江戸の奉公人ですが美しい神仙の封印を解いたら運命の人でした

闇雲シャルロッテ

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 間宮は炎に包まれている蒼衣を見て驚いた。

「おい、どうしたんだその炎は!?  お前、熱くないのか?」
「これは僕の怒りの炎だ。僕をこんなに怒らせたのは貴方あなたがはじめてだ」
「ふん、お前ごときの怒りの炎が何だ。まだわからないのか? これはすべて、わしが究竟を愛している証だ!」
「貴方の愛など愛ではない。そんなのはただの逆恨みだ。愛する人を傷つけ悦んでいる貴方に、愛を語る資格などない」
「ほう、ならどうするんだ? さっきも言っただろ? 炎をまとったところでお前ごときにわしは殺せん」
「そうだ、貴方は殺せない。でも卑怯ひきょうな貴方は、まだ僕に嘘をついていた」
「何?」
「貴方はさっき、僕が死んだら究竟様の神通力も消滅すると言ったが、それは嘘だ。卑怯で残忍ざんにんな貴方が僕を殺さずに記憶を消すだけにとどめる理由は、ただひとつ」
「よすんだ蒼衣! お願いだからやめてくれ!」

 究竟が叫んで止めようとするが蒼衣は止まらない。

「究竟様、あとは頼みますね。よく見ていろ間宮! これは、僕を想いながら死んでいった、両親のかたきだ!!」

 蒼衣は鉄剣を頭上高く振り上げると、自分の背中の六芒星ろくぼうせいの印目掛めがけて一気に深く突き刺した。

「蒼衣――!!!!!」

 はりつけにされたまま究竟が泣き叫ぶ。
 蒼衣の背中から飛沫しぶきが舞い飛び、鉄剣が突き刺さったままの六芒星の印からはどくどくと血が湧水わきみずのように湧き出ては背中を流れ落ちていく。
 と同時に、蒼衣の全身から直視できないほどのまばゆい光が放たれ、間宮の暗黒の世界がその強烈な光で真っ白になった。

 目が焼かれそうなほど眩しい光を避けるために腕で目をおおった間宮が叫ぶ。

「しまった! 結界が破られた!」

 強烈な光が消えて目を開いた間宮は、怖ろしい殺気を背後から感じた。
 恐る恐る振り返るとそこには、磔台や拘束具などうに破壊して神々こうごうしいほど美しく自信と力に満ちあふれた究竟が立っていた。

「200年ぶりに力がみなぎったわ」

 蒼衣が自ら命を絶って六芒星の印の結界を破ったことにより、蒼衣の中に封印されていた究竟の神通力が解放されて究竟のもとに戻ったのだ。
 究竟ににらまれカッと目から光を放たれた間宮は動けなくなりその場で固まった。
 究竟は岸辺で大量の血を流し倒れている蒼衣を抱き上げたが、すでに心音も呼吸も停止していた。
 琥太郎をハチワレ猫から人の姿に戻し蒼衣をたくすと、究竟は固まって身動きできない間宮に対峙たいじした。

「さて、どう料理してやるか。いや、もう一分一秒たりともお前の顔など見たくない」
「ゆ、ゆるしてくれ、究竟。これはすべてわしがお前を愛してしまったせいだ。お前がわしをほんの少しでも愛してくれたなら、こんなことにはならなかった」
「蒼衣を殺しさえしなければ、赦してやったものを」
「こいつは自分で死を選んだんだ」
「まだそんなことを言うのか。その汚い口には反吐へどが出る」

 究竟は両手を合わせて口元を動かし呪文を唱えると、最後に片手を天に突き上げた。
 すると間宮のおぞましい精神世界が崩れ、元の結城の屋敷の座敷部屋に戻ったかと思いきや、辺り一面黒い雲に覆われゴロゴロと雷鳴が鳴り始めた。
 ぽつりぽつりと降り出した雨がにわかに激しい雷雨となり、すぐ頭上で稲妻と太鼓を打ち鳴らすような雷鳴がとどろいた。
 その暴風雨により屋敷の屋根や壁やふすまなどはすべて破壊され、ほとんど野外同然となった座敷に現れたのは、雷雲に乗り雷鼓を背負った雷神だった。

「誰に呼び出されたかと思いきや、究竟じゃないか。200年も沙汰さたなしとは薄情よのう」
「ちょっと野暮やぼ用でな。無沙汰ぶさたですまん」
「まあいい。で、何の用だ?」
「この男を雷で一撃してやってくれ。髑髏どくろごと」

 究竟は間宮のふところから髑髏を取り出すと雷神に投げ渡した。雷神が間宮を一睨ひとにらみする。

「ひいいいい!」

 睨まれて悲鳴をあげた間宮に、雷神はニヤリと笑った。

「ちょうどよいわ。とある生意気な悪大名あきだいみょう天守閣てんしゅかくに、雷を一撃落としてやろうと思っていたところ。こいつをその天守閣の天辺てっぺんに置いて一緒に撃ってやろう」
「頼んだ。礼はする」
「極上の酒を用意しとけ。じゃあな」
「ぎゃああああ―!」

 わめき叫ぶ間宮を怖ろしい形相で掴んだ雷神は、激しく雷鼓を打ち鳴らし雷鳴を轟かせながら雷雲に乗って天の彼方へと消えていった。
 それを見送ると究竟は琥太郎の腕の中で息途絶いきとだええている蒼衣の元へ駆け寄り、自分の胸の中へと抱き抱えた。
 六芒星の印からおびただしい血を流し、力なくがくんと頭も両手足も下にぶらさがってしまっている冷たい蒼衣のほほに、究竟は自分の頬を寄せて涙した。
 体温も心音もない。いくら究竟が神仙しんせんいえども、死人をよみがえらすことは領域りょういきがいだった。
 蒼衣を抱き抱えたまま抑えきれずに声を上げて泣く究竟を、琥太郎は見守ることしかできなかった。
 究竟が冷たい蒼衣の唇に、最後の口づけをした時だった。

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」

 おきなの笑い声が天から降ってきた。

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