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最終話 夜明け
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逢魔凶禍術でパワーアップした千秋は、クイーンガーディアンの撃ち出す結晶体を回避して近接格闘戦に持ち込んだ。翼をはためかせ、刀を振りかざして頭部から両断しようと迫るが、
「この程度で勝てると思うなよ!」
クイーンガーディアンの腰を囲うスカートアーマーから何本もの腕が生え、それぞれが剣や槍を装備して乱舞し千秋を寄せ付けない。
「チッ・・・!」
しかし動体視力も強化されている千秋はクイーンガーディアンの攻撃を見切って斬り込む。スカートから伸びる腕の一本を切断し、レジーナ本体に素早い突きを放った。
「そんなではなぁ!」
レジーナ自身も大剣を装備して千秋の攻撃を弾く。魔具がぶつかり合って火花が散り、クイーンガーディアンの表皮を焦がした。
「さすが見事な動きだ。だがもう終わらせてやる!」
逢魔凶禍術に対して優位に戦えていることに満足感を得て強気になるレジーナ。とはいえいつまでも戦いを続けるリスクを冒す気は無く、レジーナは勝負を決めるための準備を開始する。
「これで消えてもらう。さらばだ」
大砲にも見えるクイーンガーディアンの両腕を合体させ巨大なバズーカランチャーを形成した。その砲口に光が煌めいて、一撃必殺の破壊光線を照射しようとしているのだ。
それを察知した千秋は捨て身で飛翔し、砲口の下側から接近をかける。
「自ら死ににくるとはな!」
「そんなつもりはない!」
光線が発射されようとした刹那、千秋は刀を砲口に突き刺して上へと向けさせた。
直後、太陽光をも超える光量の光が放たれ、貯水槽の天井を貫いて地上まで達する。
「くっ! 小賢しい真似を!」
「簡単にやられるかっての!」
クイーンガーディアンは腕を分離して通常状態に戻し、肘部分に折りたたまれていたブレードを展開して千秋に襲い掛かった。スカートから伸びる腕も同様に斬撃を行い、千秋は必死に対処していく。
「手数が多すぎる・・・これでは・・・!」
予想以上に強敵のクイーンガーディアンが相手では、いくら逢魔凶禍術を駆使する千秋でも厳しい。仲間の手助けがあれば逆転も可能だが単独では限界を迎えていた。
「うわっ! なんの光!?」
負傷して休んでいた愛佳のすぐ近くを閃光が走り抜ける。床をブチ抜いて天井までも貫通し、地上の景色が見えるほどの大穴が開いた。
これはクイーンガーディアンから放たれた必殺の一撃で、千秋が射線を逸らしたことで上空に向けて飛んでいったのだ。
「まったくなんなのよ・・・・・・」
危うく丸焼きにされるところだったが、しかし愛佳にはチャンスだった。天井の穴から日光が差し込んでいて、それを取り込めば体力が回復できる。
痛む体を必死に引きずりながら陽の光を浴び、どんどん愛佳は回復して目にも気力が表れていた。
「よっしゃ・・・これでまだ戦える!」
力を取り戻し、刀を握って制御室の扉をバンと勢いよく開く。
戦況を確認すると傀儡吸血姫は撃破されていたが、秋穂と二葉は体力切れを起こしており、残る宝条に朱音達は苦戦していた。あんなにも変妖術が持続させられる宝条に関心しながらも、鬱陶しい相手だと愛佳はため息をついて突撃していく。
「愛佳!? もう大丈夫なのか?」
「ええ、もう平気よ」
「へっ、これで百人力だ」
愛佳と朱音が肩を並べて宝条に相対する。美広は凶禍術が解けてパワーダウンしていた。
「一気に決めるわよ。千祟千秋の援護もしないとだから」
「ああ。もういい加減にあの不気味なコウモリは見たくないしな」
二人は同時に駆け出し宝条に攻撃をかける。左右から接近された宝条は翼をはためかせて距離を取ろうとするが、
「逃がすか!」
愛佳は刀を投擲して宝条の片翼を切り裂いた。これでは飛ぶことはできず、宝条は落下して床に倒れる。
「そこに右ストレートパーンチ!」
オーラを纏うグローブが立ち上がりかけの宝条の胸を打った。衝撃で胴体の骨が砕け、ついに宝条の変妖術が解けてよろめく。
「バカな・・・! こんな・・・!」
胸を押さえて苦しそうにしているが愛佳は容赦しない。
刀を拾い上げ一気に肉薄すると、素早い刀の一閃を繰り出して宝条の首を切断した。頭部は落下して転がり、体は力無く膝から崩れ落ちる。ようやく宝条にトドメを刺すことができたのだ。
「ふう・・・やったな」
「まったく厄介な敵だったわ」
二人は強敵を倒せたことにホッとしつつ、へたり込む美広達を気遣って近くの部屋に運ぼうとする。
その時、リフトが動いて人影が現れた。
「誰だ・・・?」
朱音は警戒しながらリフトの方を見ると二人の女性が降り、その内一人は先程愛佳を匿っていた制御室に向かう。
「早坂さん・・・?」
「お待たせしました。連絡を受けて急行してきたのですが、戦いのほうは?」
「まだ下の階でちーちが戦っています。助けないと」
「分かりました。では・・・・・・」
早坂は共に来た人物に声をかけようとするが、その人物は大穴から下の階へと先に向かってしまったようだ。
「あの人は本当に・・・まあいいです。ともかく私も下に向かいます」
「あたし達も行きますよ。ちーちに約束しましたから」
朱音だけでなく美広達も早坂と地下二階の貯水槽エリアに降りる。もう体力はあまり無いので戦力とはなれないだろうが、それでも黙って待っているなどできなかった。
逢魔凶禍術は瞬間能力こそ高いものの継戦能力は低い。そのため長期戦には向かず、千秋は弾き飛ばされて逢魔凶禍術が解けてしまった。
「これまでだな!」
こうなれば勝ち確定だとレジーナは息巻く。そして結晶体を肩から発射し、千秋を串刺しにしようとするが、
「なんと!?」
それらの攻撃は上階から落下してきた人物によって防がれてしまった。
レジーナはその援護に現れたシルエットを見て、恐怖という感情で怖気づいてしまう。
「千祟・・・真広!」
その正体が千秋の本当の母親である真広だったからだ。レジーナの特殊な催眠術によって操られていたが、千秋達によって救出された後は意識不明の状態であった。しかしようやく目覚め、早坂と共に駆け付けたのである。
真広は名家である千祟家当主として恐れられ、崇拝の対象とされることもあった。名ばかりでなく実力も確かで最強だとも噂される吸血姫であり、だからこそレジーナは配下に置いておきたかったのだ。
「真広、ママ・・・?」
「ごめんなさい千秋。あなたには迷惑をかけてしまって・・・吸血姫としても、母親としても失格だと分かっている。でもせめて、最後くらいは親としての振る舞いをさせてほしいの」
「そんな、ママが悪いんじゃない。全てはアイツの・・・・・・」
「ふふ・・・昔からの優しいあなたの顔が見れてよかった・・・・・・ケリはワタシがつける」
真広は両手に刀を携え、ゆっくりとレジーナに近づいていく。
「来るなっ! 貴様は呼んでいない!」
「ワタシ達の家族を壊しておいて、貴様は許さん!」
凶禍術を発動した真広とレジーナの交戦が始まる。
その直後、美広達も階段を使って貯水槽へと辿り着いた。
「お、お姉ちゃん!?」
「早坂さんと一緒に来たのは真広さんだったのか」
美広や朱音達もすぐさま真広の支援に移り、レジーナはクイーンガーディアンの力をもってしても追い込まれ始めた。
「こんなことが・・・! わたしこそ吸血姫の女王たる存在なのだ! だのに貴様達は・・・!」
「全てを支配できると思うな!」
真広によってスカートアーマーから展開されたサブアームのいくつかを破壊され、レジーナは現実とは思えないという驚愕の表情で絶望していた。
「千秋お姉様! これを!」
「秋穂、これは?」
「私が作っていた魔具です。千秋お姉様の力を最大限発揮できるように調整してあります。間に合わせなので完全ではありませんが・・・・・・」
「ありがとう。やってみるわ」
漆黒に赤いラインが入った秋穂お手製の刀を受け取り、千秋は小春を抱き寄せる。
「小春、私が全てを終わらせる。あなたの血を使って」
「うん! さあ千秋ちゃん」
小春の首へと歯を立て柔肌へと噛みつく。そして神秘のフェイバーブラッドを吸い、全身に巡らせていった。
「やはり小春のフェイバーブラッドは最高ね」
「えへへ、ありがと。でもどうやって勝つの?」
「策があるわ。逢魔凶禍術の伝説で語られる大技を使う。そうすればヤツをも確実に仕留められるはず」
「頑張って、千秋ちゃん!」
「いってくる」
再度逢魔凶禍術を行使し、翼を展開した千秋は刀を構える。
「皆、私がコイツを倒すわ!」
千秋の意図を察した仲間達が射線を開け、千秋とレジーナの間には一直線の空白ができた。
「千祟ども、貴様達がいなければ! 界同家こそが吸血姫の頂点として崇められ、このわたしも皆に崇拝される吸血姫になれたのに!」
完全な逆恨みだ。界同家もそこそこ名の知れた家柄であったのだが、千祟家ばかりが目立ってスポットライトが当たることはなかった。それに不満を持ち、承認欲求や支配欲の強かった世薙には我慢ならなかったのだ。だから女王を意味するレジーナを名乗って自分こそが吸血姫の頂点に立つべき存在だとして暗躍していたのである。
実際に吸血姫をも操れる催眠術を開発したり、潜在能力が高かったのだから普通に成果を発表していれば、あるいは世薙も高い地位を獲得できたはずだ。それができなかった捻くれた性格が全てを台無しにしたとは本人は気づいていない。
「罪とともに消えなさい・・・・・・世界をも破壊する一撃でね」
「調子に乗るなよ千祟千秋め!」
クイーンガーディアンの全火力で千秋を狙う。だが、それが届くことはなかった。
「いくわよ・・・・・・夢幻斬り!!」
振り下ろされた刀から虹色の光が迸る。それはまるで幻のような、幻影のような光で、敵の攻撃全てを打ち消してレジーナを照らす。
「千祟千秋! 貴様だけは・・・!」
クイーンガーディアンが融解してレジーナも最期の言葉と共に光の渦に呑み込まれていく。
夢幻(むげん)が霧散し、憎悪を振り撒いていた元凶は、もう消滅していた。
レジーナが千秋によって討伐された頃、上階で怪しく動く影があった。
「いてててて・・・まったく派手にやってくれるよ」
ゴロっと転がるのは宝条の頭で、胴体と切り離されてもなお生きていたのだ。どう考えてもこれで死なないのはオカシイのだが、吸血姫という人知を超えた存在なのだから不可思議現象の一つや二つを起こすものだと割り切るしかない。
「なんで生きてるかって? それは私が宝条だからさ」
コイツは誰に向かって説明しているんだろう?
「まあともかく逃げるとするか・・・また会おう、諸君!」
そう独り言を呟き、宝条の頭部がコウモリへと変化する。朱音達と戦っていた時ほどの大きさはなく、一般的に知られるコウモリと差はない。
クイーンガーディアンの攻撃で破壊された天井から飛び立ち、宝条は街から姿を消すのであった。
レジーナこと界同世薙との戦いが終わり、千秋と小春はひと時の平穏を満喫していた。とはいえ過激派吸血姫が全滅したわけではないので吸血姫同士の戦争は続いていくのだが、今はそんな事は忘れて二人は寄り添う。
「なんかアッという間だった。千秋ちゃんと出会って、今日までの出来事がさ」
「そうね。確かに一瞬のように感じるわ。でも私の人生は変わった・・・小春のおかげでね」
「ふふ、それなら私もだよ」
傀儡吸血姫に攫われたあの時、小春の運命は動き始めた。吸血姫と関わるようになって誰よりも大切な千秋と出会い、色々あったけど結果的には幸せだと思う。
「ねえ千秋ちゃん・・・血、吸って」
「いいわよ」
千秋は布団の上に小春を押し倒し、服を脱がせて柔肌に尖った犬歯を突き刺す。
「やっぱりコレ好き・・・・・・」
「物好きね、小春は」
「だって・・・千秋ちゃんの吸血より気持ちいいものなんてないもん」
千秋は肌から歯を抜いて小春の顔に近づいた。二人の視線と吐息が混じり合い、鼓動が重なっていく。
「これからもよろしくね、千秋ちゃん」
「ええ。ずっと一緒よ、小春」
魔の時間は終わり、夜明けを知らせる暁が窓から差し込んで少女達を包み込んでいった。
これは非日常に足を踏み入れた平凡な少女と、新たな日常を手に入れた吸血姫の少女の物語。
そして、これからも続く二人の絆の序曲。
-完-
「この程度で勝てると思うなよ!」
クイーンガーディアンの腰を囲うスカートアーマーから何本もの腕が生え、それぞれが剣や槍を装備して乱舞し千秋を寄せ付けない。
「チッ・・・!」
しかし動体視力も強化されている千秋はクイーンガーディアンの攻撃を見切って斬り込む。スカートから伸びる腕の一本を切断し、レジーナ本体に素早い突きを放った。
「そんなではなぁ!」
レジーナ自身も大剣を装備して千秋の攻撃を弾く。魔具がぶつかり合って火花が散り、クイーンガーディアンの表皮を焦がした。
「さすが見事な動きだ。だがもう終わらせてやる!」
逢魔凶禍術に対して優位に戦えていることに満足感を得て強気になるレジーナ。とはいえいつまでも戦いを続けるリスクを冒す気は無く、レジーナは勝負を決めるための準備を開始する。
「これで消えてもらう。さらばだ」
大砲にも見えるクイーンガーディアンの両腕を合体させ巨大なバズーカランチャーを形成した。その砲口に光が煌めいて、一撃必殺の破壊光線を照射しようとしているのだ。
それを察知した千秋は捨て身で飛翔し、砲口の下側から接近をかける。
「自ら死ににくるとはな!」
「そんなつもりはない!」
光線が発射されようとした刹那、千秋は刀を砲口に突き刺して上へと向けさせた。
直後、太陽光をも超える光量の光が放たれ、貯水槽の天井を貫いて地上まで達する。
「くっ! 小賢しい真似を!」
「簡単にやられるかっての!」
クイーンガーディアンは腕を分離して通常状態に戻し、肘部分に折りたたまれていたブレードを展開して千秋に襲い掛かった。スカートから伸びる腕も同様に斬撃を行い、千秋は必死に対処していく。
「手数が多すぎる・・・これでは・・・!」
予想以上に強敵のクイーンガーディアンが相手では、いくら逢魔凶禍術を駆使する千秋でも厳しい。仲間の手助けがあれば逆転も可能だが単独では限界を迎えていた。
「うわっ! なんの光!?」
負傷して休んでいた愛佳のすぐ近くを閃光が走り抜ける。床をブチ抜いて天井までも貫通し、地上の景色が見えるほどの大穴が開いた。
これはクイーンガーディアンから放たれた必殺の一撃で、千秋が射線を逸らしたことで上空に向けて飛んでいったのだ。
「まったくなんなのよ・・・・・・」
危うく丸焼きにされるところだったが、しかし愛佳にはチャンスだった。天井の穴から日光が差し込んでいて、それを取り込めば体力が回復できる。
痛む体を必死に引きずりながら陽の光を浴び、どんどん愛佳は回復して目にも気力が表れていた。
「よっしゃ・・・これでまだ戦える!」
力を取り戻し、刀を握って制御室の扉をバンと勢いよく開く。
戦況を確認すると傀儡吸血姫は撃破されていたが、秋穂と二葉は体力切れを起こしており、残る宝条に朱音達は苦戦していた。あんなにも変妖術が持続させられる宝条に関心しながらも、鬱陶しい相手だと愛佳はため息をついて突撃していく。
「愛佳!? もう大丈夫なのか?」
「ええ、もう平気よ」
「へっ、これで百人力だ」
愛佳と朱音が肩を並べて宝条に相対する。美広は凶禍術が解けてパワーダウンしていた。
「一気に決めるわよ。千祟千秋の援護もしないとだから」
「ああ。もういい加減にあの不気味なコウモリは見たくないしな」
二人は同時に駆け出し宝条に攻撃をかける。左右から接近された宝条は翼をはためかせて距離を取ろうとするが、
「逃がすか!」
愛佳は刀を投擲して宝条の片翼を切り裂いた。これでは飛ぶことはできず、宝条は落下して床に倒れる。
「そこに右ストレートパーンチ!」
オーラを纏うグローブが立ち上がりかけの宝条の胸を打った。衝撃で胴体の骨が砕け、ついに宝条の変妖術が解けてよろめく。
「バカな・・・! こんな・・・!」
胸を押さえて苦しそうにしているが愛佳は容赦しない。
刀を拾い上げ一気に肉薄すると、素早い刀の一閃を繰り出して宝条の首を切断した。頭部は落下して転がり、体は力無く膝から崩れ落ちる。ようやく宝条にトドメを刺すことができたのだ。
「ふう・・・やったな」
「まったく厄介な敵だったわ」
二人は強敵を倒せたことにホッとしつつ、へたり込む美広達を気遣って近くの部屋に運ぼうとする。
その時、リフトが動いて人影が現れた。
「誰だ・・・?」
朱音は警戒しながらリフトの方を見ると二人の女性が降り、その内一人は先程愛佳を匿っていた制御室に向かう。
「早坂さん・・・?」
「お待たせしました。連絡を受けて急行してきたのですが、戦いのほうは?」
「まだ下の階でちーちが戦っています。助けないと」
「分かりました。では・・・・・・」
早坂は共に来た人物に声をかけようとするが、その人物は大穴から下の階へと先に向かってしまったようだ。
「あの人は本当に・・・まあいいです。ともかく私も下に向かいます」
「あたし達も行きますよ。ちーちに約束しましたから」
朱音だけでなく美広達も早坂と地下二階の貯水槽エリアに降りる。もう体力はあまり無いので戦力とはなれないだろうが、それでも黙って待っているなどできなかった。
逢魔凶禍術は瞬間能力こそ高いものの継戦能力は低い。そのため長期戦には向かず、千秋は弾き飛ばされて逢魔凶禍術が解けてしまった。
「これまでだな!」
こうなれば勝ち確定だとレジーナは息巻く。そして結晶体を肩から発射し、千秋を串刺しにしようとするが、
「なんと!?」
それらの攻撃は上階から落下してきた人物によって防がれてしまった。
レジーナはその援護に現れたシルエットを見て、恐怖という感情で怖気づいてしまう。
「千祟・・・真広!」
その正体が千秋の本当の母親である真広だったからだ。レジーナの特殊な催眠術によって操られていたが、千秋達によって救出された後は意識不明の状態であった。しかしようやく目覚め、早坂と共に駆け付けたのである。
真広は名家である千祟家当主として恐れられ、崇拝の対象とされることもあった。名ばかりでなく実力も確かで最強だとも噂される吸血姫であり、だからこそレジーナは配下に置いておきたかったのだ。
「真広、ママ・・・?」
「ごめんなさい千秋。あなたには迷惑をかけてしまって・・・吸血姫としても、母親としても失格だと分かっている。でもせめて、最後くらいは親としての振る舞いをさせてほしいの」
「そんな、ママが悪いんじゃない。全てはアイツの・・・・・・」
「ふふ・・・昔からの優しいあなたの顔が見れてよかった・・・・・・ケリはワタシがつける」
真広は両手に刀を携え、ゆっくりとレジーナに近づいていく。
「来るなっ! 貴様は呼んでいない!」
「ワタシ達の家族を壊しておいて、貴様は許さん!」
凶禍術を発動した真広とレジーナの交戦が始まる。
その直後、美広達も階段を使って貯水槽へと辿り着いた。
「お、お姉ちゃん!?」
「早坂さんと一緒に来たのは真広さんだったのか」
美広や朱音達もすぐさま真広の支援に移り、レジーナはクイーンガーディアンの力をもってしても追い込まれ始めた。
「こんなことが・・・! わたしこそ吸血姫の女王たる存在なのだ! だのに貴様達は・・・!」
「全てを支配できると思うな!」
真広によってスカートアーマーから展開されたサブアームのいくつかを破壊され、レジーナは現実とは思えないという驚愕の表情で絶望していた。
「千秋お姉様! これを!」
「秋穂、これは?」
「私が作っていた魔具です。千秋お姉様の力を最大限発揮できるように調整してあります。間に合わせなので完全ではありませんが・・・・・・」
「ありがとう。やってみるわ」
漆黒に赤いラインが入った秋穂お手製の刀を受け取り、千秋は小春を抱き寄せる。
「小春、私が全てを終わらせる。あなたの血を使って」
「うん! さあ千秋ちゃん」
小春の首へと歯を立て柔肌へと噛みつく。そして神秘のフェイバーブラッドを吸い、全身に巡らせていった。
「やはり小春のフェイバーブラッドは最高ね」
「えへへ、ありがと。でもどうやって勝つの?」
「策があるわ。逢魔凶禍術の伝説で語られる大技を使う。そうすればヤツをも確実に仕留められるはず」
「頑張って、千秋ちゃん!」
「いってくる」
再度逢魔凶禍術を行使し、翼を展開した千秋は刀を構える。
「皆、私がコイツを倒すわ!」
千秋の意図を察した仲間達が射線を開け、千秋とレジーナの間には一直線の空白ができた。
「千祟ども、貴様達がいなければ! 界同家こそが吸血姫の頂点として崇められ、このわたしも皆に崇拝される吸血姫になれたのに!」
完全な逆恨みだ。界同家もそこそこ名の知れた家柄であったのだが、千祟家ばかりが目立ってスポットライトが当たることはなかった。それに不満を持ち、承認欲求や支配欲の強かった世薙には我慢ならなかったのだ。だから女王を意味するレジーナを名乗って自分こそが吸血姫の頂点に立つべき存在だとして暗躍していたのである。
実際に吸血姫をも操れる催眠術を開発したり、潜在能力が高かったのだから普通に成果を発表していれば、あるいは世薙も高い地位を獲得できたはずだ。それができなかった捻くれた性格が全てを台無しにしたとは本人は気づいていない。
「罪とともに消えなさい・・・・・・世界をも破壊する一撃でね」
「調子に乗るなよ千祟千秋め!」
クイーンガーディアンの全火力で千秋を狙う。だが、それが届くことはなかった。
「いくわよ・・・・・・夢幻斬り!!」
振り下ろされた刀から虹色の光が迸る。それはまるで幻のような、幻影のような光で、敵の攻撃全てを打ち消してレジーナを照らす。
「千祟千秋! 貴様だけは・・・!」
クイーンガーディアンが融解してレジーナも最期の言葉と共に光の渦に呑み込まれていく。
夢幻(むげん)が霧散し、憎悪を振り撒いていた元凶は、もう消滅していた。
レジーナが千秋によって討伐された頃、上階で怪しく動く影があった。
「いてててて・・・まったく派手にやってくれるよ」
ゴロっと転がるのは宝条の頭で、胴体と切り離されてもなお生きていたのだ。どう考えてもこれで死なないのはオカシイのだが、吸血姫という人知を超えた存在なのだから不可思議現象の一つや二つを起こすものだと割り切るしかない。
「なんで生きてるかって? それは私が宝条だからさ」
コイツは誰に向かって説明しているんだろう?
「まあともかく逃げるとするか・・・また会おう、諸君!」
そう独り言を呟き、宝条の頭部がコウモリへと変化する。朱音達と戦っていた時ほどの大きさはなく、一般的に知られるコウモリと差はない。
クイーンガーディアンの攻撃で破壊された天井から飛び立ち、宝条は街から姿を消すのであった。
レジーナこと界同世薙との戦いが終わり、千秋と小春はひと時の平穏を満喫していた。とはいえ過激派吸血姫が全滅したわけではないので吸血姫同士の戦争は続いていくのだが、今はそんな事は忘れて二人は寄り添う。
「なんかアッという間だった。千秋ちゃんと出会って、今日までの出来事がさ」
「そうね。確かに一瞬のように感じるわ。でも私の人生は変わった・・・小春のおかげでね」
「ふふ、それなら私もだよ」
傀儡吸血姫に攫われたあの時、小春の運命は動き始めた。吸血姫と関わるようになって誰よりも大切な千秋と出会い、色々あったけど結果的には幸せだと思う。
「ねえ千秋ちゃん・・・血、吸って」
「いいわよ」
千秋は布団の上に小春を押し倒し、服を脱がせて柔肌に尖った犬歯を突き刺す。
「やっぱりコレ好き・・・・・・」
「物好きね、小春は」
「だって・・・千秋ちゃんの吸血より気持ちいいものなんてないもん」
千秋は肌から歯を抜いて小春の顔に近づいた。二人の視線と吐息が混じり合い、鼓動が重なっていく。
「これからもよろしくね、千秋ちゃん」
「ええ。ずっと一緒よ、小春」
魔の時間は終わり、夜明けを知らせる暁が窓から差し込んで少女達を包み込んでいった。
これは非日常に足を踏み入れた平凡な少女と、新たな日常を手に入れた吸血姫の少女の物語。
そして、これからも続く二人の絆の序曲。
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退会済ユーザのコメントです
閲覧頂きありがとうございます!
吸血姫という設定は自分でも気に入っておりまして、女の子の吸血鬼を題材にした作品だと分かりやすく表現できたのかなと思います。
今後も投稿を続けていきますので是非続きもご覧ください!