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第三章 日常時々非日常

時妻村4

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もう一つ?
霊能力の件と山田の件。
それ以外の話があるなんて聞いてないぞ?

拓哉はそう思った。

正確には車中で話はしている。

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「状況によっては他にもやりたいことがあるけど。」

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と。
拓哉は女性ばかり+唯志の会話に入るに入れず、上の空だったが。

「うちと取引?おもろいこと言うなぁ。なんじゃ?」
御子は相変わらず不敵に笑いながら言っていた。
元来尊大気味な性格なんだろう。
由緒ある家系の当主なんだ。
それくらいは不思議でもない。

「なに、そんなに難しい話じゃない。ひかりんをここで半年保護してたことにしてくれ。使用人やら御子の家族やらにも話を合わせておいてくれ。」
「え?」「は?」
光と拓哉が同時に反応した。
拓哉は何言ってるんだこいつ?と言う反応だった。
光の方は意味がわかってない感じだ。
他の面々もきょとんとしている。

「確かに難しい話やないが、目的はなんじゃ?目的次第ではお断りやで。」
「うーん。ひかりん、の件は話しても良い?」
どうやら唯志は光の秘密も話すつもりでいるらしい。
「えっと、唯志君が良いと思うなら良いかな。大丈夫そう?」
と光は答えた。
光の唯志への信頼度の現れとでも言える答えだった。
「問題ないと思う。御子は秘密は守れるだろ?」
と、唯志は不敵な笑みを浮かべながら御子を見た。

「なんや、おもろいやんけ。黙っといたるから言うてみ。」
唯志の発言で御子はプライドを刺激されたのか、受けて立つという素振りだった。
こいつ女性の扱いが上手いな、と拓哉は感心していた。

「目的はひかりんの戸籍をとる為。ひかりん無戸籍なんだ。山田と同じく、記憶喪失でここに保護されてたことにした方が話が早い。たまたま訪れた俺らがひかりんを拾って、大阪だか兵庫だかで就籍の手続きを手助けするって体にする。」

また唯志がとんでもないことを言い出した。
拓哉はそう思った。
なんでそんな回りくどい事をする必要があるんだ?などと考えていた。
だが、光はなるほどといった顔をしていた。

「目的はわかったで。やけど、回りくどくないか?普通に事情を説明して戸籍をとった方がええんちゃうか?」
御子の疑問はもっともだった。
だから予め秘密を話す許可をとったのだろう。

「その事情が問題でね。ひかりんはなんだよ。」
「はあああ!?」
御子だけが盛大に驚いていた。
「未来人って、あの未来人!?」
どの未来人のことだろうか。
驚きすぎて意味不明だ。

「えっと、まぁ多分その未来人だよ。」
光が若干引き気味に答えた。
そして唯志が簡単に事の経緯を説明する。

「なる。とりま事情は理解した。それで山田か。あんたらの中で山田も未来人かもってわけやな。確かにそれなら同じ色が混じってたことも納得できるわ。」
「理解が早くて助かる。そう言うわけで普通の事情は説明できないんだ。お願いできるか?」
「確かにこの屋敷で保護してたことにしといたら外界からは遮断されたようなもんやな。実際山田だって村人はほとんど知らん。」
「あー、なるほど。シチュエーションってこういう意味だったんだ!」
光は何か納得したように笑顔になっていた。
唯志と何か密約でもしていたのか?と思い少し嫉妬していた。

「うーん。おもろい話やけど、現当主として面倒事はなぁ・・・」
御子は少し渋るような素振りだ。
もうひと押しでいけそうな雰囲気だが、そのもうひと押しがわからない。
(いざとなったら俺が土下座で頼み込むか・・・?)
と、意味不明に漢気 (?) を出そうと考えたいた。

だが、拓哉の無駄な漢気は出す必要が無かった。

「まぁ面倒な話ってのはわかる。と言うわけで、これは手土産だ。ほんの気持ち。」
そう言って唯志は朝から持っていた手荷物を取り出した。
「手土産?言っておくがうちは金持ちやで。ちょっとやそっとの手土産で・・・」
唯志から手渡されたものは、たくさんの本といくつかの菓子類だった。
いや、雑誌か。

ギャル系のファッション誌に、週刊誌。
大阪、京都、兵庫の観光誌に、オカルト系雑誌まで。
それにプラスしてたこ焼きまんじゅうなどの面白いお菓子。

・・・なんだこれ?
こんなので満足してくれるのか・・・?
拓哉は唖然としていた。

だが御子の反応は違った。

「おおお!ええな!」
御子は満面の笑みで喜んでいた。

(えええ!?)
拓哉は心の中で驚愕していた。
他の面々も唯志のお土産内容にも驚いたが、御子が喜んでいる事に更に驚いていた。

「唯志、あんたわかってるな!」
どうやら唯志からのお土産は非常にお気に召したようだ。

「唯志君、なんで御子ちゃんの欲しいものわかったの?」
光が唯志に訊ねた。
他の面々も気になっていたようで一斉に唯志の方を見た。

「欲しいものはわからないよ。でも、田舎の隔絶された屋敷住まいのギャル。しかも都会の話を聞きたがっていると来たら、こういうの好きかなって思っただけ。会ってみて尚更そう思ったから出してみた。」
光は「唯志君、すごーい」とか言って手放しで褒めていた。
恵や間宮も「すごいな。」などと言っていた。
莉緒は何か鼻高々な様子だった。
自分の彼氏が褒められると嬉しいのだろう。

結局今回も唯志のペースで話が進んで、自分は何の役にも立てない空気な事に不服な拓哉は不機嫌になっていった。
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