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02 その男、神仙
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湯屋の脱衣所で裸になった究竟の体を見て蒼衣は驚いた。
白く透き通るような肌。細身で贅肉はついていないのに筋肉で引き締まり鍛えられた肉体。露わになっている下半身も平常時なのに逞しく力強い。
しかし驚いたのは、その美しさとは裏腹に全身が刺創や切創など多くの痛々しい傷痕で覆われていたことだ。
蒼衣の視線に気付いた究竟がニヤリとする。
「なんだ? そんなに俺の身体をじろじろ見て。誘っているのか?」
「えっ!? そ、そんな、とんでもないです! ごめんなさいっ」
顔を赤くして下を向いた蒼衣の顎を、一糸まとわぬ姿の究竟が細く長い指でくいと持ち上げた。
「お前は脱がないの?」
涼しげな切れ長の目で妖しく蒼衣を見つめる。
「ぼ、僕は二階の休憩室で待っています。ごゆっくりどうぞ!」
全裸の究竟を直視することができなかった蒼衣は2階へと走っていった。
風呂から上がった浴衣姿の究竟が休憩室にやって来ると、蒼衣はうどんを注文して一緒に食べた。
「200年も封印されている間って、お腹は空かなかったんですか?」
「腹など空かん。あそこは無だからな」
「無?」
「音も光も何もない。肉体もない。ただひたすらに耐えるだけ」
「そんな中で200年間も耐えてたなんて……辛くなかった?」
「別に。200年くらい過去の修行に比べればなんでもない」
「貴方は一体何者なんです? 見た目は20代後半の普通の男性に見えるけど」
「神仙だ。人間ではないから歳などない」
「神仙!?」
「俺はとある軍神様の元で修行を重ね、不老不死の力を得てお仕えしていた。20代後半に見えるのは、人間ではなくなった時の27歳の姿のままだからだ」
「元々人間だったの!?」
「戦国時代よりも遥か昔。27歳の俺は兄上と共に戦場に出ていた。その時殺されそうになった兄上を庇い、槍や剣や刀で刺され斬られ、最後には矢も放たれ、俺は死んだ。身体中に残っているのはその時の傷痕だ」
蒼衣はあの美しい身体に似合わない多数の傷痕を思い出した。
「その時だった。軍神様が現れて弟子にならないかと声をかけてくれたんだ。そして俺は軍神様の元で修行を重ね、神仙となった」
「……なんだかとても信じられないことばかりです」
「信じようと信じまいと、お前が俺の封印を解き、そして俺は今お前の前にいる。それがすべてだろ?」
たしかにその通り。夢でも見ていない限りこれは現実。
蒼衣は自分の頬をつねってみたがやはり痛い。究竟は間違いなく実在している。
すると、頬をつねった蒼衣の手を見て究竟が言った。
「どうしたんだ? その手の甲の傷は。血が赤く滲んでいるじゃないか」
「ああ、これはさっき、甕の封印を解くかどうか悩んでいたから琥太郎さんに早くしろって引っ掻かれたんです」
「琥太郎の奴め。俺の恩人になんてことを」
究竟はおもむろに蒼衣の手を掴むと、目を閉じ口元を動かして何かぼそぼそと呪文を唱えた。
「やはり駄目か」
「どうしたんです?」
「封印された時に俺の通力まで取り上げられてしまったのだ。今お前の傷を治してやろうと念じてみたができなかった」
「通力?」
「神通力のことだ。俺は修行で様々な不可思議な力を得て、軍神様の遣いとして民の願いを叶えたりしていた。通力があればお前のこれくらいの傷、すぐ治してやれるのに。すまない」
「謝らないでください。これくらい全然平気ですから」
蒼衣は究竟に掴まれている手を放そうとしたが、究竟はしっかりと掴んだまま手の甲の傷に口付けた。そして唾液で満たされた舌で傷をなぞるように舐めると、最後にもう一度やさしく口付けた。
蒼衣はその舌の温かさと柔らかさなどの舐められた感触を心地よいと思ってしまった。反面、目を閉じて傷を舐めている究竟の顔を見て、その美しさと濃厚な接触に恥ずかしさも覚えた。
「もう大丈夫です。ありがとうございます!」
蒼衣は自ら手を引っ込めた。
「通力を無くした俺には、こういう普通の人間と同じことしかできん」
いえいえ、普通の人間でも初対面の人間にこんなことはしませんよ!
「究竟様の神通力はどこにいったんですか?」
「さあな。封印した奴にしかわからない」
「一体、200年前に何があったんです?」
「封印を解いてくれたお前に聞かれたら、話さないわけにはいかないな。軍神様に仕える俺が、勝負に負けてしまったという屈辱的な話を」
究竟は自虐的に笑うと、煙管に火を点けて遠い目をしながら語りはじめた。
白く透き通るような肌。細身で贅肉はついていないのに筋肉で引き締まり鍛えられた肉体。露わになっている下半身も平常時なのに逞しく力強い。
しかし驚いたのは、その美しさとは裏腹に全身が刺創や切創など多くの痛々しい傷痕で覆われていたことだ。
蒼衣の視線に気付いた究竟がニヤリとする。
「なんだ? そんなに俺の身体をじろじろ見て。誘っているのか?」
「えっ!? そ、そんな、とんでもないです! ごめんなさいっ」
顔を赤くして下を向いた蒼衣の顎を、一糸まとわぬ姿の究竟が細く長い指でくいと持ち上げた。
「お前は脱がないの?」
涼しげな切れ長の目で妖しく蒼衣を見つめる。
「ぼ、僕は二階の休憩室で待っています。ごゆっくりどうぞ!」
全裸の究竟を直視することができなかった蒼衣は2階へと走っていった。
風呂から上がった浴衣姿の究竟が休憩室にやって来ると、蒼衣はうどんを注文して一緒に食べた。
「200年も封印されている間って、お腹は空かなかったんですか?」
「腹など空かん。あそこは無だからな」
「無?」
「音も光も何もない。肉体もない。ただひたすらに耐えるだけ」
「そんな中で200年間も耐えてたなんて……辛くなかった?」
「別に。200年くらい過去の修行に比べればなんでもない」
「貴方は一体何者なんです? 見た目は20代後半の普通の男性に見えるけど」
「神仙だ。人間ではないから歳などない」
「神仙!?」
「俺はとある軍神様の元で修行を重ね、不老不死の力を得てお仕えしていた。20代後半に見えるのは、人間ではなくなった時の27歳の姿のままだからだ」
「元々人間だったの!?」
「戦国時代よりも遥か昔。27歳の俺は兄上と共に戦場に出ていた。その時殺されそうになった兄上を庇い、槍や剣や刀で刺され斬られ、最後には矢も放たれ、俺は死んだ。身体中に残っているのはその時の傷痕だ」
蒼衣はあの美しい身体に似合わない多数の傷痕を思い出した。
「その時だった。軍神様が現れて弟子にならないかと声をかけてくれたんだ。そして俺は軍神様の元で修行を重ね、神仙となった」
「……なんだかとても信じられないことばかりです」
「信じようと信じまいと、お前が俺の封印を解き、そして俺は今お前の前にいる。それがすべてだろ?」
たしかにその通り。夢でも見ていない限りこれは現実。
蒼衣は自分の頬をつねってみたがやはり痛い。究竟は間違いなく実在している。
すると、頬をつねった蒼衣の手を見て究竟が言った。
「どうしたんだ? その手の甲の傷は。血が赤く滲んでいるじゃないか」
「ああ、これはさっき、甕の封印を解くかどうか悩んでいたから琥太郎さんに早くしろって引っ掻かれたんです」
「琥太郎の奴め。俺の恩人になんてことを」
究竟はおもむろに蒼衣の手を掴むと、目を閉じ口元を動かして何かぼそぼそと呪文を唱えた。
「やはり駄目か」
「どうしたんです?」
「封印された時に俺の通力まで取り上げられてしまったのだ。今お前の傷を治してやろうと念じてみたができなかった」
「通力?」
「神通力のことだ。俺は修行で様々な不可思議な力を得て、軍神様の遣いとして民の願いを叶えたりしていた。通力があればお前のこれくらいの傷、すぐ治してやれるのに。すまない」
「謝らないでください。これくらい全然平気ですから」
蒼衣は究竟に掴まれている手を放そうとしたが、究竟はしっかりと掴んだまま手の甲の傷に口付けた。そして唾液で満たされた舌で傷をなぞるように舐めると、最後にもう一度やさしく口付けた。
蒼衣はその舌の温かさと柔らかさなどの舐められた感触を心地よいと思ってしまった。反面、目を閉じて傷を舐めている究竟の顔を見て、その美しさと濃厚な接触に恥ずかしさも覚えた。
「もう大丈夫です。ありがとうございます!」
蒼衣は自ら手を引っ込めた。
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いえいえ、普通の人間でも初対面の人間にこんなことはしませんよ!
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「さあな。封印した奴にしかわからない」
「一体、200年前に何があったんです?」
「封印を解いてくれたお前に聞かれたら、話さないわけにはいかないな。軍神様に仕える俺が、勝負に負けてしまったという屈辱的な話を」
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