離した手の温もり

橘 凛子

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来訪

ep.50

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「ああ…
まだ苦手だったんだ。もう治ったのかと思ってた」
『そんな簡単に治るわけないじゃん。前よりは耐性ついたけど…』
「こんなこと言うのあれだけど…」
『?』
「俺、美愛の男性不信?は治んなきゃいいとか思ってた」
『え…』
「変に男と関わらないから安心出来たし、独り占めできるとか思ってた。ガキだよな」
『そんなことはないけど…』

確かに私は男性と極力関わらないように日々、暮らしている。

一般的な社会人女性と比べると男性と接する機会は少ない。

職場も少なからず男性は在籍しているが、比率的には圧倒的に女性社会だ。

恋人からしたら変な心配をせずにいられるので安心する要素が盛りだくさんではある。

『蒼ちゃん、意外と嫉妬深い?』
「美愛に対してはね。職場の上司に妬くくらいには」
『……上司…?
ああ…如月さん?』
「仲良さそうだったね」

串焼き屋の店先で交わした挨拶のことを言っているのだろうか。

仲良さそうなポイントは微塵もなかったと思うのだが。

蒼ちゃんにはそう見えたのだろう。

『ただ挨拶してただけだよ?特別仲いいわけじゃ…』
「でも美愛、表情硬くなかった」
『へ?
ひょ…表情…?』

この人はいきなり何を言い出すのだろう。

どこか拗ねたような口調。

表情が硬い、とはどういう意味なのだろうか。

私には皆目検討がつかない。

「気づいてないんだ」
『え?』
「美愛、男と話す時顔が強張るんだよ。俺と彗以外」
『ぇ…
そう…なの…?』

指摘された事がなかったので気がつかなかった。

今まで少なからず接してきた男性に無意識のうちに私は、失礼を働いてしまったのではないのだろうか。

不快な思いをしたかもしれない。

全員が全員、私の男性苦手意識を理解してはいないのだから。

「自覚、なかったんだね」
『言われたことなかったから…』
「上司にはその表情、してなかった」
『………。
ふふ…』

そっぽを向いて不貞腐れたように蒼ちゃんは言った。

余裕のあるいつもの彼からは想像出来ない表情。

私は思わず笑みが溢れた。

怪訝そうにこちらに視線が注がれる。

「……なに?」
『なんか可愛いなって思って…』
「は?」

気づいてしまった。

私は内面的に可愛い箇所のある男性に惹かれる傾向にある。

二十八年生きてきてようやく自分のツボに気づいた。

ギャップというのに弱いのかもしれない。

だから一緒に飲みに行ったときに沢山の可愛い姿を見せてくれた如月さんに少し気を許せたのだろう。

あの日の晩酌がきっかけだ。

「…飲み終わった?」
『へ?』
「紅茶」
『ああ…うん』
「送るよ。付き合わせてごめん」
『いいよ、別に。色々話せたから。
片付けは…』
「そのままでいいよ。明日俺がやるから」
『………』

私はふと、気づいた。

差し出されたこのマグカップはどこから出してきたのだろう。

スタッフの私物だったりはしないよね…?

急に私は不安に駆られた。

蒼ちゃんがそんな配慮欠けることはしないとは思うが。
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