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第1話 終わりなき鬼ごっこ、始まりの腐敗
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意識が浮上する。
鈍い痛みと、鼻腔を刺激する甘ったるい腐敗臭。
湊 啓太は目を開けた。
そこは『3階の女子トイレ』ひび割れた鏡に映るのは、土気色の顔色をした自分自身の姿だ。
左腕の皮膚は爛れ、一部の肉が削げ落ちている。
左足にはまったく感覚がない。
また、だ。
また戻ってきた。
啓太は奥歯を噛みしめた。
(くそ、今度は左足か。もう何回目だ?)
鏡の前の手洗い場には、赤黒い水が溜まり、腐臭を一層強くしている。
自分が何度死に戻りを繰り返しているのか、もはや定かではない。
痛みと恐怖で頭が混乱する中、ただ一つ確かなのは、この『旧・如月高校』という廃校で、彼は『顔のない生徒』との『鬼ごっこ』を強要されているということだった。
「みーつけた」
頭上から、子供のような無邪気な声が聞こえた。
ゾッと背筋が凍る。
啓太は反射的に便器の個室から飛び出した。
廊下に出ると、天井の蛍光灯は不規則に点滅し、明滅する光が影を長く伸ばす。
窓の外は漆黒の闇だ。
どこへ逃げても、どう足掻いても、この『旧・如月高校』からは出られない。
廊下の突き当たりから、ボロボロの制服を着た少女が現れた。
顔があるべき場所はのっぺらぼうで、ただ裂けたような口だけが弧を描いて笑っている。
『顔のない生徒』だ。
「ねえ、なんで逃げるの? もっと遊ぼうよ。……あはは、キミ、なんかボロボロだね。すごい腐敗臭。次捕まえたら、ドコをもらおっかなあ?」
『顔のない生徒』の声が、啓太の足元に影を落とす。
啓太は左足を引きずりながら、必死に階段を駆け下りた。
しかし、腐敗した左足は彼の思うように動かない。
ガタガタと手すりに捕まりながら一段一段降りるが、追いつめられていることは明白だった。
階段の踊り場で息を整えようとした瞬間、背後から冷たい手が伸びてきた。
避けられない。
(また……だ。また殺されるのか。)
啓太の意識はそこで途切れた。
次に目覚めたのは、またしても『3階の女子トイレ』だった。
全身を蝕む激痛。
鏡を見ると、顔の右半分が完全に肉を失い、頬骨が剥き出しになっている。
右腕は肘から先が溶け落ちていた。
(痛い、痛い、痛い!もう嫌だ……!)
絶望が啓太の心を覆い尽くす。
それでも、生への執着だけが、彼を動かす原動力だった。
這うようにしてトイレから出ると、廊下は歪み、壁の至るところに黒い染みが浮き出ている。
異界化がさらに進行している証拠だ。
理科室の扉が半開きになっていた。
わずかな好奇心に駆られ、啓太は中を覗き込む。
ホルマリン漬けの棚の前に、白衣を着た少女の幽霊が佇んでいた。
サチだ。
彼女は冷めた目で、啓太の惨めな姿を見つめる。
顔には同情の色一つない。
「あんた、もう死体みたいな臭いがするわよ。あと3回死んだら、身体が崩れて動けなくなって『ゲームオーバー』ね。……仕方ないわね、あいつが階段を登れない理由、教えてあげる。」
サチの言葉に、啓太は息を飲む。
ゲームオーバー? あと3回しかチャンスがないのか。
そして『顔のない生徒』が階段を登れない? それが、この地獄からの脱出のヒントになるのだろうか。
(サチ……こいつは敵じゃない。でも、味方でもない。ただの傍観者だ。だが、この情報を利用するしかない。)
啓太の脳裏に、サチが口にした『剥ぎ取られた名札』という言葉がよみがえった。
彼を縛るこの呪いを解く鍵は、その名札に隠されているのかもしれない。
------------------------------
【登場人物】
- 湊 啓太: 主人公
- 『顔のない生徒』: 廃校の怪異、鬼ごっこの鬼
- サチ: 理科室の幽霊、情報提供者
【場所】
- 旧・如月高校: 物語の舞台となる廃校。深夜0時になると異界化し、脱出不能の閉鎖空間となる。ループするたびに内部構造が変化する。
- 3階の女子トイレ: 啓太が死に戻りした際に必ず目を覚ます「リスポーン地点」。鏡は割れており、手洗い場には赤黒い水が溜まる。
- 理科室: ホルマリン漬けの棚がある部屋。サチが佇む場所。
【アイテム・用語】
- 死腐の呪い: 死に戻りの代償。記憶と意識は引き継がれるが、肉体は「死んだ回数分」だけ腐敗が進行した状態で復活する。最終的には意識ある肉塊と化すタイムリミット付きのループ。
- 鬼ごっこ: 『顔のない生徒』が啓太に強要する、終わりのないゲーム。捕まると『タッチ』と呼ばれ、死を意味する。
- 剥ぎ取られた名札: 校内の各所に隠されたアイテム。『顔のない生徒』の奪われた顔(アイデンティティ)を取り戻すための欠片。全て集めて「名前」を思い出させない限り、鬼ごっこは永遠に終わらない。
鈍い痛みと、鼻腔を刺激する甘ったるい腐敗臭。
湊 啓太は目を開けた。
そこは『3階の女子トイレ』ひび割れた鏡に映るのは、土気色の顔色をした自分自身の姿だ。
左腕の皮膚は爛れ、一部の肉が削げ落ちている。
左足にはまったく感覚がない。
また、だ。
また戻ってきた。
啓太は奥歯を噛みしめた。
(くそ、今度は左足か。もう何回目だ?)
鏡の前の手洗い場には、赤黒い水が溜まり、腐臭を一層強くしている。
自分が何度死に戻りを繰り返しているのか、もはや定かではない。
痛みと恐怖で頭が混乱する中、ただ一つ確かなのは、この『旧・如月高校』という廃校で、彼は『顔のない生徒』との『鬼ごっこ』を強要されているということだった。
「みーつけた」
頭上から、子供のような無邪気な声が聞こえた。
ゾッと背筋が凍る。
啓太は反射的に便器の個室から飛び出した。
廊下に出ると、天井の蛍光灯は不規則に点滅し、明滅する光が影を長く伸ばす。
窓の外は漆黒の闇だ。
どこへ逃げても、どう足掻いても、この『旧・如月高校』からは出られない。
廊下の突き当たりから、ボロボロの制服を着た少女が現れた。
顔があるべき場所はのっぺらぼうで、ただ裂けたような口だけが弧を描いて笑っている。
『顔のない生徒』だ。
「ねえ、なんで逃げるの? もっと遊ぼうよ。……あはは、キミ、なんかボロボロだね。すごい腐敗臭。次捕まえたら、ドコをもらおっかなあ?」
『顔のない生徒』の声が、啓太の足元に影を落とす。
啓太は左足を引きずりながら、必死に階段を駆け下りた。
しかし、腐敗した左足は彼の思うように動かない。
ガタガタと手すりに捕まりながら一段一段降りるが、追いつめられていることは明白だった。
階段の踊り場で息を整えようとした瞬間、背後から冷たい手が伸びてきた。
避けられない。
(また……だ。また殺されるのか。)
啓太の意識はそこで途切れた。
次に目覚めたのは、またしても『3階の女子トイレ』だった。
全身を蝕む激痛。
鏡を見ると、顔の右半分が完全に肉を失い、頬骨が剥き出しになっている。
右腕は肘から先が溶け落ちていた。
(痛い、痛い、痛い!もう嫌だ……!)
絶望が啓太の心を覆い尽くす。
それでも、生への執着だけが、彼を動かす原動力だった。
這うようにしてトイレから出ると、廊下は歪み、壁の至るところに黒い染みが浮き出ている。
異界化がさらに進行している証拠だ。
理科室の扉が半開きになっていた。
わずかな好奇心に駆られ、啓太は中を覗き込む。
ホルマリン漬けの棚の前に、白衣を着た少女の幽霊が佇んでいた。
サチだ。
彼女は冷めた目で、啓太の惨めな姿を見つめる。
顔には同情の色一つない。
「あんた、もう死体みたいな臭いがするわよ。あと3回死んだら、身体が崩れて動けなくなって『ゲームオーバー』ね。……仕方ないわね、あいつが階段を登れない理由、教えてあげる。」
サチの言葉に、啓太は息を飲む。
ゲームオーバー? あと3回しかチャンスがないのか。
そして『顔のない生徒』が階段を登れない? それが、この地獄からの脱出のヒントになるのだろうか。
(サチ……こいつは敵じゃない。でも、味方でもない。ただの傍観者だ。だが、この情報を利用するしかない。)
啓太の脳裏に、サチが口にした『剥ぎ取られた名札』という言葉がよみがえった。
彼を縛るこの呪いを解く鍵は、その名札に隠されているのかもしれない。
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【登場人物】
- 湊 啓太: 主人公
- 『顔のない生徒』: 廃校の怪異、鬼ごっこの鬼
- サチ: 理科室の幽霊、情報提供者
【場所】
- 旧・如月高校: 物語の舞台となる廃校。深夜0時になると異界化し、脱出不能の閉鎖空間となる。ループするたびに内部構造が変化する。
- 3階の女子トイレ: 啓太が死に戻りした際に必ず目を覚ます「リスポーン地点」。鏡は割れており、手洗い場には赤黒い水が溜まる。
- 理科室: ホルマリン漬けの棚がある部屋。サチが佇む場所。
【アイテム・用語】
- 死腐の呪い: 死に戻りの代償。記憶と意識は引き継がれるが、肉体は「死んだ回数分」だけ腐敗が進行した状態で復活する。最終的には意識ある肉塊と化すタイムリミット付きのループ。
- 鬼ごっこ: 『顔のない生徒』が啓太に強要する、終わりのないゲーム。捕まると『タッチ』と呼ばれ、死を意味する。
- 剥ぎ取られた名札: 校内の各所に隠されたアイテム。『顔のない生徒』の奪われた顔(アイデンティティ)を取り戻すための欠片。全て集めて「名前」を思い出させない限り、鬼ごっこは永遠に終わらない。
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