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07 お嬢様の仰せ付け
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チュンチュンと鳴く雀の声で朝が来たことを知った蒼衣は、肌に触れている感触がいつもの布団の感触とは違うことに気付いて目を開いた。
するとどうだろう、自分の背中に両腕を回されて究竟の胸の中に抱かれているではないか!
それも着流しがはだけて露わになった傷痕だらけの広い究竟の胸板に頬を埋めて。究竟はまだ蒼衣を抱きしめたまま眠っている。
飛び起きて背中に回された究竟の腕から逃れて自分の姿を見ると、着物は着ておらず緩みきった褌からは陰部がすべて剥き出しになっている。
そうだった、昨晩、究竟様と……。
褌を締め直して畳の上に脱ぎ捨てられた自分の着物を見つけて袖を通し帯を締める。まだ眠っている究竟に近付くと蒼衣はその寝顔を覗き込んだ。
白く透き通るような頬に伏せた目の長い睫毛が影を作って揺れている。
そんな美しい寝顔を見ているうちに昨晩のことをすべて思い出して恥ずかしくなり赤面していると、ふと究竟が目を覚ました。
「もう、起きてたのか……」
寝顔を見ていたのがバレたかも! 慌てて顔を遠ざける。
「お、おはようございます」
「随分と早いんだな」
「仕事に行かないといけないので」
「そうか……」
究竟は朝が苦手なようで、また目を閉じたまま話している。
「あ、あの、昨晩のことですけど……」
「うん?」
「い、いえ、なんでもありません」
究竟の感想を聞くのが怖くなった蒼衣が背を向けて立ち上がろうとすると、背後から伸びてきた究竟の腕に捕らえられて布団の上に戻されて、ぎゅうと後ろから抱きしめられた。
「かわいかったよ。感じすぎてて、ずっとあんあん泣きっぱなしだった」
恥ずかしい言葉を囁かれ、耳まで赤くなる。
「そ、そんなこと……」
あります、と自分でも思った。
「気持ちよかった?」
蒼衣が無言で首を縦に振ると、究竟は蒼衣の着物の衿元に片手を入れて乳首を探し当てると指で擦った。
今はじめたら止められなくなる! 蒼衣は究竟を振り払って立ち上がった。
「も、もう仕事行かなくちゃ。それじゃ、行ってきます!」
蒼衣は振り返らずに急いで家を飛び出した。
奉公先の志摩屋への道すがら、思い出すのは昨晩の究竟とのことばかりだった。
自分を見つめる究竟の優しく包み込むような眼差し、形の整った柔らかい唇の甘くてそれでいて激しい口付け。熱い舌の粘膜の感触。細くて長い指の止めどない愛撫。そして甘美で淫靡な口淫による絶頂。
よく知らないはじめて会ったばかりの人、いや、神仙とその日のうちに、隠れてしまいたくなるほどの恥ずかしいことに自分を忘れ、さらけ出し、その深い愛欲の海へと溺れてしまった。
それなのに、不思議と満たされた気持ちで一杯だった。
でも本当にこれでよかったのだろうか? と思う気持ちもある。
なぜ究竟は自分にあんなことをしたのだろうか? いやきっと、ずっとモテてきてて恋愛のことなんて百戦錬磨の究竟にとってはなんでもないことなのだろう。
自分のことなど好きでもないし愛してもいない。究竟にしてみればくだらない戯れのひとつに過ぎないのだ。
自分だって究竟のことを好きかと聞かれれば、出会ったばかりでよくわからない。でもあの美しさ、すべてを見透かすような眼差し、そして与えてくれた今まで感じたことのない快楽を忘れられる自信もない。
「ああ、もう! くよくよ悩むのはやめよう!」
はじめてのことばかりで混乱もしていた蒼衣は、粥と味噌汁を売っていた振り分け棒を担いだ行商人からそれらを買って朝食として食べて空腹を満たした。
志摩屋に着いた頃には張り切って今日も一日仕事をしようと気持ちを切り替えていた。
しかし百合江がやって来て話があると言われ、誰もいない店の商品が保管されている蔵へと引っ張られて行った。
「ねえ、あの究竟って人のことだけど」
ああ、だからあの道で百合江に会った時、嫌な予感がしたのだ。
「あたし、あの人に一目惚れしちゃったの。お前、上手く取り持っておくれ」
やっぱり。面倒臭いことを頼まれてしまった。
「う、上手くって?」
「とりあえず三人で会うようにしてくれればいいわ。あとはあたしのこの美貌と身体で落としてみせるから」
百合江はこの日本橋界隈一の美人だ。高嶺の花として恋い焦がれている男も多い。男なら百人が百人、百合江に言い寄られたら断われないだろう。美しい究竟ともお似合いだ。
「わかりました。どうすればいいですか?」
「そうね、明日の夜、三人で歌舞伎見物に行きましょ。席はあたしが用意するわ。もちろんお前は、途中で何か適当な理由をつけて先に帰るんだよ」
百合江はそう言い放つとそそくさと蔵から出て行った。
究竟とうまくくっつけなければ百合江に酷く叱られるのは目に見えている。
いや、究竟は自分にも簡単にあんなことができるのだから、百合江となら悦んで付き合い思い存分楽しむだろう。とにかく、百合江の言う通りに動くしかない。
蒼衣は大きくため息をひとつつくと、気を取り直して仕事へと戻った。
するとどうだろう、自分の背中に両腕を回されて究竟の胸の中に抱かれているではないか!
それも着流しがはだけて露わになった傷痕だらけの広い究竟の胸板に頬を埋めて。究竟はまだ蒼衣を抱きしめたまま眠っている。
飛び起きて背中に回された究竟の腕から逃れて自分の姿を見ると、着物は着ておらず緩みきった褌からは陰部がすべて剥き出しになっている。
そうだった、昨晩、究竟様と……。
褌を締め直して畳の上に脱ぎ捨てられた自分の着物を見つけて袖を通し帯を締める。まだ眠っている究竟に近付くと蒼衣はその寝顔を覗き込んだ。
白く透き通るような頬に伏せた目の長い睫毛が影を作って揺れている。
そんな美しい寝顔を見ているうちに昨晩のことをすべて思い出して恥ずかしくなり赤面していると、ふと究竟が目を覚ました。
「もう、起きてたのか……」
寝顔を見ていたのがバレたかも! 慌てて顔を遠ざける。
「お、おはようございます」
「随分と早いんだな」
「仕事に行かないといけないので」
「そうか……」
究竟は朝が苦手なようで、また目を閉じたまま話している。
「あ、あの、昨晩のことですけど……」
「うん?」
「い、いえ、なんでもありません」
究竟の感想を聞くのが怖くなった蒼衣が背を向けて立ち上がろうとすると、背後から伸びてきた究竟の腕に捕らえられて布団の上に戻されて、ぎゅうと後ろから抱きしめられた。
「かわいかったよ。感じすぎてて、ずっとあんあん泣きっぱなしだった」
恥ずかしい言葉を囁かれ、耳まで赤くなる。
「そ、そんなこと……」
あります、と自分でも思った。
「気持ちよかった?」
蒼衣が無言で首を縦に振ると、究竟は蒼衣の着物の衿元に片手を入れて乳首を探し当てると指で擦った。
今はじめたら止められなくなる! 蒼衣は究竟を振り払って立ち上がった。
「も、もう仕事行かなくちゃ。それじゃ、行ってきます!」
蒼衣は振り返らずに急いで家を飛び出した。
奉公先の志摩屋への道すがら、思い出すのは昨晩の究竟とのことばかりだった。
自分を見つめる究竟の優しく包み込むような眼差し、形の整った柔らかい唇の甘くてそれでいて激しい口付け。熱い舌の粘膜の感触。細くて長い指の止めどない愛撫。そして甘美で淫靡な口淫による絶頂。
よく知らないはじめて会ったばかりの人、いや、神仙とその日のうちに、隠れてしまいたくなるほどの恥ずかしいことに自分を忘れ、さらけ出し、その深い愛欲の海へと溺れてしまった。
それなのに、不思議と満たされた気持ちで一杯だった。
でも本当にこれでよかったのだろうか? と思う気持ちもある。
なぜ究竟は自分にあんなことをしたのだろうか? いやきっと、ずっとモテてきてて恋愛のことなんて百戦錬磨の究竟にとってはなんでもないことなのだろう。
自分のことなど好きでもないし愛してもいない。究竟にしてみればくだらない戯れのひとつに過ぎないのだ。
自分だって究竟のことを好きかと聞かれれば、出会ったばかりでよくわからない。でもあの美しさ、すべてを見透かすような眼差し、そして与えてくれた今まで感じたことのない快楽を忘れられる自信もない。
「ああ、もう! くよくよ悩むのはやめよう!」
はじめてのことばかりで混乱もしていた蒼衣は、粥と味噌汁を売っていた振り分け棒を担いだ行商人からそれらを買って朝食として食べて空腹を満たした。
志摩屋に着いた頃には張り切って今日も一日仕事をしようと気持ちを切り替えていた。
しかし百合江がやって来て話があると言われ、誰もいない店の商品が保管されている蔵へと引っ張られて行った。
「ねえ、あの究竟って人のことだけど」
ああ、だからあの道で百合江に会った時、嫌な予感がしたのだ。
「あたし、あの人に一目惚れしちゃったの。お前、上手く取り持っておくれ」
やっぱり。面倒臭いことを頼まれてしまった。
「う、上手くって?」
「とりあえず三人で会うようにしてくれればいいわ。あとはあたしのこの美貌と身体で落としてみせるから」
百合江はこの日本橋界隈一の美人だ。高嶺の花として恋い焦がれている男も多い。男なら百人が百人、百合江に言い寄られたら断われないだろう。美しい究竟ともお似合いだ。
「わかりました。どうすればいいですか?」
「そうね、明日の夜、三人で歌舞伎見物に行きましょ。席はあたしが用意するわ。もちろんお前は、途中で何か適当な理由をつけて先に帰るんだよ」
百合江はそう言い放つとそそくさと蔵から出て行った。
究竟とうまくくっつけなければ百合江に酷く叱られるのは目に見えている。
いや、究竟は自分にも簡単にあんなことができるのだから、百合江となら悦んで付き合い思い存分楽しむだろう。とにかく、百合江の言う通りに動くしかない。
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