フェイバーブラッド ~吸血姫と純血のプリンセス~

ヤマタ

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第44話 九尾の狐

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 冥姫は宝条から学んだ変妖術を行使し姿を狐に変える。その図体は人間サイズと大きく、しかも尻尾は九つに分かれていて九尾の狐とも言うべきカタチになっていた。

「吸血姫ではなくて妖怪ねコレは・・・!」

 恐ろしいというより美しいと思える妖艶さを醸し出しているが、九尾の狐は人型時よりも強烈な殺気を振り撒き尖った牙で噛みつこうと跳躍してくる。

「近づいてくるのなら・・・何っ!?」

 敵から接近してくれるなら懐に潜り込むチャンスもあるだろうと思ったが、その千秋の思惑を見越したのか九尾の狐は尻尾を前に振り出した。尻尾の先端は槍のように鋭利な形状でそれを突き出してきたのである。

「けれどもっ!」

 千秋は刀で防御するが尻尾は金属のような感触で刀と打ち合い、パワー負けして千秋は押し飛ばされてしまった。

「チッ・・・・・・」

 ギリギリで落下はしなかったが更なる追撃が迫る。このままでは次の攻撃を防ぐ余裕は無く、千秋は九尾の狐に肉薄される前に別の鉄骨へと飛び移った。

「ふぅ・・・案外怖いわね」

 運よく飛び移りに成功したが幅の狭い鉄骨へと着地するのは容易なことではない。

「なのにアイツはあんな余裕そうにして・・・!」

 九尾の狐は千秋の周囲にある鉄骨を軽々と飛び移っている。さすが獣というべきかバランス感覚は人間を大きく上回っているようだ。
 千秋は敵の動きを目で追い、九尾の狐は慎重な狩猟者のように襲い掛かるタイミングを見計らっているようである。

「これは凶禍術を使うしかないようね」

 現状で九尾の狐に対抗するのは困難だ。機動性能が桁違いなので敵に追従するためには凶禍術を使うしかない。
 だが問題は凶禍術の持続時間は長くないということである。冥姫の変妖術がどれほど維持できるのかはしらないが、凶禍術の作動中に倒しきらなければ死が待っている。

「けれどやるしか勝機は無い!」

 弱気になっていては勝てる戦いも勝てはしない。こうなれば数分で決着を付ければいいのだ。

「いくわよ・・・千祟の真価を見せてあげる!」

 凶禍術を行使し千秋の美しい黒髪が真紅に染まる。そして凶暴な光が目に宿り、襲い掛かって来た九尾の狐と鍔迫り合う。





「ちーちは凶禍術を使ったのか」

 朱音は上の階で行われている戦闘を視界に捉えながらも、平子の攻撃を回避して後退する。

「ったく鬱陶しいなもう! 正々堂々と地面で戦おうぜ」

「ばーか。せっかく誘い込んだのに降りるわけないっしょ」

「でもアタシ達が地面に降りたら追ってくるしかないでしょ?」

「は? なんでよ。アンタらが降りても、ウチらはここに籠城するだけなんだが? そもそもウチらを狩りに来たアンタ達の都合に合わせる必要ないよね?」

「ですよねー」

 建設中のビルを潜伏場所に選んだのは、こうして得意なフィールドで戦うためだ。なのにワザワザ地面に降りて戦うなんて愚行はしないし、狩場として用意した場所に立て篭もって敵を見下してやればいい。

「凄いっしょ? ウチらはこういう訓練を積み重ねてきたのさ。これなら単純な強さで劣っていても勝てる見込みがあるからね」

「その労力を別のことに使えよ」

 朱音は呆れるようにヤレヤレと首を振りつつ背後に迫った傀儡吸血姫を殴り飛ばすが撃破には至らない。足に力を籠めて腰の入ったパンチを放つには足場が不安定で、上半身の捻りだけでのストレートパンチでは傀儡吸血姫を倒すこともままならなかった。

「まあでもソッチが絶対的な強者になったわけじゃねぇ。アタシらのポテンシャルをナメんなよ」

 こうなったら場に適応して戦うしかない。朱音は走り出し拳が平子を狙う。

「おっと・・・やるじゃん」

 しかし大口叩くだけあって平子は身を捻って避けた。

「冥姫さんが変妖術を使ったんだから、どの道アンタ達は生き残れはしないよ」

「そうかな? ちーちの凶禍術には及ばねぇと思うけどな。狐に化けようが瞬殺で御終いだぜ」

「冥姫さんをバカにすんな!」

 敬愛する冥姫を甘く見られたことに怒る平子は大振りに槍を振り回して朱音を攻撃する。腕に掠めながらも朱音は猛攻を躱し、足払いを仕掛けて平子を転倒させた。

「チィ!」

 しかし平子は咄嗟に受け身を取り、接近した朱音を蹴り飛ばして距離を取る。まるでプロレスのような技の応酬だ。

「すまねぇちーち・・・どうにも苦戦するぜ・・・・・・」

 愛佳も傀儡吸血姫に囲まれて動けないようだし、現状では千秋の支援はできなさそうだ。
 なので、今はせめて千秋の戦いに平子達が乱入しないように気を引くことしかできない。





 九尾の狐の突進を跳躍して回避した千秋はその背後に着地して刀を振るうが、尻尾が自衛のために乱舞して寄せ付けない。

「凶禍術でこうも押されるとはね・・・・・・」

 真広をも超える戦闘力を発揮できるはずなのだが、この戦場では最大限の性能を発揮できてはいなかった。しかし通常時よりは九尾の狐と渡り合うことができており、一瞬でも隙を見つければ致命傷を与えて倒すことはできるだろう。

「さっきと違ってパワー負けはしていない・・・ならこっちも力押しでいける!」

 刀と尻尾がかち合っても押し込まれることはなくなった。これは凶禍術で単純な力が増したからで、弾き飛ばされずに近接戦闘を続けることができる。しかし敵は九つの尻尾を巧みに操り手数で圧倒されていることには変わりはなく、向上した動体視力と反応力で上回るしかない。

「そこだっ!」

 尻尾による突きを避けた千秋は一歩前に出て刀を振りあげた。その斬撃で尻尾の一本を切り捨てて更にもう一本も切断に成功する。
 理性は失われても痛覚は失われていないようで、九尾の狐は咆哮を上げて飛び退いた。

「逃がさない!」

 凶禍術の残り時間は少ない。攻勢に出た千秋はすかさず追撃して至近距離まで詰めた。
 九尾の狐は千秋に対して全ての尻尾を横に薙ぎ払うが、千秋はかがんで躱し刀を勢いよく突き出す。

「トドメ!」

 刀身は九尾の狐の脇腹に差し込まれ真っ赤な血を吹き上げる。大きなダメージとなって九尾の狐は悶えるようにひとしきり暴れた後、姿勢を崩して落下していった。

「しまった・・・下には小春達がいるのに!」

 慌てた千秋は急いで落ちていく九尾の狐を追う。かなり重症を負っているとはいえ死んでいるわけではなく、少しでも小春達のリスクを排除しなければならない。





「わあ!? 狐が降ってきた!?」

 傀儡吸血姫を倒した二葉の前に九尾の狐が落着する。恐らく十五階辺りから落ちたのだが生きており、変妖術が解けて元の冥姫へと戻った。

「こんなハズじゃあ・・・こんな・・・・・・」

 狩場として用意したフィールドで逆に狩られることになるとは微塵も思っていなかった冥姫は、信じられないという驚愕の表情でブツブツと呟いている。傷の再生は始まっているのだが、変妖術を使ったことで体内のエネルギーが少なく溢れる血は止まらない。

「貴様だけでも道連れにしてやる!」

「こっちに来る!?」

 立ち上がった冥姫は血塗れた槍を構えて二葉に襲い掛かろうとするが、

「させないわよ!」

 ギリギリで間に合った千秋が割って入り、冥姫の胸部に刀を突き刺して一瞬にして絶命させた。

「間に合って良かった・・・けれどもパワーダウンか・・・!」

 冥姫に勝利したはいいものの凶禍術が解けて千秋も元に戻ってしまう。上の階では戦闘が続いており、ならば早急に小春から血を貰って回復するしかない。

「よくも冥姫さんを!! 絶対に許さない!」

 千秋への憎悪を滾らせて降下してくるのは平子だ。冥姫を守ることができず、あまつさえは敵の一人も倒せないことへの強烈な怒りを乗せた槍が千秋に迫る。

「ダメか・・・!」

 まともな戦闘を行えるほどの力は今の千秋には無く、いくら純血のプリンセスと謳われる最強クラスの吸血姫でも無防備だ。これでは平子の一撃を避けられない。
 しかし、

「千祟先輩!」

「二葉さん!?」

 咄嗟に走り出した二葉が千秋を横から突き飛ばす。その勢いのまま千秋は転倒し、顔を上げるとバッと血しぶきが千秋に飛び散った。

「そんな・・・!」

 先程まで千秋がいた場所で、二葉が槍によって腹部を突き刺されていた。

「お前じゃない! ウチのターゲットは!」

 殺すべき相手は二葉ではない。冥姫を殺害した千秋こそがターゲットなのだ。
 すぐさま平子は槍を引き抜き千秋へと向き直る。

「させるものかよ!」

「貴様・・・!」

 平子の近くに着地した朱音の右ストレートと、一閃する槍が交錯した。

「ちゃんとした地面なら負けねぇよ・・・・・・」

 鉄骨の上とは違い、地面ならばしっかりと足に力を籠めて一撃必殺級のパンチを繰り出せる。それに姿勢制御もしやすく、こうなれば朱音も本来の戦い方ができるのだ。
 朱音はパンチを放ちながら同時に胸を反らして槍を回避し、右手のグローブは的確に平子の頭部を直撃して粉砕した。あっけない最後ではあったが、これが本来の彼女達の実力差なのだ。

「二葉ちゃん! しっかりして!」

 朱音が平子を倒した直後、小春は二葉の元に駆け付ける。血だまりで靴が赤く染みつくのも構わずに・・・・・・


  -続く-
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