回復魔法をかけるたび傷口から『眼球』が増殖する聖女様と、それを潰して回るのが仕事の僕の、地獄のような冒険譚。

無響室の告白

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第1話 視線の街道

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「いいから患部を見せるな、目を背けていろ。……ほら、これで終わりだ。『治療』完了。次は潰したあとの掃除だ、吐き気がする。」

レオンの冷たい声が、辺りを埋め尽くす眼球のざわめきに紛れて響く。

彼は『聖女』エリーゼの守護騎士、そしてその副産物を処理する『処理係』だ。

周囲は『視線の街道』と呼ばれている。

かつて聖女エリーゼが大規模な治癒魔法を行使した古戦場跡だ。

地面、木々、遺棄された武具、そのあらゆる『傷跡』から、不規則に瞬き、何かを訴えるように涙を流す『聖痕の眼球』が埋め込まれている。

それらが常にレオンを見つめてくる。

「ごめんなさい、レオン……。でも、あの子供を死なせるわけにはいかなかったの。たとえ、あの子の足が『私を見てくる』ようになっても……。」

エリーゼは今にも泣き出しそうな顔で、震える手で『鎮静の黒布』を押し当てた患部から目を背けていた。

彼女の足元には、数分前まで重傷を負っていた子供が、今は完全に癒された、しかし無数の眼球に覆われた足を引きずりながら、母親らしき女に抱きかかえられている。

女は感謝の言葉を述べながらも、その奇妙な足に怯えているようだった。

(まただ、またやってしまった。私の力は、なぜこんなにもおぞましい結果しか生まないのだろう。)

エリーゼの心の声が、レオンには聞こえる気がした。

いつものことだ。

レオンは無言で『銀の千枚通し』を構える。

刃先には、聖別された銀の光が鈍く反射していた。

子供の足に押し当てられた布を剥がすと、やはりそこには新生した皮膚を埋め尽くすように、無数の眼球が蠢いていた。

彼らは不気味に動き、レオンの銀の千枚通しを目で追う。

「ヒヒヒ、潰すなよ? 潰すんじゃねぇぞ、その目は聖女様の愛だ! 俺の身体中から、あの方が俺を見守ってくださっているんだヒヒヒ!!」

突如、背後から狂ったような声が響いた。

振り返ると、全身の古傷に眼球を宿したままの元傭兵、ガルドがニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。

彼は数年前、エリーゼに救われた狂信者で、以来、彼らの旅につきまとっている。

(まったく、面倒なストーカーだ。いや、この『治療』自体が面倒で吐き気がするのだが。)

レオンはガルドを一瞥すると、すぐに眼球だらけの患部に視線を戻した。

任務を果たす。

それだけだ。

無慈悲に銀の千枚通しを突き立て、最初の眼球を潰す。

ブチッ、と嫌な音がして、白い液体が飛び散った。

子供は甲高い悲鳴を上げたが、すぐに意識を失った。

聖痕の眼球は、潰されるたびに不規則な悲鳴のような蠢きを見せ、そのたびにエリーゼは体を震わせた。

レオンは淡々と、作業を続ける。

この地獄は、いつまで続くのだろうか。

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【登場人物】

  - レオン: 主人公、聖女の守護騎士兼『処理係』

  - エリーゼ: ヒロイン、回復魔法で眼球を増殖させる聖女

  - ガルド: エリーゼを崇拝する狂信的な元傭兵

【場所】

  - 視線の街道: 聖女エリーゼが大規模な治癒魔法を行使した戦場跡。地面、木々、遺棄された武具に至るまで、癒やされた『傷跡』から生じた眼球が埋め込まれている。

【アイテム・用語】

  - 銀の千枚通し: レオンが常に携帯する、眼球破壊専用の鋭利な器具。感染症(または呪いの逆流)を防ぐために聖別されている。

  - 聖痕の眼球: エリーゼの魔法で塞がった傷口に密集して発生する眼球。視神経は繋がっていないはずだが、不規則に動き、瞬きし、時折何かを訴えるように涙を流す。

  - 鎮静の黒布: 治療直後の患部を覆うための特殊な布。眼球が暴れまわるのを一時的に抑える効果があるが、長くは持たない。
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