江戸の奉公人ですが美しい神仙の封印を解いたら運命の人でした

闇雲シャルロッテ

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01 封印、解いちゃったんですけど!?

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 あたたかい柔らかな日差しが降り注ぐ3月の昼下がり。
 江戸は日本橋に店を構える小間物問屋・志摩屋で働く奉公人の蒼衣あおいは、久しぶりの休日に虎御門にある砂場蕎麦へと歩いて食べに行った。
 砂場蕎麦を食べることは毎日あくせく働く自分への恒例のご褒美♡
 そのいつもの帰り道。
 空腹を満たして満足な気持ちの蒼衣が歩いていると、とある神社の前で白と黒の二毛猫が座っていた。
 鼻筋の白い被毛を境に、左右の目の周りは八の字型に黒い被毛で覆われているハチワレ猫だ。
 これまでもこの猫にはここで何度も会っていた。まるでいつも蒼衣を待っているかのように。
 猫はじっと蒼衣を見つめると、神社の鳥居を潜り境内の中へと入っていった。
 いつもはじっと睨んで来るだけなのに、今日は移動しながらちらちらと蒼衣の方を見て、まるでついてこいと誘導しているかのようだ。
 蒼衣は惹きつけられるように猫の後をついていった。
 境内の中は早咲きの雪柳の白い花々が咲き乱れている。
 他に人は誰もいない。
 猫は神社の本殿の床の下に潜り込むと、その暗闇の中から両目を光らせてじっと蒼衣を見つめてきた。
 気のせいか両目が紅く光って見えた。
 猫はさらに本殿の床の下を奥へ奥へと潜っていく。
 蒼衣も四つん這いになり土埃まみれになって奥まで行くと、座っている猫の隣に七寸ほどのかめが置いてあるのがわかった。
 四つん這いになったまま甕を外へと引きずり出す。
 一緒に出てきた猫も蒼衣の隣で甕を眺めている。
 床の下で見つけた時は暗くてわからなかったが、甕の蓋は漆喰で固められていたものが所々剥がれかけていた。
 それに、蒼衣には読むことのできない異国の文字のようなもので書かれた御札の紙が蓋と本体にまたがるように貼られているが、その紙も黄ばんで劣化していて今にも破れそうだ。
 この奇妙な甕を前にして、この蓋を開けて中を見るかどうか悩んだ。
 中には何が入ってるんだろう? 金銀財宝? それともただの糞尿?
 悩んでいる蒼衣をじれったく感じたのか、ハチワレ猫に早く開けろとばかりに手の甲を引っ掻かれてしまった。

「わかったよ、今開けるから」

 蒼衣は両手で甕を頭上高く持ち上げると、思い切り地面に叩きつけた。
 粉々に割れた甕の破片があたりに飛び散ったと同時に、身を切るような冷たい濃い霧が境内中に立ち込めて何も見えなくなった。腕で両目を覆い霧が晴れるのを待つ。
 冷たさを感じなくなり恐る恐る目を開くと視界が開けていて、そこには先ほどまではいなかったひとりの眉目秀麗な長身の男が立っていた。
 20代後半に見えるその男は、漆黒の長い髪を無造作に頭の後でひとつにまとめ、体は鎧で武装していた。しかしその鎧には何本かの矢が刺さったままだ。
 背には矢筒を背負っている。まるでたった今戦場からやって来たような風貌だ。この今は太平の時代の江戸でこんな武装をしている人間などひとりもいない。
 先ほどのハチワレ猫はその武装した男を怖れるどころか、足元にしがみついたり体をすりすりしたりしている。
 男は蒼衣の正面に立つと、切れ長の涼しい目で真っ直ぐに見つめてきた。

「お前か? 俺の封印を解いたのは」
「封印!?」
「甕を割ったのはお前だろう?」
「あっ、はい」
「甕を思いきり叩き割るとは。見かけによらず大胆な奴だ。普通は札を剥がして蓋を開けるだろうに」
「ご、ごめんなさい」
「別に謝らなくてもいい。お前のおかげで俺の封印は解かれた。感謝する」
「あ、あの、確認なんですが、貴方はこの甕の中に封印されていて、そこから今出てきたということですか?」
「ああ。俺の名は究竟くきょう。こんな甕なんぞに200年も閉じ込められてしまった」
「に、200年!?」

 究竟は鎧に刺さった矢を取り除き、体や顔についた土埃をポンポンと叩きながら軽く言った。

「戦国時代に戦っている最中、呪術をかけられて封印されてしまったのだ。天下は誰が取ったのだ? 織田か? それとも武田か?」
「えーっと、それで言うなら今は徳川幕府の時代なので、徳川家康様です」
「徳川だと!? それはまた思わぬ伏兵だったな」
「あのう、貴方は人間なのですか?」
「それを話すと長くなる。とりあえず腹が減った。風呂にも入りたい。詳しい話は後にしよう。お前の名は?」
「蒼衣です」
「よし、蒼衣。腹ごしらえに行くぞ」

 するとずっと究竟の足元にすり寄っていた猫が、自分を忘れるなと言わんばかりに思いきり飛び跳ねて究竟の胸元に飛びついた。

「すまん、琥太郎。もちろんお前のことも忘れてないぞ」

 名前を呼ばれて嬉しそうな猫は究竟の顔を舐めた。

「琥太郎? 僕を導いたこの猫を知ってるの?」
「琥太郎は俺の忠実な従者だ。これでも200年前は人の姿をしていたんだ」
「えっ!? この猫ちゃんも200年前から生きているんですか?」
「ああ。ここで俺の封印を解く人間が現れるのを待っていてくれたんだ」

 琥太郎は蒼衣にニャアと鳴いて挨拶した。
 いろいろ信じられないことばかりで呆然としている蒼衣を気にもせず、琥太郎を胸に抱いたまま歩きだした究竟を蒼衣は慌てて止めた。

「駄目です究竟様! 今はもう下剋上の戦国時代も終わり、徳川幕府が治める平和な時代。そんな鎧なんかつけて武装して町を歩いている人は一人もいません」
「そうなのか?」
「そんなの着てたら目立って仕方ないし、お奉行様に捕まります! 矢筒も鎧もここで脱ぎ捨てて、とりあえず近くの湯屋に行って汚れを落として着替えましょう」
「ふーん、そうか。わかった」

 素直に究竟が武装を解いてくれたので、蒼衣は境内を出て究竟を湯屋へと案内していった。
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