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17.吐露
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「信じてもよいのでしょうか」
私は、テーブルに鍵を包んでいた布を敷き、その上に鍵を置いて座り直し、ライル様に視線を合わせた。彼もまた私を見ていた。
薄い空色の瞳には疑うような暗い感情は見えない。そもそも表情に出づらい方だ。
私の、きっと理解しづらい問いかけにライル様は、口を開いた。
「それは、どのような内容だったとしても国に報告しないでくれと言う意味か?」
やっぱり察しがいい方だ。
私は無言で頷いた。何故か?今、私はとても真剣だ。
なのに彼の口の端が上がった。笑ったのだ。微かだけれど。
ライル様は、足を組み寛くつろぐような仕草をして私に視線を注ぐ。
「そのつもりだったら既に報告している」
「えっ」
私のビクリと動いた様子を見て今度は、苦笑した。
「そもそもこの空間は、異質だ」
ライル様は、周囲を見渡した後、最後は私に視線を戻すとお茶のカップに口をつけた。
「貴方も」
「えっ?」
私が何?
先程よりもいくらか空気が重くなる。
私のカップの中身は既に空っぽで。すぐにもう一杯欲しいくらいに口の中がカラカラになっている。
「微かだが、貴方には魔力がある。いや、正確には違う力か。心配せずとも分かる者はこの国には私を含め極わずかだろう」
「⋯⋯そうですか」
まさか、自分も何かしら力を持っているなんて言われて、驚きより恐怖しかない私は、その大丈夫だという言葉を聞きいても安堵より不安しかない。
私はテーブルに置いた鍵を改めて見た。
どうする?どうしよう。
私の中の葛藤かっとうを見抜いたかのようなタイミングで。
「今は、ただのライルだ。」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だが。いや、それでも信じられないなら──」
ライル様が立ち上がりテーブルに手をつき体を此方に傾けてきたと思ったら、腕を軽く引っ張られ耳元で囁ささやかれた。
耳にあたる息とライル様から香る匂い。
なにより耳元で囁かれた言葉に私は驚きを隠せなかった。つい声が大きくなる。
「何故そこまでして!?」
「そこまでしないと貴方は信用しないだろう?」
「でもっ!!」
何事もなかったようにソファーに座ったライル様に抗議の視線を向けた。
ライル様が、私の耳元で囁いた言葉は、真名だった。
真名は、魔力の強い者ほど隠す名だ。
なぜなら、格上の魔力持ちに知られれば支配されかねないから。
だから、普通は両親か忠誠を誓った相手のみしか知らない。
私は、お父様の雑学でこの事を知っているけれど、一般の民は、真名というモノがあることすら知らないだろう。
私は、膝の上で固く握っていた手を緩めて立ち上がった。
「どうし」
「お待ち下さい」
私は、訝しげなライル様にすぐ戻りますと伝えてカウンター奥の隅にある、小さな引き出しから目当ての品を取り出し、ライル様の前にそれを置いた。
「これは、以前に見た懐中時計だが」
前に見た品を何故、今見せるのか。
そう言いたいのだろう。
「後ろを見て下さい。掠れて読みづらいですが」
彼は、慎重な手つきで懐中時計を手に取り、裏を見たライル様の瞳が見開いた。
「これは」
「本当に聞きたいですか?」
もう聞いたら戻れない。
ライル様も。
もちろん私も──。
私は、テーブルに鍵を包んでいた布を敷き、その上に鍵を置いて座り直し、ライル様に視線を合わせた。彼もまた私を見ていた。
薄い空色の瞳には疑うような暗い感情は見えない。そもそも表情に出づらい方だ。
私の、きっと理解しづらい問いかけにライル様は、口を開いた。
「それは、どのような内容だったとしても国に報告しないでくれと言う意味か?」
やっぱり察しがいい方だ。
私は無言で頷いた。何故か?今、私はとても真剣だ。
なのに彼の口の端が上がった。笑ったのだ。微かだけれど。
ライル様は、足を組み寛くつろぐような仕草をして私に視線を注ぐ。
「そのつもりだったら既に報告している」
「えっ」
私のビクリと動いた様子を見て今度は、苦笑した。
「そもそもこの空間は、異質だ」
ライル様は、周囲を見渡した後、最後は私に視線を戻すとお茶のカップに口をつけた。
「貴方も」
「えっ?」
私が何?
先程よりもいくらか空気が重くなる。
私のカップの中身は既に空っぽで。すぐにもう一杯欲しいくらいに口の中がカラカラになっている。
「微かだが、貴方には魔力がある。いや、正確には違う力か。心配せずとも分かる者はこの国には私を含め極わずかだろう」
「⋯⋯そうですか」
まさか、自分も何かしら力を持っているなんて言われて、驚きより恐怖しかない私は、その大丈夫だという言葉を聞きいても安堵より不安しかない。
私はテーブルに置いた鍵を改めて見た。
どうする?どうしよう。
私の中の葛藤かっとうを見抜いたかのようなタイミングで。
「今は、ただのライルだ。」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だが。いや、それでも信じられないなら──」
ライル様が立ち上がりテーブルに手をつき体を此方に傾けてきたと思ったら、腕を軽く引っ張られ耳元で囁ささやかれた。
耳にあたる息とライル様から香る匂い。
なにより耳元で囁かれた言葉に私は驚きを隠せなかった。つい声が大きくなる。
「何故そこまでして!?」
「そこまでしないと貴方は信用しないだろう?」
「でもっ!!」
何事もなかったようにソファーに座ったライル様に抗議の視線を向けた。
ライル様が、私の耳元で囁いた言葉は、真名だった。
真名は、魔力の強い者ほど隠す名だ。
なぜなら、格上の魔力持ちに知られれば支配されかねないから。
だから、普通は両親か忠誠を誓った相手のみしか知らない。
私は、お父様の雑学でこの事を知っているけれど、一般の民は、真名というモノがあることすら知らないだろう。
私は、膝の上で固く握っていた手を緩めて立ち上がった。
「どうし」
「お待ち下さい」
私は、訝しげなライル様にすぐ戻りますと伝えてカウンター奥の隅にある、小さな引き出しから目当ての品を取り出し、ライル様の前にそれを置いた。
「これは、以前に見た懐中時計だが」
前に見た品を何故、今見せるのか。
そう言いたいのだろう。
「後ろを見て下さい。掠れて読みづらいですが」
彼は、慎重な手つきで懐中時計を手に取り、裏を見たライル様の瞳が見開いた。
「これは」
「本当に聞きたいですか?」
もう聞いたら戻れない。
ライル様も。
もちろん私も──。
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