Sinclair

藍川 かの

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シーズン1

3

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「ん、んんっ……」

目が覚める感覚がした。

ぼーっと、光が視界に溢れ出す。しかし、完全に目が開いた感じはせず、チカチカしている。

……ここは、何処なのだろうか。

そういえば僕、エレオノールとクロエってやつと、新学院生になる交渉をして……。

して……?

どうなったのだろう?

ここは一見、ただの病室にしか見えなかった。窓からは暗闇と__

墓。

紛れもない墓が、それもかなりの数の墓が、窓からたくさん見える。ものすごく、不気味だ……。

嗚呼、騙されたのかなぁ。

学院の周りに墓だなんて……笑わせてくれる。冗談にも程があるだろ。てか怖い。

「おやおやぁ、目が覚めましたー?」

僕ははっとした。

ふと横を見ると、そこには__

「う、うさ、う、ううう?!うさ耳?!なんだよお前!!!!!?」

そう__うさ耳が生えた女が__いた。コスプレでも、カチューシャでもなさそうだ。本当に緑色の髪の分け目からにょきっと、しっかりと生えている。一体全体、何がどうしたって言うんだ。うさぎの耳を生やした、女が、いる、だなんて。

「あらあらやだやだ。うさ耳だなんて。アドルノ族を知らないんですね?まぁ、西の方から来たのなら仕方がないかもしれないわねぇ。なにせ、アドルノ族は北の方でしかあまり見かけませんから。あ、そうだ。念の為、そこに置いてある体温計で体温、測ってくださいねぇ」

「は、はぁ……い……」

これがマシンガントークというものか。すごい。圧が。すごい。

ふと、僕は、うさ耳の女がぶら下げているネームプレートに目を落とす。

「あめ、りー?」

そう記してあった。アメリーというのだろうか、このアドルノ族……?のうさ耳の女は。

「あらぁ、嬉しいです、名前で呼んでいただけるだなんて。私の名はアメリー。シンクレア学院の保険治療室長を務めさせてもらっているの」

ん……?

いま、こいつ、シンクレア学院って……?

もしかして……。

僕はがばっとベッドから起き上がる。

「シンクレア学院?!?!!!っていうのか?!!!ここは!!!」

「あらぁ、そういえば、歓迎会どころか、ここが何処なのかすらも分かっていなかったんでしたよね。まぁ、直々、グループ長のアンテルム君が迎えに来てくれることでしょう。そんなに不安にならなくても大丈夫ですよ、うふふ」

僕、騙されていなかったみたい……?

少しだけ安心してきた。

かと思えば、アメリーがいきなりむっつりとした表情でこちらを見てきた。

「体温はいつになったら測ってくれるんですかっ?レポートがいつまで経っても書けないじゃないっ!それとも、エレオノールの薬の副作用が……?」

僕は首を横に振り、しぶしぶ体温計を脇に挟む。というより、そんなに体温を測れと言われてから時間が経ってないような……?まぁいい。

ピピピーッという体温計の高い音が室内に響き渡る。

平熱。

体温計をアメリーにそのまま返した。

「平熱ね、ありがとう。頭痛は?吐き気は?大丈夫かな?」

「う、うーん、うん」

そんなことよりも、気になることがあるのだけれど……。僕は、特に窓から見えた墓のことが気になって仕方がなかった。

学院の周りに墓が並んでいるということだろうか。__ここはもしかしたら医療学院?ネズミの死体でも埋まっているのだろうか。

まぁ、グループ長とやらが迎えに来てくれるのなら、待つとしよう。

約五分が経過した。そんなこんやで待ちわびていると、軽やかなノックの音が保険治療室に響き渡った。

「アンテルムだ!開けてくれ!」

アンテルム……というのは、恐らく、先程アメリーが述べていたグループ長とやらの事だろう。

アメリーがよいしょと言って立ち上がり、ドアを横にスライドさせて開けた。

「はいはーい!あっ、アンテルム君!わざわざありがとう!エヴァルト君はこっちよ」

アメリーが丁寧に僕の事を示す。

アンテルムと呼ばれていた青年は、ふむ、と言って手を顎に寄せた。

「エヴァルト・バーデン君だね。よろしく。俺はアンテルム。これから君が入る、"ツヴァイ"というグループの長を務めているんだ」

「ふぅん……。よろしくお願いします」

僕とアンテルムは軽い握手を交わした。

アンテルムは赤毛の好青年、といった印象の奴だった。青色がかった緑色の目がギラギラと輝いている。

僕は疑問をそのまま投げつけることにした。僕はきっと、気になることがあると、直ぐに聞きたくなるタイプなのだ。

「あの、ツヴァイ……?ってなんすか?あと、この学院の周りにある墓って?」

はははっ、とアンテルムは爽やかに笑った。

「まぁ、初めのうちはそうだよねぇ。気になることって沢山あるよな。まず、ここの学院がシンクレア学院っていうのは知ってるか?」

僕は静かに頷く。

「そう、このシンクレア学院には、クロエ達から聞いたと思うけど__退学が無いんだ。エヴァルト君がぱっと聞くと、良い様に聞こえるかもしれない。でも、違う。このシンクレア学院から出る手段は二つしかないんだ。残念ながら、この手段達を使わないと、もう家族や友人に会うことは出来ない」

僕はごくりと唾を飲み込む。「エヴァルト君がぱっと聞くと」という所に腹が立ったが、嫌な予感がする。僕の脳裏に、さっき窓から眺めていた墓のことが蘇った。マノニには会えなくていいけれど。

「一つ目は、卒業試験というものに合格し、"ラファン"という外の世界に繋がる扉を開けること。もう一つは__」

アメリーが沈んだ表情を見せる。なんだなんだ……。

「そのままシンクレアで死んで、この周りの墓に埋められるか、だ」

……は?

今、なんて……?

僕の開いた口が塞がらなかった。

__そのままシンクレアで死んで、この周りの墓に埋められるか__

「む、むむむむむ無理無理無理!帰らせてくれ!そんなの!嫌だ!こんなとこで死にたくない!冗談ならマジでやめてくれ!試験とか勘弁してくれ!」

「……落ち着いて、エヴァルト君」

ここで、アメリーが口を挟んできた。アメリーの目が穏やかだ。

「大丈夫、大丈夫。ここの学院の目的__エヴァルト君はまだ、知らないでしょう?多分、エヴァルト君なら試験も簡単に合格できると思うわ」

「も、目的……?」

医療学院でないのなら、何だろう。

その時、僕ははっと思い出した。

クロエが前に言っていたことを、思い出した。

__「大人の事情ってもんがあるから、あて達の言う通りにしてとっとと眠れ!眠ってる奴を運ぶってのも結構大変なんだよ!」

大人の事情?そもそも、眠ってる奴を運ぶって……あいつらにできたのか?パッと見、身体付きはひ弱そうな二人だったけれど。

「な、何なんだ?目的って?明らかに怪しそうなのは分かるけど」

「と、その目的について話す前に……エヴァルト君は、二百年前に起きた、かなり大規模な事件の事を知ってるかな?」

「多分、知らないと思う。僕、勉強とか全くしてきてなかったから。特に歴史は苦手」

「そう……実はね、エヴァルト君」

アメリーがすうっと息を吸い込む。

「二百年前に、裏社会の人間達が次々に処刑されていった事件なんだけど、聞いた事ないかしら?」

残念なことに、やはり僕に心当たりは無かった。

「申し訳ないけど、初めて聞いたよ」

「そう……まぁそれはいいのだけれど、その処刑された人物という者にシン・ウォーカーという人がいて。そのシン・ウォーカーの妹、クレア・ウォーカーが、殺された兄の遺志を継ごうとしてできた学院がここ、シンクレア学院なの、つまり……」

「ここは裏社会の人間を育て上げる学院ってことだ。分かるか?だから極秘で小さな小さな帝国から離れた島に、シンクレアは建てられている。それで出る方法が限られているって訳だぜ」

かなり美味しい部分を最後にアンテルムが持っていった。

なるほど。これならクロエが言っていたこととも辻褄が合う。あれ、でも、学院から出ていたクロエ達はそうすると学院生じゃないのか……?まぁ、後で聞くとするか。多分この感じだと、もう一回ゆっくりとクロエ達と話せる機会はありそうだし。

アンテルムがパンッパンッと手を叩く。

「さぁ、改めてSinclair学院へようこそ、新学院生さん。これから歓迎会を開くから来て欲しい。一応、俺は、その為に保険治療室に君を呼びに来たんだけどね」

アンテルムの顔に薄い笑みが広がった。

「アメリー、毎度毎度、ありがとう。ここまで来た以上、エヴァルト君にはもう拒否権が無いよ。行こうか、大広間へ。きっと、学院生の皆が待ちわびているよ」
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