俺の物語には主人公だけがいない

モコ

文字の大きさ
168 / 179
最終章 未来へ

ありきたりな日常

しおりを挟む
新年会が終わって、幾分かの日時が経過した。
次の大きなイベントは東京旅行。
だが、その旅行までもまだしばらくの時間があった。
故に拓哉たちは、ありきたりな日常を過ごしていた。

「吉田ー。夕飯ー。」
とある日の夜。
御子がソファーで寝っ転がりながら、拓哉に要求した。
最近はこういう光景が増えていた。
というのも--

「もう少し待ってて。今作ってるから。」
「むー。光はもっと手際が良かったぞー。」
「しょうがないじゃん、俺料理とか全くしてなかったんだし。」
最近光は唯志の部屋にいることが多い。
必然的にこの二人の夕食がなくなる。
御子がそんなものをやるわけもなく、拓哉が代わりにその役をやっていた。

だが、単純に押し付けられたわけでもない。

「それはあんたの都合や。美味いか不味いかもわからんもんを、食べてもらえるだけでもありがたく思わな。」
「それは確かにそうだけど。」

そう、押し付けられたというよりは、拓哉側から言い出したことだった。
御子は別に宅配でも惣菜でもコンビニでもよかった。
だが、拓哉が作るというので、その美味しいかも定かではない夕食に付き合っていた。

「この前の謎スープみたいなのは勘弁やで。」
さらっと釘を刺された拓哉。
「う、わかってるよ。」
プレッシャーを感じながら、不慣れな手つきで料理を進めていた。

--
「はい、できたよ。」
食卓に皿が並んだ。

「チャーハン?」
「そうだよ。」
「・・・だけ?」
「うん。」
拓哉が作ったのはチャーハンだけだった。

「あ、ビールもあるよ。」
「あんた、女子に食べさす料理としてチャーハンとビールってどうなんや?」
「う、確かに・・・。でもまだこれくらい簡単なのしかできないし。」
拓哉は少し申し訳なさそうにそう言った。
少し文句を言いながらも御子はそれを口にした。
そしてビールも呷る。

「うん、悪くないな。」
「ほんと?良かった。」
御子の言葉を聞いた拓哉はほっと胸をなでおろした。
そして自分もビールの缶をあけて、飲み始めた。

「あんたも飲むなんて珍しいな。それに料理も突然始めたし。なんかあったんか?」
御子は次々とチャーハンを口にしながら拓哉に質問した。
「いや特に何もないよ。・・・ただ、色々と出来ることからやってみようって思っただけ。」
拓哉も淡々と食しながら、これまた淡々と答えた。
「お酒も特に好きじゃないけど、多少は飲めたほうが良いだろうなって。そう思ったから。」
拓哉は自分がここ最近で思ったことを話した。
御子はただただそれを聞いていた。

「ええんちゃう。ならこんな風に可愛い女子と夕食出来るのも、ええ経験なんちゃうか?」
御子はニヤッと笑って見せた。
多分ボケのつもりなんだろう。

「うん、そうかも。ありがとう、西条さん。」
ただ、拓哉はいたって真面目にそう返事をした。

「・・・ツッコめし。」
御子は少し照れたようにぼそっと言った。
その様子は、拓哉でも照れているのが感じ取れるくらいだった。

----
同時刻ごろ。
場面は変わり、こちらは唯志宅。

「ねー、唯志君。この資料みたいなのはなにー?」
光は机の端に無造作に積み上げられた資料を手に取った。

「あー、色々やれそうなこと考えたメモ。まぁほとんどは意味ないと思うよ。」
「へぇ・・・。投資の自動化に、スマホのゲーム・・・。農業の自動化?そんなのもあるの?」
光はパラパラとめくりながら、感嘆の声を上げていた。
「どれやるにしても地盤と資金がなー。まぁメモっておいて損はないってやつ。」
「今やってるそれはなーに?何かのグラフ?」
「ああ、これは投資。」
「へぇー。なんか難しいことやってるんだ。」
光にはどれもこれもちんぷんかんぷんだった。
ただただ唯志が作業をしているのを、横から眺めていた。

「どうした?暇なのか?」
「うん。かまって欲しい。」
光はニコッとしながらはっきりとそう言った。
「はいはい。じゃー何かする?」
「あ、あのね!私、現代の東京のこと調べたい。唯志君は慣れてるんでしょ?」
「まぁ仕事柄ね。」
「なら色々教えてほしいなー。」
そう言いながら光は東京の観光雑誌を広げた。

「えっとねー。こことか!何があるのー?」
「ああ、そこは--」

--
唯志は一通りの東京の観光地を紹介し終わった。

「やっぱり未来とはずいぶん違うねー。」
「そうなんだな。」
「うん。特に今度行く予定のこの!楽しみなんだー。」
「あんなデカい企業が潰れてるとはね。」
で被害が大きかったみたいだからね。跡地はあるんだけど、交通の便もよくないから、誰も近寄らないんだよね。」
「あー、確かに。専用のモノレールだもんな、近寄る手段。」
唯志は少し考え、なるほどと納得した表情だった。

「だから今度行けるの楽しみなんだー。」
「ならしっかり計画しないとな。」
「うん!」
光は満面の笑みで答えた。

こうして二人の一日は過ぎていった。

このところは多くの日がこんな調子だ。
二人とも時間に余裕があるときは一緒に出掛けたりもする。
特に代わり映えもしない、普通の日常。

しばらく続いた非日常的な出来事もなく、ただただ普通に過ごしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...