巨骸山脈

n_tsutamoto

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第一章 旅立ち

4. 次の一歩

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翌日、昨日と同じように学校に行くふりをしながらサイン入りの書類を持って役所へ向かった。
昨日とは少し外壁の模様が微妙に異なっているような気がしたが、気のせいだろうか。
役所の中に入ると、労働相談の窓口にはすでに何人かが並んでいた。
僕と同じように仕事を探している人たちだろう。
順番が来ると、受付の職員が昨日と同じように無表情のまま顔を上げる。
「......もう持ってきたんですか?」
覚えていたのかと驚いたが、昨日の今日で、しかも子供となると印象に残るのも当たり前かもしれない。
これで足りてますか、と書類を手渡しながら椅子に腰かけた。
書類を受け取った職員は大きなため息をついてから、一つずつ内容を確認してペンを走らせる。
一通り書き込んだあと机の下から大きな印を取り出し、沈んだ表情で尋ねてきた。
「書類は問題ないですが、本当にいいんですか......?」
彼の優しさなのだろうと思う。
僕が、大丈夫です、と強く告げると、苦々しい顔で重々しく書類に大きな判を押した。
「以上でここでの手続きは完了となります。こちらの書類が案内になりますので、詳細は内容を確認してください。」
ありがとうございます、と返事をして書類を受け取ると、職員は元の無表情な顔に戻っていた。

役所を出たあと、受け取った書類を読みながら学校へ向かった。
どうやら、役所の手続きでは労働契約が完了していないらしい。
身体検査と簡単な面接の後、正式に労働契約が結ばれるという。
こういう大事なことは口頭で伝えるべきだと思うが、労働職員の優しさだと思うことにした。
僕の検査はどうやら明日らしい。
なんとも急だが、早いほうがありがたいのも事実だった。

学校に着くとちょうど休憩時間が終わるタイミングだったのでそのまま教室に入ると、またしてもテオに絡まれた。
「どうしたんだ......?」
2日連続でサボるなど今までの僕では考えられなかったのか、テオは真剣な表情で声をかけてきた。
あとで詳しく話すよ、と返すと、納得のいかない顔で自分の席に帰っていった。

授業が終わり、テオが一緒に帰ろうと誘ってきた。
二人きりで帰るのは久しぶりかもしれない。
学校を出た途端、テオが待ちきれないように口を開いた。
「で、何があったんだ?」
どうせ隠してもテオにはばれるだろうし、ありのままを話すことにした。
「維持薬の配給が減ったんだ。だから、働くことにした。」
テオは一瞬、まさかという顔をした後、小さく息をついた。
「学校は辞めて、働くってことか?」
「うん、命のほうが大事だから。」
テオは僕の家が貧しいことも知っているし、お父さんが政府系の仕事をしているはずだから、維持薬の現状にも詳しいはずだ。
どこで働くんだ、と聞かれたから、巨骸の採掘場に申し込んだことを伝えた瞬間、テオの目が見開かれた。
「な、なんでそんな危険な......」
「実は、前から行ってみたいと思ってたんだ。」
テオは唖然としたあと、しばらく歩きながら何か考え込んでいたが、やがて意を決したように僕の方を見た。
「……親父に相談してみるよ、ダメ元だけど。」
「ありがとう。でも、もう決めたことだから。」
僕の言葉を聞いて、テオは苦笑しながら肩をすくめる。
「わかってる、でも......俺のためだよ。」
改めていいやつだなと思う。
テオはどこか遠くを見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「……シャル、おまえ、すごいな」
そんな風に言われるのは初めてだった。
少しだけ、嬉しかった。

翌朝、案内資料の中にあった身体検査票と面接受験票を持ち、指定された採掘局に向かった。
採掘局の建物は、町の西側、住居区画の外れに位置している。
市場や役所のある中心部とは異なり、この区域は無機質な工業施設が立ち並ぶ。
行き交うのは労働者や作業員ばかりで、生活の気配はまったくない。
歩いていると目に入る壁に刻まれた政府の紋章と、等間隔で配置されている監視員がこの場所の厳格さを物語っていた。
父さんと母さんはどこにいるんだろうと周りを見渡していたがさすがに見つからず、気が付けば採掘局の前まで来ていた。

目の前にそびえ立つ採掘局の建物は、他の施設よりもひときわ大きかった。
黒鉄の外壁は鈍く光を反射し、巨骸由来の素材なのか壁の表面には微かな脈動のような模様が浮かび上がっていた。
建物の周囲には、採掘場へ向かう貨物列車の停車場や、採掘素材を加工する工場が併設されている。
入口には巨大なゲートがあり、監視員が二人、無表情で立っている。
何も悪いことはしていないのだから、と自らを奮い立たせて足を踏み出したが、横を通るときは思わず背筋が強張った。
ゲートを通り採掘局の中へ入ると、中は重い雰囲気に包まれていた。
局内は無駄のない設計で、通路は直線的に伸び、天井には青白い光を放つ結晶のようなものが埋め込まれている。
中央の受付カウンターの向こうでは、何人かの職員がそれぞれ淡々と作業をこなしている。
受付を待っている人は少なかったからか、すぐにカウンターに案内された。
持ってきた書類を見せると、今日の手続きの流れを簡単に説明してくれた。
まず医務室で身体検査のあと、面接をして終了のようだ。
それぞれの手続きの際に見せるよう、一枚のカードを手渡された。
入館証のようなものなのだろう。
これより奥に進むためにはゲートを通らなければいけないが、このカードをかざすことで通れるようになるらしい。
医務室と面接室の場所を案内されたが、採掘局の構造は複雑で、医務室の場所を覚えるので精一杯だった。
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