転生乙女は愛する彼の運命を変えたい〜破滅の未来から必ず貴方を救ってみせる!〜

藤咲紫亜

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眠れぬ侯爵様に捧ぐ、猛き竜も眠らす子守歌〜死にたがりの転生悪役令嬢は風の侯爵に拾われ王宮に返り咲く〜(攻略対象・歳上の美貌の侯爵)

第6話 白檀の人

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「おそらく、君の声には特殊な魔力が宿っている」
 ひとときの眠りから覚めたジェラルドは、長い黒髪をかきあげながらそう言った。その仕草がひどく艶っぽい。

「いつだったか、大通りで私がぶつかった令嬢は、君だろう」
(大通り?)
 フィオレンティーナはすっかり忘れていて反応が遅れた。

 そして、あの衝撃的な夜のことを思い出した瞬間ジェラルドの前にバッと平身低頭した。
 あの時ふわりと薫った白檀の香りは、今考えると間違いなく風の侯爵ジェラルドのものだ。

「今の今までぶつかったのが侯爵様と気付かず大変申し訳ありませんでした!! かくなる上は腹をかっさばいて!」
「分かった、まず落ち着こう。私が言いたいのは……あの夜、長年の悩みが消えたんだ」
「悩み?」

「長く、よく眠れない日が続いていてね。薬に頼らなければ熟睡できなかったのが、あの夜だけは不思議なことに、薬を飲まなくても眠ることができた。私自身その理由を考えていたのだが」

「私の声に魔力があると思われたんですか?」
「君がこの屋敷に来てからも毎晩よく眠れている。そうでもなければ、説明がつかない。しかもその魔力は、どうやら歌になることで威力を増す」

 ジェラルドはそう言うと、まだ床に座っているフィオレンティーナの前に膝をついた。
「礼を言いたいと思っていた。そして叶うならこれからも私のそばにいてほしいと」

 フィオレンティーナはたまらず床に額を擦り付けた。
「畏れ多いお言葉です! 私はここに居てはいけない人間なんです!」
「君がそう考える理由を教えてくれないか。君がここに相応しいかどうかは私が判断する」

 ジェラルドが真剣な顔で見つめてくるので、フィオレンティーナは仕方なく、あの夜の出来事を話した。

「つまり浮気癖があると知りつつ男と婚約したら、しっかり本命の彼女までいて怒り狂ったと」
 ジェラルドはすげなく2行ほどでまとめてしまった。

「どこに君の罪がある?」
「ありまくりです! 家の敷地に侵入して、小屋に火を付けたんですよ! しかも女の子ごと!」
「言っては何だが、その本命の彼女には落ち度は無かったのか?」
「……落ち度……?」
 フィオレンティーナは戸惑う。

「君とその男との婚約が成立する前に、本命の彼女の方が行動を起こしてさっさと婚約でも結婚でもすれば良かっただろう。それなのに君との婚約後もだらだらと中途半端な関係を続けていたとしたら、男も、その彼女も、君という人間を馬鹿にするにも程がある」

 ジェラルドの声には苛立ちが混じる。
「そっ……そんな、ことは……」
「自分の行動を反省するのは殊勝な心がけだが、君だけが全ての責任を背負い込む必要はないよ」

 ジェラルドはフィオレンティーナを抱き寄せた。
 白檀の香りに包まれる。
「君は十分苦しんでいる。償うことを考えているなら、死ぬことよりも、その命でこれから何をしていくのかを考えるべきだと私は思う」
 
 ジェラルドは「それに」と冗談を言うような口調になった。

「君の命はもう既に私の物のはず。早くその男など忘れて私のことを考えなさい、お姫様」

 風の侯爵ジェラルド・サルヴィ。人懐っこく爽やかな水の伯爵クラウディオと違って、どこか妖艶で強引な人。
 さっきからドキドキと心臓がうるさい。
 フィオレンティーナは赤らんだ頬を必死で隠した。
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