俺の物語には主人公だけがいない

モコ

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第二章 動き出した人生

探偵のお仕事

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2021年6月14日月曜日
時刻は朝の8時頃。
佐藤は事務所のデスクでコーヒーを飲んでいた。
探偵事務所の営業時間は9時からだが、営業開始前に色々とやることがあるのでこの時間に出勤している。
恵の方はいつもギリギリに来るのでまだいない。

一人で静かに寛げる、少しだけ落ち着く時間だ。眠いのは困りものだが。
本日の予定は午前中に浮気調査の相談が2件。
午後からは今のところ予定はないが、午前の相談内容次第だろう。
すぐにでも動く可能性もなくもないし、見積やら必要になるかもしれない。
それと日曜日に打ち合わせをした一件も計画が必要だなと考えていた。
夕方からは朝田の再調査に尼崎に向かうか。
一応経過報告を兼ねて、後で妻の方に連絡を取ってみよう。

「そう言えば、例の発光事件の2人組も見かけたら云々言われていたっけ。」

佐藤は土曜日の間宮との話を思い出した。
一応忘れない様に画像だけは確認することにした。
仕事柄、人の顔を覚えるのは得意というか慣れている。
念の為画像の2人組の顔を頭に叩き込んでおいた。

「おはよーございまーす!」
そうこうしているうちに恵が出勤してきた。
そろそろ営業時間だと、佐藤も準備を始めた。

--正午過ぎ
恵は憤っていた。
「ほんとに許せない!カズさん、西野さんの依頼は絶対やりますよ!」
恵は浮気調査の依頼があるといつもこんな調子だ。
特に依頼人が若い女性で、相手の男がクズだとより一層の熱が入る。

西野というのは午前中に相談に来た依頼人の一人だ。
28歳女性。旦那の浮気に困っていて、知り合いの勧めで証拠だけでも・・・となったらしい。
その件で特に怒っているようだ。
探偵としては依頼人の話に入れ込み過ぎるのは考え物なんだが、それが恵の良さでもあるので黙っておく。

西野夫人の件はある程度案を提案した方が良さそうだ。
20代の専業主婦、それも失意の真っただ中ということもあってか、あまり具体的な計画等もなく兎に角相談に・・・といった感じだった。

こういう場合はこちらから具体的に寄り添っていく。
それが個人経営の探偵事務所としてやれる最善策だろう。
大手だとマニュアル対応が多く、こうはいかない。
そこは上手く差別化しないとな。
佐藤自身も元々は大手の探偵事務所に所属していたので余計にそう思う。
折角個人でやっているのだし、大手の時の感じた不自由さは解消しないと意味が無い。

それは兎も角として、西野夫人の件は恵に任せてみようか。
もちろんメインで動くのは佐藤だが、調査の計画や夫人との連絡などは恵に任せても良い。
恵の経験を積ませることにもなるしな。

「恵、さっきの西野さんの件だけどな、調査の計画と西野さんへの提案やら相談、任せるわ。」
「え!?良いんですか!?やります!」
良い返事だ。
「じゃあどうやって進めるか考えたら報告して。その後見積りもだな。」
「ラジャー!」
さて、そっちは恵に任せるとして、今日のメインの方を考えるか。
佐藤はそそくさと朝田再調査の準備を整え始めた。

--夕刻17時ごろ
佐藤は阪神沿線のとある駅の外にいた。
朝田は会社の最寄り駅のこの駅を利用している。
今日はこの付近で張り込むことにした。

正直なところ不倫現場を押さえるには分が悪い張り込みだと思う。朝田の動きは全く読めない。
朝田の会社は正門だけなので出入りは確認が容易だが、場所が住宅街のど真ん中なせいで長時間の張り込みが厳しい。
しかも朝田の退社時間が全くわからない。
妻にも連絡を入れずに飲み歩くタイプらしく、妻側からの情報提供も望めない上に早い時は定時の17時直後、遅い時は20時過ぎに出てくる。
運が悪ければ会社の前の住宅街で数時間見張る羽目になり、完全に不審者だ。
警察に通報されるだけならまだ良いが、会社側に通報されたら部長の朝田にも話が伝わってしまうだろう。
警戒されたらたまったもんじゃない。

今回駅近くを選んだのは、先週の朝田の動きからの勘に近いものだった。
朝田は会社近辺で会社関係者と日替わりで飲み歩いているが、不倫行動はとっていなかった。
ならば、会社の近くで不倫行為を行う可能性は低いと考えた。
恐らく真っ直ぐ帰った時が狙い目ではないかと読んだのだ。
帰るのであれば最寄り駅のここに来るのはほぼ確実だろう。
そこからつけた方が可能性が高いと思ったのだ。

狙いはもう一つあり、先日朝田といた女性だ。
佐藤の経験上、恐らく社内の女性だ。
朝田が飲みに行ったとしても、こちらの女性の方は見つかるかもしれない。
そちらから先に調べても良いと思った。
そちらの女性の調査が進めば、場合によっては朝田をつけるよりも確率が高いかもしれないとの考えもあった。
この会社の最寄り駅はここだし、女性社員だとしたら事務員の可能性も高いだろう。
割と早く帰るはずだ。
一応、最寄り駅では違う路線の駅もあるので、そっちから通っている場合は運が無かったという感じか。

そんな感じで、佐藤は喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
この位置からならこの駅唯一の改札に続くメインの階段が良く見える。
一応他の入り口もあるにはあるのだが、あまり利用者はいない。
会社員などの通勤利用者はほぼこの階段から登っていく。
唯一のエスカレーターもそこにあるので、女性ならほぼ確実にここを通るだろう。

それに加えて、佐藤はPCを開いて映像を確認していた。
先日の間宮との一件で少し思いついたことがあった。
今のご時世、色んな所に監視カメラがあり、ライブ映像が見れたりするのがわかったのだ。
これは尾行にも使えるかもしれないと思った。
折角なのでこの機会に試してみることにした。

しかし、私鉄のあまり大きくない駅だ。繁華街とかも無い住宅街の静かな駅。あては外れた。
「この辺にはライブカメラは無いんだなぁ。」
残念ながらこの辺りのライブカメラは公開されていなかった。
佐藤は気持ちを入れ替え、改札側を凝視した。
そろそろ17時20分になる。朝田の会社を定時であがった社員が駅に続々と現れる時間だ。
佐藤は今か今かと朝田か女性が現れるのを待っていた。
喫茶店自体は先払いだし、PCなどの荷物は片づけた。
朝田と相手の写真はスマホで表示している。

「さぁ、どうだ・・・?」
その数分後だった。ある男の姿が佐藤の目に留まった。
(あれは・・・)
佐藤は急いで画像を確認する。間違いは無さそうだ。
佐藤は慌てて店を飛び出して男を追いかけた。

男が改札を通り、電車を待っている。
少し離れた列で同じく佐藤も電車を待つ。
(あの顔・・・間違いない。)

佐藤は再度画像を確認し、核心を持った。
スーツ姿なので少し雰囲気が違うが、間違いなく先日の謎の女といた男。
吉田拓哉だった。
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