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第二章 第八採掘区
10. 訓練
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午後からの実技訓練は、訓練棟の外にある訓練場で行われた。
訓練場には実際の採掘片から切り出された訓練用の巨骸素材が並べられており、表面は複雑に光を反射しているようで、どれもただの石には見えなかった。
講師を務める監督員が前に立ち、実技訓練の説明を始めた。
「今日から三日間は実技訓練であり適応訓練だ。採掘技術の基礎を習得すること。そして何より、この空気に慣れることが最優先だ。」
傷だらけの体に、何よりしわがれた声が、この仕事の過酷さを感じさせた。
訓練で使うのは、「鎌状切削機(れんじょうせっさくき)」という体に装着するタイプの掘削道具だった。
巨骸は基本的に固すぎるため、人の手では削ぐことしかできないという。
その際に利用するのが、この「鎌状切削機」だ。
人体の動きに連動して動作する仕組みで、素手で削ぐようなイメージで素材を削ぐことができるという。
鎌のように曲がっている刃の素材も巨骸由来のため、切れ味は抜群にいい。
背中に背負ってから両腕を通し鎌状切削機を体に装着する。
先端に付いている刃を動かしてみると、たしかに手の動きがダイレクトに刃に伝わっていくのがわかる。
それに、何より軽い。
これが巨骸由来の道具なのかと感動した。
意気揚々と実際に巨骸素材を削ってみたが、想像以上に難しい。
まったく削れないどころか、力を入れると刃が折れてしまいそうになる。
隣で作業しているトマを見てみると、今にも刃が折れそうだった。
「力で削るな。層に沿って、膜を剥ぐように動かせ。」
監督官が見回りながらアドバイスをくれたが、まったくわからなかった。
そもそも機械ですら第二層までしか採掘できないのだから、力で削ろうとするのは方向性が違うのだろう。
一部からおおっという声が上がったので視線を向けると、小さな人だかりができていた。
トマと目を見合わせてから一緒に見に行くと、自分と同じくらいの歳の作業員がするすると素材を削っていた。
まったく力が入っているようには見えないが、どんどん素材が削れていく。
詰まる場面はあるものの、少し方向を変えると、また順調に削れていく。
驚きながら様子を観察していると、監督官が近づいて来た。
「見ているだけでは削れるようにならんぞ。早く訓練に戻れ!」
監督官の注意で蜘蛛の子を散らすように、それぞれ各々の訓練場所に帰っていった。
彼がやっていたように削ってみるものの、やはりうまくできない。
「どうやってやってるんだろうね。」
「知......らん!くっ......」
トマは相変わらず力ずくでがんばっている。
どうにかうまくやり方を聞けないだろうかと考えていて気が付いたが、背格好からすると、もしかしたら寮ですれ違った人かもしれない。
とりあえずご飯に誘ってみようと考えながら訓練を続けていると、すぐに時間になってしまった。
「明日も八時にここに集合するように。健康診断を忘れずにな。」
訓練が終わる頃には、体の奥に疲労がこびりついていた。
作業中は集中していて気が付かなかったが、体は重く、手足の先が鈍く痺れている。
作業員の中には、明らかに体調が悪そうに歩いていく人もいた。
これが毒素の影響なのかもしれない。
重い体を引きずりながら、例の彼をご飯に誘おうとトマと一緒に話しかけにいった。
「はじめまして。」
こちらをチラッと見て、片づけに戻る。
「いきなり話しかけてすみません。僕はシャルと言います。削り方を教えてほしくて......よかったら一緒にご飯を食べませんか?」
しばらく沈黙が続いたあと、ゆっくりと口を開いた。
「......別にいいけど。」
冷たい反応にトマが何か言いたげな顔をしていたが、とりあえず話を聞くチャンスができてラッキーだった。
一緒に食堂に向かいながら話をしていたが、どうやら無口なだけで僕たちが嫌なわけではないらしい。
「歳はいくつなんですか?」
「......15歳。」
驚いたことに同じ歳だった。
嬉しくなって色々と聞いてみると、名前はパラヤというらしい。
寮も15号棟とのことで、やっぱりすれ違ったのは彼だったようだ。
トマは年下だとわかると、相変わらず少し偉そうにしながらあれこれと話を聞いていた。
食堂に行く前に健康診断を受けてから維持薬を飲むと、すぐに体の調子が元に戻った。
トマも苦しそうにしていたが、今は元気を取り戻し、夕飯を口いっぱいに頬張っている。
パラヤは対照的に丁寧にゆっくり食事を口に運んでいる。
「削るときって、何を考えてるの?」
「......別に。柔らかそうなところに刃をあててるだけ。」
理解できずに固まっていると、トマが口にたくさん食べ物を詰めたまま質問する。
「なんで柔らかそうなところがわかるんだよ?」
「......見たらわかる。」
見た目が違うということだろうか?
「色が違うとか?それとも光の反射が違うのかな?」
「......柔らかいところは光ってる。」
その後も色々と聞いたが、感覚的な話がほとんどでまったくわからなかった。
明日からの訓練はパラヤに教えてもらえることになったから、よしとしよう。
ご飯を食べた後、パラヤと一緒に宿舎まで帰りながら色々な話をした。
「なんで採掘場に来たの?」
「......お金が必要だったから。」
「僕も似たようなもんだから一緒だね。僕は家族のために来たんだ。」
「......僕には家族がいないから違うかも。」
驚いていると、少し生い立ちを話してくれた。
物心ついたときから施設で育ったらしい。
15歳になると施設を出ないといけないため、少しでもお金のいい仕事を探していたそうだ。
自分は恵まれていると、つくづく思った。
そういえば、トマにはなんで採掘場に来たのか聞いたことがなかったなと考えていると宿舎に着いた。
どこの部屋かを聞くと、パラヤの部屋は昨日すれ違った場所と全然違う場所だったので、もしかしたら方向音痴なのかもしれない。
訓練場には実際の採掘片から切り出された訓練用の巨骸素材が並べられており、表面は複雑に光を反射しているようで、どれもただの石には見えなかった。
講師を務める監督員が前に立ち、実技訓練の説明を始めた。
「今日から三日間は実技訓練であり適応訓練だ。採掘技術の基礎を習得すること。そして何より、この空気に慣れることが最優先だ。」
傷だらけの体に、何よりしわがれた声が、この仕事の過酷さを感じさせた。
訓練で使うのは、「鎌状切削機(れんじょうせっさくき)」という体に装着するタイプの掘削道具だった。
巨骸は基本的に固すぎるため、人の手では削ぐことしかできないという。
その際に利用するのが、この「鎌状切削機」だ。
人体の動きに連動して動作する仕組みで、素手で削ぐようなイメージで素材を削ぐことができるという。
鎌のように曲がっている刃の素材も巨骸由来のため、切れ味は抜群にいい。
背中に背負ってから両腕を通し鎌状切削機を体に装着する。
先端に付いている刃を動かしてみると、たしかに手の動きがダイレクトに刃に伝わっていくのがわかる。
それに、何より軽い。
これが巨骸由来の道具なのかと感動した。
意気揚々と実際に巨骸素材を削ってみたが、想像以上に難しい。
まったく削れないどころか、力を入れると刃が折れてしまいそうになる。
隣で作業しているトマを見てみると、今にも刃が折れそうだった。
「力で削るな。層に沿って、膜を剥ぐように動かせ。」
監督官が見回りながらアドバイスをくれたが、まったくわからなかった。
そもそも機械ですら第二層までしか採掘できないのだから、力で削ろうとするのは方向性が違うのだろう。
一部からおおっという声が上がったので視線を向けると、小さな人だかりができていた。
トマと目を見合わせてから一緒に見に行くと、自分と同じくらいの歳の作業員がするすると素材を削っていた。
まったく力が入っているようには見えないが、どんどん素材が削れていく。
詰まる場面はあるものの、少し方向を変えると、また順調に削れていく。
驚きながら様子を観察していると、監督官が近づいて来た。
「見ているだけでは削れるようにならんぞ。早く訓練に戻れ!」
監督官の注意で蜘蛛の子を散らすように、それぞれ各々の訓練場所に帰っていった。
彼がやっていたように削ってみるものの、やはりうまくできない。
「どうやってやってるんだろうね。」
「知......らん!くっ......」
トマは相変わらず力ずくでがんばっている。
どうにかうまくやり方を聞けないだろうかと考えていて気が付いたが、背格好からすると、もしかしたら寮ですれ違った人かもしれない。
とりあえずご飯に誘ってみようと考えながら訓練を続けていると、すぐに時間になってしまった。
「明日も八時にここに集合するように。健康診断を忘れずにな。」
訓練が終わる頃には、体の奥に疲労がこびりついていた。
作業中は集中していて気が付かなかったが、体は重く、手足の先が鈍く痺れている。
作業員の中には、明らかに体調が悪そうに歩いていく人もいた。
これが毒素の影響なのかもしれない。
重い体を引きずりながら、例の彼をご飯に誘おうとトマと一緒に話しかけにいった。
「はじめまして。」
こちらをチラッと見て、片づけに戻る。
「いきなり話しかけてすみません。僕はシャルと言います。削り方を教えてほしくて......よかったら一緒にご飯を食べませんか?」
しばらく沈黙が続いたあと、ゆっくりと口を開いた。
「......別にいいけど。」
冷たい反応にトマが何か言いたげな顔をしていたが、とりあえず話を聞くチャンスができてラッキーだった。
一緒に食堂に向かいながら話をしていたが、どうやら無口なだけで僕たちが嫌なわけではないらしい。
「歳はいくつなんですか?」
「......15歳。」
驚いたことに同じ歳だった。
嬉しくなって色々と聞いてみると、名前はパラヤというらしい。
寮も15号棟とのことで、やっぱりすれ違ったのは彼だったようだ。
トマは年下だとわかると、相変わらず少し偉そうにしながらあれこれと話を聞いていた。
食堂に行く前に健康診断を受けてから維持薬を飲むと、すぐに体の調子が元に戻った。
トマも苦しそうにしていたが、今は元気を取り戻し、夕飯を口いっぱいに頬張っている。
パラヤは対照的に丁寧にゆっくり食事を口に運んでいる。
「削るときって、何を考えてるの?」
「......別に。柔らかそうなところに刃をあててるだけ。」
理解できずに固まっていると、トマが口にたくさん食べ物を詰めたまま質問する。
「なんで柔らかそうなところがわかるんだよ?」
「......見たらわかる。」
見た目が違うということだろうか?
「色が違うとか?それとも光の反射が違うのかな?」
「......柔らかいところは光ってる。」
その後も色々と聞いたが、感覚的な話がほとんどでまったくわからなかった。
明日からの訓練はパラヤに教えてもらえることになったから、よしとしよう。
ご飯を食べた後、パラヤと一緒に宿舎まで帰りながら色々な話をした。
「なんで採掘場に来たの?」
「......お金が必要だったから。」
「僕も似たようなもんだから一緒だね。僕は家族のために来たんだ。」
「......僕には家族がいないから違うかも。」
驚いていると、少し生い立ちを話してくれた。
物心ついたときから施設で育ったらしい。
15歳になると施設を出ないといけないため、少しでもお金のいい仕事を探していたそうだ。
自分は恵まれていると、つくづく思った。
そういえば、トマにはなんで採掘場に来たのか聞いたことがなかったなと考えていると宿舎に着いた。
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