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18.私の行き先は
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「どちらにしろ、もう戻れまい」
「ライル様?」
「刻まれている名も驚いたが、ここを見てみるといい」
私の手に返された懐中時計を指で示す所には、いままで気づかなかった小さな穴が。
「これは」
「その鍵の穴だろうな」
ライル様が無言で、さあどうする?と問いかけてきた。私も無言のまま、テーブルの上に置いた小さな鍵をつまみ、懐中時計の穴へ差し込み回した。
小さな、カチッという音がした後に聞き覚えのある音が。
ポーン⋯
「あっ」
瞬間、足元がなくなっていた。
座っていたソファーがなくなり倒れこみそうになる。
「大丈夫か?」
「は、はい」
ライル様が片腕だけで、私をひっぱり立ち上がらせてくれた。懐中時計からの音は、以前の映像が写しだされた時と同じだったけれど、まったく違う。
──私達は、夜空に浮いていた。
満天の星空。でも、それらはすぐに飛び去っていく。いえ、私達が急速に移動しているんだわ。
下を見れば家々の灯りが見えた。
「それを離すな。離せばおそらくどこかの空間に落ち戻れなくなる」
「はい」
暗闇のはずなのに目まぐるしく変わる景色に目を奪われ、かろうじて返事をした。
どれくらい時が経ったのか。空は相変わらず星が流れている。
「寒い」
おかしいわ。夜とはいえ今は春。
なのに肌が感じているのは、まるで真冬の寒さ。カチカチと音が鳴る。
自分の歯が寒さで鳴っていた。
ふいに背後から暖かい、けれど何かに包まれた。暗いはずなのに、さらさらと流れる長く真っ直ぐなダークブルーの髪が見える。
私は、ライル様にゆるく後ろから抱きしめられていた。
「あれは、ヴァレン山脈か?」
ライル様の声で私は前方を見た。そこには雪を積もらせた高い山々。
「あっ!」
今まで前に進んでいたはずが急に落下しはじめた思わず胸の前にあるライル様の腕にしがみつく。
私、死ぬのかしら?
どんどん急降下していくと下に建物が見えてきた。暗くてわかりづらいけれど、古い、とても古い石造り。昔、都で1度見た神殿のような造りだわ。
「ああっ!」
建物めがけて私達は落下し、激突が免れない状況に私は耐えられず目をつぶった。
『──大丈夫』
頭に突然知らない声が響き思わず目を開ければ、一人の女の人と、その近くにうずくまっているそれは、大きな鈍く光る銀色の竜…?
背を向けていた女性が、振り向き目が合った。その瞳は金と青に額には不思議な模様。
いえ、どこかで見たことがある。
『今はまだ早い─お帰り』
「ああっ!」
また頭に不思議な声が響いたと思ったら。
飛ばされた。いえ、弾き出されたのか。
「痛っ!」
いきなり体に衝撃がきた。でも誰かに頭を抱えこまれていたようで、頭は打たなかったようだわ。
「大丈夫か?」
聞き覚えのある声で私は一気に意識がはっきりしていく。
「急に起き上がらないほうがいい」
「あっ、すみません」
起き上がろうとした私に低い声が注意する。
わ、私、ライル様の腕の中にいる?
目眩でも起こしたのかしら。
ポタッ
頭から、いえ髪から水滴がたれた。
「雪?」
起き上がろうと床についた手元には、強く握りしめたままの懐中時計と床には溶けかかっているけれど、間違いなくそれは雪。
跳ぶようにすぎる星、神殿のような建物。
──そして不思議な女の人と銀の竜。
カタカタ…。
私の歯がまた鳴った。今度は…寒さのせいじゃない。
『まだ早い』
頭に残った声。
「ライル様?」
「刻まれている名も驚いたが、ここを見てみるといい」
私の手に返された懐中時計を指で示す所には、いままで気づかなかった小さな穴が。
「これは」
「その鍵の穴だろうな」
ライル様が無言で、さあどうする?と問いかけてきた。私も無言のまま、テーブルの上に置いた小さな鍵をつまみ、懐中時計の穴へ差し込み回した。
小さな、カチッという音がした後に聞き覚えのある音が。
ポーン⋯
「あっ」
瞬間、足元がなくなっていた。
座っていたソファーがなくなり倒れこみそうになる。
「大丈夫か?」
「は、はい」
ライル様が片腕だけで、私をひっぱり立ち上がらせてくれた。懐中時計からの音は、以前の映像が写しだされた時と同じだったけれど、まったく違う。
──私達は、夜空に浮いていた。
満天の星空。でも、それらはすぐに飛び去っていく。いえ、私達が急速に移動しているんだわ。
下を見れば家々の灯りが見えた。
「それを離すな。離せばおそらくどこかの空間に落ち戻れなくなる」
「はい」
暗闇のはずなのに目まぐるしく変わる景色に目を奪われ、かろうじて返事をした。
どれくらい時が経ったのか。空は相変わらず星が流れている。
「寒い」
おかしいわ。夜とはいえ今は春。
なのに肌が感じているのは、まるで真冬の寒さ。カチカチと音が鳴る。
自分の歯が寒さで鳴っていた。
ふいに背後から暖かい、けれど何かに包まれた。暗いはずなのに、さらさらと流れる長く真っ直ぐなダークブルーの髪が見える。
私は、ライル様にゆるく後ろから抱きしめられていた。
「あれは、ヴァレン山脈か?」
ライル様の声で私は前方を見た。そこには雪を積もらせた高い山々。
「あっ!」
今まで前に進んでいたはずが急に落下しはじめた思わず胸の前にあるライル様の腕にしがみつく。
私、死ぬのかしら?
どんどん急降下していくと下に建物が見えてきた。暗くてわかりづらいけれど、古い、とても古い石造り。昔、都で1度見た神殿のような造りだわ。
「ああっ!」
建物めがけて私達は落下し、激突が免れない状況に私は耐えられず目をつぶった。
『──大丈夫』
頭に突然知らない声が響き思わず目を開ければ、一人の女の人と、その近くにうずくまっているそれは、大きな鈍く光る銀色の竜…?
背を向けていた女性が、振り向き目が合った。その瞳は金と青に額には不思議な模様。
いえ、どこかで見たことがある。
『今はまだ早い─お帰り』
「ああっ!」
また頭に不思議な声が響いたと思ったら。
飛ばされた。いえ、弾き出されたのか。
「痛っ!」
いきなり体に衝撃がきた。でも誰かに頭を抱えこまれていたようで、頭は打たなかったようだわ。
「大丈夫か?」
聞き覚えのある声で私は一気に意識がはっきりしていく。
「急に起き上がらないほうがいい」
「あっ、すみません」
起き上がろうとした私に低い声が注意する。
わ、私、ライル様の腕の中にいる?
目眩でも起こしたのかしら。
ポタッ
頭から、いえ髪から水滴がたれた。
「雪?」
起き上がろうと床についた手元には、強く握りしめたままの懐中時計と床には溶けかかっているけれど、間違いなくそれは雪。
跳ぶようにすぎる星、神殿のような建物。
──そして不思議な女の人と銀の竜。
カタカタ…。
私の歯がまた鳴った。今度は…寒さのせいじゃない。
『まだ早い』
頭に残った声。
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