江戸の奉公人ですが美しい神仙の封印を解いたら運命の人でした

闇雲シャルロッテ

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03 200年前の出来事

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 200年前。日本は下剋上上等の戦国時代だった。
 まだ徳川家康が天下統一して江戸幕府を開くこととなる天下分け目の関ヶ原の戦いが勃発する前で、織田信長や武田信玄など日本各地に戦国大名が群雄割拠していた。
 誰が天下を獲るのか誰も予測することもできない。皆が天下を虎視眈々と狙う時代だった。
 その頃究竟は、西国のとある小国の軍神が祀られている祠を司っていた。
 毎日その祠には様々な人々が祈りに来た。軍神が祀られている祠なのに、自身の安寧や健康、金運、恋愛運など祈りの内容は様々だった。
 その中で朝朝暮暮、一際熱心に祈りに来る武将がいた。
 その名は間宮義勝。
 祈る内容も自国の民だけでなく日本中の民の繁栄と幸福を祈り、太平の世を創るため己が天下を獲るとの大志を持った人物だった。
 究竟は軍神に仕える身である。戦う者を護る使命があった。
 究竟は間宮に天下を獲らせるため一肌脱ごうと、正体は隠して従者である琥太郎を連れて間宮の一家臣として腹心となった。
 間宮のため甲冑に身を包み縦横無尽に琥太郎と共に戦場を駆け巡る。究竟たちの功績もあり連勝を続けた間宮は、名立たる戦国武将に名を連ねるところまできた。
 しかし、元々幼い頃から陰陽道に通じていて武将には向いていない性格だった間宮は、連日の戦と緊張感が続く日々に耐えきれなくなり己に負けた。
 大志を抱いていた頃とはすっかり変わり果て、本来の利己的で残虐的な性分が表に出てきたのだ。己の私利私欲と残虐性を満たすためなら、どんな卑怯な手でも使うようになった。
 究竟は間宮から離れることにした。軍神の遣いである己の使命は十分に果たしたからだ。
 間宮が他国の武将と同盟を結んで挑む戦を最後にしようと、究竟と琥太郎は戦場に赴いた。
 戦が始まり同盟国の武将が敵国の武将の首を討ち取った時だった。間宮は自分の手柄とするため、味方の同盟国の武将の首を討ち取り敵国の武将の首を横取りしたのである。
 その間宮の卑怯さと邪悪さを目の当たりにした究竟は、これ以上生かしておいてはならないと間宮を背後から斬ろうとした時だった。。
 陰陽道に通じていた間宮は究竟と琥太郎がこの世の者ではないことも、またこの戦いを最後に間宮から離れていこうとしていることにも気付いていたのだろう。
 振り返った間宮はすでに甕を持って呪文を唱えており、不意を突かれた究竟は逆らう間もなく甕の中に吸い込まれ、蓋に札を貼られて封印されてしまった。

「やめろおおお!」

 怒りに燃えた琥太郎が間宮に斬りかかったが、あえなく呪文を唱えられ白と黒色の二毛のハチワレ猫に姿を変えられてしまった。
 高らかに笑い究竟を封印した甕と敵国の武将の首を持って馬上の人となった間宮は、戦場を狂ったように笑いながら駆け抜けていった。
 猫の姿に変えられた琥太郎は、その姿を見て無念泣きするしかできなかった。


「そして流れに流れついて、俺はあの神社の本殿の下で封印されていた」

 封印された当時を蒼衣に話し終えた究竟は、煙管に新しい煙草を詰めて火を点けると煙を口から吐き出した。

「なんて悪い人なんだ! その間宮っていう武将はどうなったの?」

 尋ねた蒼衣に究竟はあっけらかんと答えた。

「200年ぶりに娑婆に出てきたばかりだぞ。俺が知るわけがない」
「ですよね。復讐とかしないんですか?」
「俺は軍神に仕える身。闘いに負けることがどういうことか知っている。負けたら終わり。それだけだ」
「なんか、僕が悔しいです。そんな卑怯な奴に究竟様がそんな目に遭わされて」

 究竟は嬉しそうに笑うと、肩下まで伸びた髪を後ろで一つに結んでいる蒼衣の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「お前が悔しがる必要はない。それより封印を解いてくれた礼に何かひとつ願いを叶えてやろう。遠慮なく言ってみろ。金でも地位でも女でも、なんでもやるぞ。まあ通力を取り戻してからにはなるが」

 人間の男が欲しがりそうなものをすべて並べて言った究竟に蒼衣は即答した。

「何もいりません」
「何?」
「いらないです。別に」

 淡々と答える蒼衣を究竟が真正面から見つめる。

「お前、その華奢な身体に何を背負って生きている?」
「えっ?」
「悲しみか? 絶望か? それとも冥い宿命か?」

 なぜだろう、心臓がきゅうと締め付けられた。誰にも言ったことはない。いや、自分でも自覚していない。そんな心の深い場所を見抜かれた気がした。
 自分でもわからないのに涙が出そうになる。誰かにわかってもらいたかった。自分でもわかっていないのに?
 すべてを見通しているかのような究竟の真剣な眼差しに、蒼衣の心は揺れ動いた。
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