身代わり奴隷、公爵令嬢の仮面を脱いだら大公に執着溺愛されました

Megumi

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33.覚悟のかたち(後編)

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 あれほどまでに激情をぶつけ、嫉妬にとらわれていたロランが。
 今は、セリーヌの幸せを優先しようとしている。
 セリーヌは、顔を隠すように俯いた。

 もし、父親が自分を受け入れてくれたのなら。
 本当の家族のもとで、本当の自分として、親に守られて生きられるのなら。
 それは、きっと幸福と呼べるのだろう。

「……セリーヌ?」

 ロランが、心配そうに名を呼ぶ。
 だが、セリーヌは顔を上げなかった。
 そして、しばらくの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。

「……私がここにきた初日に結んだ、結婚に関する契約書を持ってきていただけますか」

 か細い声だった。

「契約書? ……分かった」

 ロランの心が、嫌な音を立てて軋んだ。

(……破棄、するのか)

 この結婚に関する契約を終わらせ、父親の元へ行くのだと。
 そう理解したロランは、震える足で執務室へ向かった。
 契約書を手に戻ってきたロランの顔は、青ざめていた。

「……これを」

 震える手で、セリーヌに差し出す。
 セリーヌは黙ってそれを受け取った。

 ロランの心に、悲しみと安堵が、同時に激しく押し寄せる。
 彼女は、安全な場所へ行く。本当の家族の元へ行く。
 それは、彼女にとって最善の選択だ。

 だが——

(これで、もう……会えなくなる)

 その事実が、胸を締め付ける。

 セリーヌは受け取った契約書をじっと見つめた。
 これを破棄すれば、もう今のままではいられない。

 ——それでも。

 セリーヌはそれを、暖炉に投げ入れた。

 紙が音を立てて燃え始める。
 文字が歪み、やがて灰になっていく。
 ロランは、その光景に二人の関係の終わりを重ねて、ただ呆然と見つめていた。

(……これで、終わりだ)

 彼女の笑顔も、涙も、すべてが思い出になる。
 もう二度と、この髪に触れることも、その声を聞くこともできなくなるのだ。

 迫り来る別離が、身体を引き裂かれるような痛みをロランにもたらす。
 消えゆく契約書を最後まで見ることができず、ロランは暖炉から視線を逸らした。

 すると、それまで無言だったセリーヌが、ついに沈黙を破った。

「このままそばにいれば、貴方を私の危うい立場に巻き込んでしまうことは、理解しています」

 セリーヌの声は、震えていた。
 しかし、涙で濡れた瞳は、真っ直ぐにロランを見つめている。

「それでも、私は……ヴィクトール・ド・モンフォールの娘としてではなく、貴方の妻として生きていきたい」

 セリーヌの思いがけない言葉に、ロランの瞳が見開かれた

「——ロラン、貴方を愛しているから」

 世界が、音を失った。
 数秒。しかし、体感では永遠にも感じられる時間。
 ロランは、呼吸すら忘れて呆然としていた。
 そして——
 セリーヌの言葉を理解した瞬間。

「……っ!」

 ロランはセリーヌを強く、強く抱きしめた。
 それは息もできないほどの力だったが、セリーヌにとってそれは不思議と心地良かった。

「愛してる、セリーヌ」

 震える声で、何度も繰り返す。

「愛してる……もう絶対に、離さない」

 そう告げると、ロランは縋るようにセリーヌの唇を奪った。
 セリーヌも、ロランの背中に腕を回し、それに応える。
 涙が、止まらなかった。

 炎が最後の紙片を飲み込み、灰が舞う。
 これで、二人を縛っていたものは消えた。

 そこに、最後に残ったのは——
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感想 1

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みんなの感想(1件)

柚木ゆず
2026.02.24 柚木ゆず

本日、1話目から15話目まで拝読しました。

セリーヌさんは今居る場所でもご実家でも、辛い思いをしてきましたよね……。
ご実家では暴力や、果てにはあんなことまであって。心も身体も、ボロボロでした。
でもお兄さんとのあのような出来事があった際に、ロランさんが現れてくださって。そこからセリーヌさんの日常に、変化がありましたね。
今のお二人の関係が、どうなってゆくのか。気になります……!

2026.02.25 Megumi

嬉しいご感想、本当にありがとうございます!
1話から15話まで読んでくださっただけでも胸がいっぱいなのに、セリーヌの痛みに寄り添ってくださっていることが伝わってきて、感激してしまいました。

今の二人はまだ始まったばかり。
甘くなるのか、もっと苦しくなるのか……。
ぜひこれからの展開も一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです!

解除

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