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08 琥太郎ニャ!?
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夜になり一日の仕事を終えて疲れて帰宅した蒼衣は、部屋の灯りがついているのを外から障子越しに確認し立ち止まった。
そうだった! この中には昨晩、あんなこともこんなこともした究竟がいるんだった!
今日の朝もまともに顔を見ることができなかったのに、どんな顔をして会えばいいのか。
いやきっと、究竟は誰にでも平気でああいうことができる性質なのだ、そんなに気にすることはない。すべて忘れて何もなかったように接しよう。
それにしても家の中からは、魚を焼くいい匂いと煙が立ち昇っている。究竟が魚を焼くなんて想像がつかないが。
蒼衣はあらためて大きく深呼吸すると、戸を勢いよく開けた。
「ただいまー!」
「あっ! おかえりニャ! 蒼衣様」
家の中に入った蒼衣を出迎えたのは、究竟ではなかった。
そこには襷がけした着流しに前掛けをして、土間の竈で魚を焼いているまったく知らない見たこともない若い男が立っている。
おまけにその男の頭にはふさふさの猫の耳が生えていて、穴を開けた着流しのお尻の部分からは尻尾まで生えている!
「えっ!? だ、誰!?」
「やだなあ、蒼衣様。琥太郎ニャ」
「ええ!? こ、琥太郎さん!?」
言われてみれば、耳も尻尾も昨日までの白と黒の二毛猫だった時と同じ模様だ。しかしほかの姿は、20代前半の普通の人間の男と何ら変わりはない。
「人の姿に戻れたんですか?」
「ニャ。どうやらほんの少しだけど究竟様の神通力が戻ったようニャ。それでまずは琥太郎を人の姿に戻してくれたニャ。でもまだ神通力が足りなくて、耳と尻尾と猫言葉は戻らなかったニャ」
琥太郎は背も高くて目がぱっちりと大きくて鼻筋も整った美男子だけど、その容貌とは程遠い猫言葉が萌えさせる。
「でもとってもかわいい」
「ありがとニャ。やっと蒼衣様と話せるようになって嬉しいニャ」
「蒼衣様だなんて」
「蒼衣様は究竟様の封印を解いてくれた命の恩人なのニャ。ということは琥太郎にとっても、恩人なのニャ」
「あの神社の前で僕を甕まで導いたのは偶然だったの?」
「違うニャ。ずっとあそこで究竟様の封印を解いてくれる人間が現れるのを待ってたニャ」
琥太郎の話によると、200年前に究竟が戦国武将の間宮義勝に封印された時、琥太郎も白と黒の二毛のハチワレ猫に姿を変えられてしまった。
究竟に仕えていた琥太郎は天界の住人ではあるが神仙ではないらしい。究竟がいないと自分の力だけでは人の姿に戻ることができなくて、本当にただの猫になってしまった。
しかしなんとしても封印された究竟を助けたかった琥太郎は、野良猫として雨の日も雪の日も嵐の日も野外で耐え抜き、飢えを凌ぎ、絶対に究竟を助けるまでは死ぬものかと生き抜いた。
そして普通の猫の寿命をはるかに超えた頃。
年老いた猫は化け猫になるという伝承のとおり、琥太郎は不死身になった。
そのおかげで200年もの間生き延びることができ、ただただ究竟の封印を解く人間が現れるのを待っていたのだった。
蒼衣の前にも何人かの人間を甕まで導こうとしたが、誰一人封印を解けるものは現れなかったという。
「なぜ僕は封印を解けたの?」
「わからないニャ。でも何度かあの神社の前で蒼衣様を見かけるうちに、この人だと思ったニャ。そしてその通りになったニャ」
なぜ蒼衣だったのかは琥太郎にもわからないらしい。
「でも究竟様にとって、蒼衣様が特別な人間なのは変わらないニャ」
「えっ?」
「だって昨日の夜、早速二人でいちゃついてたニャ」
琥太郎にもバレてる!
「もしかして、見てたの!?」
「見てはないニャ。けど、蒼衣様の喘ぎ声が外までうるさくて眠れなかったニャ」
ああ! だからほら! 隣近所にも聞こえちゃうって言ったのに!
「蒼衣様といちゃいちゃして究竟様は……」
「わーーー! もうそれ以上言わないでーーー!」
あまりの恥ずかしさで琥太郎の言葉を叫んで遮った時、ガラガラと音がして戸が開いた。
「何をそんなに騒いでるんだ?」
「究竟様! おかえりニャ!」
家の中に入って来た究竟の足元に、琥太郎は擦り寄ってすりすりした。
「まだ猫の時の癖が抜けてないな」
そう言いながらも琥太郎の頭を撫でている究竟と目が合った蒼衣は、努めて平気な振りをした。
「おかえりなさい、究竟様。どこに行ってたんですか?」
「ちょっと江戸見物にな。何しろ200年ぶりの娑婆だから知らないことが多い。お、今日の夕飯は焼魚か?」
「ニャ。ねこまんま万歳ニャ」
琥太郎が用意してくれた夕飯を、四畳半の狭い部屋で男3人で囲んで食べる。
「琥太郎さんはいつから究竟様に仕えているんですか?」
「子供の頃からニャ。3歳年上の究竟様はかっこよくて優しくて大好きだったニャ。究竟様が戦死した時は悲しくて悲しくて。でも琥太郎も次の戦で24歳の時に戦死したニャ。そしたら究竟様が迎えに来てくれたニャ」
「天界での生活は面倒くさいことも多いからな。琥太郎がいてくれた方がいいと思ったんだ」
「究竟様にまた会えて嬉しかったニャ。だから琥太郎は究竟様のためならがんばるニャ」
「琥太郎さんは神仙にはならないんですか?」
「神仙になるにはそれはそれは大変な修行と精神力が必要ニャ。琥太郎には無理なのニャ」
「神仙になるのは大変なんですね」
「誰でもなれるわけではないニャ。だから究竟様はすごいのニャ」
こんなに美しくて強くて精神力もあるならそれはモテるだろうと感心した時、百合江のことを思い出した。
あ、究竟様に言わなくちゃ。
「あの、究竟様。明日の夜、歌舞伎見物に行きませんか? 昨日道で会った百合江お嬢様が席を用意してくれたんです」
「ふーん。わかった」
あっさりと了承してくれて蒼衣はほっとした。
これで百合江と究竟がうまくいってくれればそれに越したことはない。究竟も自分に昨晩みたいな戯れをしなくなるだろう。今日からは琥太郎もいるし、やはり昨晩のことは一時の誤ちだったのだ。
そうだった! この中には昨晩、あんなこともこんなこともした究竟がいるんだった!
今日の朝もまともに顔を見ることができなかったのに、どんな顔をして会えばいいのか。
いやきっと、究竟は誰にでも平気でああいうことができる性質なのだ、そんなに気にすることはない。すべて忘れて何もなかったように接しよう。
それにしても家の中からは、魚を焼くいい匂いと煙が立ち昇っている。究竟が魚を焼くなんて想像がつかないが。
蒼衣はあらためて大きく深呼吸すると、戸を勢いよく開けた。
「ただいまー!」
「あっ! おかえりニャ! 蒼衣様」
家の中に入った蒼衣を出迎えたのは、究竟ではなかった。
そこには襷がけした着流しに前掛けをして、土間の竈で魚を焼いているまったく知らない見たこともない若い男が立っている。
おまけにその男の頭にはふさふさの猫の耳が生えていて、穴を開けた着流しのお尻の部分からは尻尾まで生えている!
「えっ!? だ、誰!?」
「やだなあ、蒼衣様。琥太郎ニャ」
「ええ!? こ、琥太郎さん!?」
言われてみれば、耳も尻尾も昨日までの白と黒の二毛猫だった時と同じ模様だ。しかしほかの姿は、20代前半の普通の人間の男と何ら変わりはない。
「人の姿に戻れたんですか?」
「ニャ。どうやらほんの少しだけど究竟様の神通力が戻ったようニャ。それでまずは琥太郎を人の姿に戻してくれたニャ。でもまだ神通力が足りなくて、耳と尻尾と猫言葉は戻らなかったニャ」
琥太郎は背も高くて目がぱっちりと大きくて鼻筋も整った美男子だけど、その容貌とは程遠い猫言葉が萌えさせる。
「でもとってもかわいい」
「ありがとニャ。やっと蒼衣様と話せるようになって嬉しいニャ」
「蒼衣様だなんて」
「蒼衣様は究竟様の封印を解いてくれた命の恩人なのニャ。ということは琥太郎にとっても、恩人なのニャ」
「あの神社の前で僕を甕まで導いたのは偶然だったの?」
「違うニャ。ずっとあそこで究竟様の封印を解いてくれる人間が現れるのを待ってたニャ」
琥太郎の話によると、200年前に究竟が戦国武将の間宮義勝に封印された時、琥太郎も白と黒の二毛のハチワレ猫に姿を変えられてしまった。
究竟に仕えていた琥太郎は天界の住人ではあるが神仙ではないらしい。究竟がいないと自分の力だけでは人の姿に戻ることができなくて、本当にただの猫になってしまった。
しかしなんとしても封印された究竟を助けたかった琥太郎は、野良猫として雨の日も雪の日も嵐の日も野外で耐え抜き、飢えを凌ぎ、絶対に究竟を助けるまでは死ぬものかと生き抜いた。
そして普通の猫の寿命をはるかに超えた頃。
年老いた猫は化け猫になるという伝承のとおり、琥太郎は不死身になった。
そのおかげで200年もの間生き延びることができ、ただただ究竟の封印を解く人間が現れるのを待っていたのだった。
蒼衣の前にも何人かの人間を甕まで導こうとしたが、誰一人封印を解けるものは現れなかったという。
「なぜ僕は封印を解けたの?」
「わからないニャ。でも何度かあの神社の前で蒼衣様を見かけるうちに、この人だと思ったニャ。そしてその通りになったニャ」
なぜ蒼衣だったのかは琥太郎にもわからないらしい。
「でも究竟様にとって、蒼衣様が特別な人間なのは変わらないニャ」
「えっ?」
「だって昨日の夜、早速二人でいちゃついてたニャ」
琥太郎にもバレてる!
「もしかして、見てたの!?」
「見てはないニャ。けど、蒼衣様の喘ぎ声が外までうるさくて眠れなかったニャ」
ああ! だからほら! 隣近所にも聞こえちゃうって言ったのに!
「蒼衣様といちゃいちゃして究竟様は……」
「わーーー! もうそれ以上言わないでーーー!」
あまりの恥ずかしさで琥太郎の言葉を叫んで遮った時、ガラガラと音がして戸が開いた。
「何をそんなに騒いでるんだ?」
「究竟様! おかえりニャ!」
家の中に入って来た究竟の足元に、琥太郎は擦り寄ってすりすりした。
「まだ猫の時の癖が抜けてないな」
そう言いながらも琥太郎の頭を撫でている究竟と目が合った蒼衣は、努めて平気な振りをした。
「おかえりなさい、究竟様。どこに行ってたんですか?」
「ちょっと江戸見物にな。何しろ200年ぶりの娑婆だから知らないことが多い。お、今日の夕飯は焼魚か?」
「ニャ。ねこまんま万歳ニャ」
琥太郎が用意してくれた夕飯を、四畳半の狭い部屋で男3人で囲んで食べる。
「琥太郎さんはいつから究竟様に仕えているんですか?」
「子供の頃からニャ。3歳年上の究竟様はかっこよくて優しくて大好きだったニャ。究竟様が戦死した時は悲しくて悲しくて。でも琥太郎も次の戦で24歳の時に戦死したニャ。そしたら究竟様が迎えに来てくれたニャ」
「天界での生活は面倒くさいことも多いからな。琥太郎がいてくれた方がいいと思ったんだ」
「究竟様にまた会えて嬉しかったニャ。だから琥太郎は究竟様のためならがんばるニャ」
「琥太郎さんは神仙にはならないんですか?」
「神仙になるにはそれはそれは大変な修行と精神力が必要ニャ。琥太郎には無理なのニャ」
「神仙になるのは大変なんですね」
「誰でもなれるわけではないニャ。だから究竟様はすごいのニャ」
こんなに美しくて強くて精神力もあるならそれはモテるだろうと感心した時、百合江のことを思い出した。
あ、究竟様に言わなくちゃ。
「あの、究竟様。明日の夜、歌舞伎見物に行きませんか? 昨日道で会った百合江お嬢様が席を用意してくれたんです」
「ふーん。わかった」
あっさりと了承してくれて蒼衣はほっとした。
これで百合江と究竟がうまくいってくれればそれに越したことはない。究竟も自分に昨晩みたいな戯れをしなくなるだろう。今日からは琥太郎もいるし、やはり昨晩のことは一時の誤ちだったのだ。
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