離した手の温もり

橘 凛子

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衝突

ep.114

「やば…」
『え…?』
「もっかい抱きたい」
『は…』

背後から抱きしめる腕を強めながら蒼ちゃんは言った。

私の言葉も聞かずに彼は耳をねっとり、と刺激してくる。

せっかく着たばかりの衣服の隙間から直接肌に触れて、器用に下着のホックを外した。

まずい。

このままじゃ流されてしまう。

『ちょ…ちょ…蒼ちゃ……
……ん…っ…ふ…』
「黙って」

さっきの優しい愛撫はない。

ただ欲望に任せた荒々しい触れ方で目の前にいるのに蒼ちゃんが蒼ちゃんでないみたいだ。

怖い。

さっきは一切感じなかった恐怖が今、目の前にいる彼には感じる。

どうしたらいいのだろう。

『そ…蒼ちゃん……お願い…やめて…』
「………」
『蒼ちゃん!!』
「!!」

私の言葉が聞こえてないかのように身体に荒々しく触れてくる蒼ちゃんに声を荒げた。

一瞬、彼の動きが止まる。

その隙に私は蒼ちゃんの太くて逞しい腕から逃れた。

「ぁ……ごめん。まじでごめん」
『正気に戻った?』
「うん。ごめん、怖かったよね」
『……少しね』

何がきっかけで蒼ちゃんがそうなったのか知らないが、どうやらいつもの彼に戻ったみたい。

優しく私を抱きしめて、何度も謝ってくれた。

「もう二度としないから」
『うん。またこうなったら、叫んであげる』
「殴ってもいいから」
『それは出来ないよ。蒼ちゃん殴りたくないもん』
「……寝ようか。明日も予定あるし」
『うん。電気消してくるね』

私は乱れた身なりを整えて、リビングの電気を消しに一度寝室を出た。

一分もしないうちに蒼ちゃんの元へ戻る。

未だ彼は上半身裸のまま。

寒くないのだろうか。

『着ないの?』
「ん?」
『服。寒くない?』
「ああ…着るよ」

どこか肩を落としてしょげているようにも見える蒼ちゃんは素直に服を着てくれた。

まださっきのことを気にしているのだろか。

ぼんやりとしている。

『寝よ。ライト消して』
「……一緒に寝ていいの?」
『え…?』
「さっき美愛に酷いことしたし…」
『もういいよ。蒼ちゃん謝ってくれたし』
「…………」

私の言葉に納得いっていないのだろう。

不貞腐れたような表情で蒼ちゃんはそっぽを向いてる。

普段とのギャップがありすぎて可笑しかった。

なんだか少し可愛い。

「なに笑ってんの?」
『あ、ごめん。つい…
明日さ…』
「ん?」
『朝ごはん、外に食べ行こうよ。近くにあるんだ、パン屋さん
「いいけど…」
『蒼ちゃん、奢ってよ。それでさっきのことチャラ』
「………」

歩いて数分の距離にパン屋さんと併設されているカフェがある。

利用したことはないが、焼きたてのパンとコーヒーが飲めるらしい。

私は蒼ちゃんにそこで奢って、とせがんだ。

人生で初めてかもしれない。

彼も少し驚いた表情をしている。
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