような人間が関わるべきではありませんわ。いずれ後悔することになるやもしれません」

「どんな困難があったとしても後悔なんてしません」

「ほう?」

「私は直接は戦えないけど千秋ちゃんと共に頑張るって決めていますから」

 小春はグッと拳を胸の前で握りしめながらそう答える。確かに戦場に立つのは怖いが千秋を支えるという決意が変わることは無い。

「そうですか。千秋さん、いいご友人を持ちましたね?」

「ええ。私にとってかけがえのない存在よ。そういう感覚、アナタには分からないでしょうね?」

「分かりませんわ。他者に全幅の信頼を寄せるなんて感覚は。わたくしは誰も信用していません。吸血姫も人間も、結局最後は一人ですわ」

「私と小春はずっと二人一緒よ。最後まで」

 これは双方の価値観の相違だ。元は千秋も世薙に近い考えではあったが小春との出会いが全てを塗り替えた。そうした運命の出会いが世薙にもあれば、あるいは千秋側になっていたかもしれない。
 立ち去る世薙を見送り、千秋は小春の手を引いて教室へと引き返していく。

「小春、アイツには関わってはダメよ。また一人の時に話しかけられたら、すぐに私を呼んで」

「う、うん。それでさ、生徒会長の頼み事なんだけど・・・・・・」

「一応は引き受けようと思うの。アイツが言うには二葉さんは私に憧れているらしいし、アイツのためではなく二葉さんのためにね」

「千秋ちゃんもついに憧れられるほどの存在になったかぁ。嬉しいような寂しいような・・・・・・」

「ふふ・・・心配しなくても、私の特別は小春だけよ」

 千秋が皆に認められて尊敬されるのは小春にとって喜ばしいことだが、同時に千秋が誰かに盗られてしまうのではという不安もあったのだ。しかし、そんな心配など千秋の笑顔が消してくれる。





「なるほどね・・・それで捜索をするって?」

 深夜、千秋は小春だけでなく、朱音や愛佳も引き連れて人気の無い街中を移動する。いつ傀儡吸血姫と遭遇するか分からないので気を張って周囲を警戒しながらだ。

「そうよ。容姿は界同世薙に似ているらしいから、きっと見たらすぐに分かるわよ」

「嫌味な性格がもろに現れた顔つきってことか?」

「実際に見たことはないけど、それはないんじゃないかしら」

「まっ、ちーちに憧れているってんなら善良な吸血姫だろうな?」

「そういうことよ」

 千秋は若干のドヤ顔だ。それに対して朱音は複雑そうに腕を組んでいる。

「相田さんが引っかかっているのは界同世薙の依頼ってことね?」

「そうさ。だってさ、アイツの依頼や情報通りに動くと大抵大変な事態に陥るじゃんさ」

「確かにね。でも無駄ではなかったし今回はそんな面倒事に巻き込まれはしないわよ」

「だといいけど・・・・・・」

 世薙を信頼していないのはここにいる全員がそうだが、朱音は特に世薙を不気味に感じていた。だから今回の事にも何か裏があるのではと勘ぐってしまうのだ。

「界同世薙の住む住宅街の近くにある閉鎖された市民体育館に向かうわよ。そこに傀儡吸血姫が見かけられたらしいの」

 千秋の住んでいる地区とは離れた場所で、一般的な住宅街の一角にその市民体育館はある。以前に比べて利用者が減少したことと、市の財政悪化が原因で運営が困難となり破棄されることになった。結果、人の立ち入りがなくなり過激派吸血姫に目を付けられたのだろう。

「あっ、アレね」

 千秋の指さす先、フェンスに囲まれた立派な建築物が見えてきた。公的な目的で建てられた施設は大抵の場合外観が豪勢で機能に関係ないところにまで力を入れるから予算を圧迫するのだが、役人どもはそれに気がつかない。

「フェンスは錆びてるけど開いている箇所はないか・・・まあ吸血姫には関係ないけどね」

 朱音は歪んだフェンスの一部を掴んで、まるで紙のように軽く引き裂いた。警報装置などもなく簡単に敷地内に潜入して二階建ての体育館へと近づく。

「ん?・・・建物の中から物音がするな」

 割れた窓から乾いた金属音が数回聞こえてきた。何かが落下した音というより軽い金属同士が打ち付け合ったような音だ。その違いは些細なモノではあるが、戦闘音かそうでないかの判断材料になる。

「剣か刀をぶつけ合ったような音だ」

「ということは、吸血姫同士で戦っているのかも。中に入りましょう」

 ガラス片に刺さらないよう気を付けながら、千秋達は割れた窓ガラスから内部に入った。その直後、再び先ほどの金属音が三回響く。

「気配がする。吸血姫がいるわ」

「さすが巫女さん。カンが鋭いね」

「このくらいアンタだって感じられるでしょ」

「確かにアタシは結構感じやすいかも」

「・・・あたしの言っているのと意味は同じよね?」

 すぐに卑猥なことを考える朱音はさておき、愛佳は気配のする方向へと足を向ける。

「でも殺気はしない・・・戦っているとしたら妙ね・・・・・・」

 戦場では殺気が渦巻くものだ。歴戦の戦士はそれを感じ取り敵の位置を把握できるレベルになる。なので殺気の無い戦場など愛佳には不可思議に思えた。

「扉の向こう、バスケットコートね。いくわよ」

 愛佳が扉をバンッと勢いよく開きバスケットコート内に突入すると、一人の吸血姫と三体の傀儡吸血姫が魔具を構えて対峙していた。

「あのコは界同二葉ね・・・・・・」

 千秋はその吸血姫が世薙の妹であると直感した。彼女の顔は邪気の抜けた世薙そのもので、身長が少し低い以外はほとんど似ている。

「あっ・・・千祟先輩・・・・・・」

「アナタは下がっていなさい」

 千秋は二葉の前に立って敵と向き合うと、刀を握りしめて傀儡吸血姫に突っ込んだ。

「切り裂く・・・!」

 この数週間で強敵と何回も相対した千秋にとって、傀儡吸血姫三体如きなどもはや敵ではない。アッという間に瞬殺し、愛佳や朱音の出番も無くすぐに戦闘は終わる。

「怪我は無いかしら?」

「は、はい! 助けていただいてありがとうございます! 千祟先輩・・・こ、光栄です!」

 二葉はぎこちなくも謝辞を述べ千秋に握手を求めてきた。

「わ、わたし憧れているんです・・・千祟先輩に」

「らしいわね。アナタ、見る目があるわね」

 差し出された手を握り、素直な憧れの目を向けられた千秋は少々カッコつけて髪をもう片方の手で靡かせる。

「で、でもどうしてここに?」

「アナタの姉、界同世薙に頼まれたのよ。妹が過激派を探して夜の街を出歩いているから連れ帰ってってね。この市民体育館には傀儡吸血姫が出入りしているという噂があるらしいし、もしかしたらアナタも来ているかと思って」

「この体育館の話を世薙お姉様から聞きまして・・・ここは自宅から近所なので、居ても立ってもいられなくて・・・・・・前日には居なかったのですけど、今日来たら傀儡吸血姫と遭遇したんです」

「アナタの行動力を界同世薙にも見習ってほしいわね」

「でもわたしには大した力もないんです・・・傀儡吸血姫にも勝てなくて」

 吸血姫といえども人間と同じように個々の能力には差がある。二葉は吸血姫としては弱く、傀儡吸血姫相手ですら苦戦を強いられるようだ。

「だから、千祟先輩にお願いがあるんです。わたしの・・・師匠になってくださいませんか!?」

 二葉のその言葉に千秋は暫し驚いたように固まっていた。


   -続く-
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