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24.同じ顔のお客様
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「最後の意を継ぐって、どういう意味かしら?」
お客様の命を削ってしまうであろう品を渡してしまった罪悪感と生き物が別れ際に呟いた言葉に拭えない不安が心に広がっていく。
リンッー
私の気持ちとは裏腹にドアベルが涼やかな音を響かせた。
「まだやっていたとはのぉ」
そうよ。
開店中に考え事はよくないわ。
「いらっしゃいませ」
気持ちを切り替え背筋を正し、本日二人目となるお客様にご挨拶をしてみれば、見覚えのある立派な髭が。
お客様の顔を失礼にならないように確認してみても記憶通り。
あの、強い回復効果のある飴のような薬を選んだ方だわ。
「ああ。ルドは死んだか。相変わらず人は命が短くてつまらんな。して、娘、ワシの顔に何かついているかね?」
──おかしいわ。
顔は同じなのに。
「なんだ。今度の店主は、客に椅子すら用意しないのか」
「 申し訳ございません。こちらへ」
私がソファーに案内すれば。
「温かい飲み物と食い物」
確かにお客様には飲み物や軽食を用意しているわ。でも、だからってこの店は食べ物屋じゃないのだ。乱れた口調になりそうな自分を抑えながら努めて冷静に。
「マリアージュは、お客様が今、一番必要としている品をお求めになる店です」
「ほう。それで何が言いたいんだ?」
負けないんだから。
「まず、お手をお借りしても宜しいでしょうか?」
食事よりも先に用事を済まして下さいな。
私も気乗りせずにやむなく店を継いだとはいえ店主なのだから。
「ふんっ。つまらんのぉ。ほれ」
差し出された、歳を重ねた大きな皺のある手は意外にも言葉の冷たさと違い温かかった。
今回は音ではなく動いた。
それは、まだ私の手にあった布の袋の中。
先程のお客様から受け取った品。
まだ中身も見ていないのに。
「何をぼさっとしておる」
「先程受け取った品のようです」
私は、念のため手袋をはめ布袋に手を入れ、ソレを取り出してみた。
けれど、出てきた品は、ただの丸い石だった。あの綺麗な水色の珠の石とは形はそっくりだけど、これだったら手袋は必要なかったわ。
「これが、ただの石ころだと思ったのか?」
「え?」
私の心を読んだような言葉につい聞き返してしまった。
「かしなさい」
ふんっと鼻で笑った表情は、私の会った、あのお客様と同じ顔でも別人だわ。
私の視線に気がつき、また鼻をならした。
「あの愛想を振り撒く爺さんと似ているんじゃろ? だが、ワシはあいつとは兄弟でもなんでもないんじゃ。別の世界にいる違うワシじゃよ」
「…違う方」
最後の別人と言われて納得。
その手に石をのせながら、そういえばと思いだし。
「あの、これは私にとって必要な品だとお客様に言われた物なのですが」
この方に渡してよいのかしら?
「お前さん、まだまだだのぉ。どうせただの石ころだと思っているんだろうが。ほれ」
「…え?」
その髭のお爺さんが石を撫でた箇所を中心にひびがはいり、そこから柔らかい光が。
「普通ならお前さんは、物の中が読めるはずなのに読めないのは石ころだと思い込んでいるからじゃ」
いまや、丸い石は、宝石のように、いえそれ以上に美しく柔らかい光を発していた。
「わしのいる世界とお前さんの世界は対になっておる。これは、わしのいる世界の源の一つじゃ」
「この光る石がですか?」
それって、とても大切な品じゃない。
驚く私には、さらなる驚きが待っていた。
「何を呑気に驚いておるのじゃ。 お前さんが今いる世界の源を手に入れないとわしのいる世界との均等が崩れ、よって二つの世界が滅ぶことになるのだぞ」
「わ、私ですか?」
「ルドは何も教えてないのか?」
「…はい」
いらした時から不機嫌そうな顔は益々近寄りがたくなる。
「やれやれ。ほれ」
大きなため息と共に手渡された品は。
「これ…」
「そうじゃ。お前さんの世界の源の一部じゃよ」
私が髭のお爺さんに渡した丸い石ころと同じ物。
ただ、その石は二ヶ所ほど欠けがあった。
「足りない、欠けている源を元に戻せ。まぁ、戻したとしても今のお前さんには、こうは出来んだろうがの」
髭のお爺さんは、そう言いいながら手の中にある光る石を撫でた。
「用は済んだ。帰るかの」
「あっお食事は」
「いらんわ。匂いからして好かん」
立ち上がりながら言われた言葉に苛立ちを抑えられなくなってきて。
「そんな言いか…」
「ああ、忘れとった。わしが好かんやつを持ってきた者がいてな。あの馬鹿にはこれで充分じゃろ」
言い出しかけた言葉は遮られ、何処から取り出したのかテーブルにはとても大きな瓶が乱暴に置かれた。
「まあ、せいぜい足掻くがよい」
「あの」
「今度はワシ好みの飯を用意しておくんじゃぞ」
リンッー
「…悪い方ではないのかしら?」
テーブルに置かれた瓶はお酒だった。それもお父様が一番好きだった銘柄だわ。
「足掻けと言われても」
手には、欠けた石ころ。私は、どうしたらよいのかしら。
「なんだか、とても疲れたわ」
お茶でも淹れましょ。
リンッー
「今までに嗅いだことがない匂いだ」
「いらっしゃいませ」
鼻をひくつかせながら来店された本日三人目のお客様はライル様だった。
マリアージュの夜は、まだ終わりそうになかった。
売れた品
1人目のお客様から受け取った丸い石(ある世界の源?)
受け取った品
丸い石(欠けあり)
お客様の命を削ってしまうであろう品を渡してしまった罪悪感と生き物が別れ際に呟いた言葉に拭えない不安が心に広がっていく。
リンッー
私の気持ちとは裏腹にドアベルが涼やかな音を響かせた。
「まだやっていたとはのぉ」
そうよ。
開店中に考え事はよくないわ。
「いらっしゃいませ」
気持ちを切り替え背筋を正し、本日二人目となるお客様にご挨拶をしてみれば、見覚えのある立派な髭が。
お客様の顔を失礼にならないように確認してみても記憶通り。
あの、強い回復効果のある飴のような薬を選んだ方だわ。
「ああ。ルドは死んだか。相変わらず人は命が短くてつまらんな。して、娘、ワシの顔に何かついているかね?」
──おかしいわ。
顔は同じなのに。
「なんだ。今度の店主は、客に椅子すら用意しないのか」
「 申し訳ございません。こちらへ」
私がソファーに案内すれば。
「温かい飲み物と食い物」
確かにお客様には飲み物や軽食を用意しているわ。でも、だからってこの店は食べ物屋じゃないのだ。乱れた口調になりそうな自分を抑えながら努めて冷静に。
「マリアージュは、お客様が今、一番必要としている品をお求めになる店です」
「ほう。それで何が言いたいんだ?」
負けないんだから。
「まず、お手をお借りしても宜しいでしょうか?」
食事よりも先に用事を済まして下さいな。
私も気乗りせずにやむなく店を継いだとはいえ店主なのだから。
「ふんっ。つまらんのぉ。ほれ」
差し出された、歳を重ねた大きな皺のある手は意外にも言葉の冷たさと違い温かかった。
今回は音ではなく動いた。
それは、まだ私の手にあった布の袋の中。
先程のお客様から受け取った品。
まだ中身も見ていないのに。
「何をぼさっとしておる」
「先程受け取った品のようです」
私は、念のため手袋をはめ布袋に手を入れ、ソレを取り出してみた。
けれど、出てきた品は、ただの丸い石だった。あの綺麗な水色の珠の石とは形はそっくりだけど、これだったら手袋は必要なかったわ。
「これが、ただの石ころだと思ったのか?」
「え?」
私の心を読んだような言葉につい聞き返してしまった。
「かしなさい」
ふんっと鼻で笑った表情は、私の会った、あのお客様と同じ顔でも別人だわ。
私の視線に気がつき、また鼻をならした。
「あの愛想を振り撒く爺さんと似ているんじゃろ? だが、ワシはあいつとは兄弟でもなんでもないんじゃ。別の世界にいる違うワシじゃよ」
「…違う方」
最後の別人と言われて納得。
その手に石をのせながら、そういえばと思いだし。
「あの、これは私にとって必要な品だとお客様に言われた物なのですが」
この方に渡してよいのかしら?
「お前さん、まだまだだのぉ。どうせただの石ころだと思っているんだろうが。ほれ」
「…え?」
その髭のお爺さんが石を撫でた箇所を中心にひびがはいり、そこから柔らかい光が。
「普通ならお前さんは、物の中が読めるはずなのに読めないのは石ころだと思い込んでいるからじゃ」
いまや、丸い石は、宝石のように、いえそれ以上に美しく柔らかい光を発していた。
「わしのいる世界とお前さんの世界は対になっておる。これは、わしのいる世界の源の一つじゃ」
「この光る石がですか?」
それって、とても大切な品じゃない。
驚く私には、さらなる驚きが待っていた。
「何を呑気に驚いておるのじゃ。 お前さんが今いる世界の源を手に入れないとわしのいる世界との均等が崩れ、よって二つの世界が滅ぶことになるのだぞ」
「わ、私ですか?」
「ルドは何も教えてないのか?」
「…はい」
いらした時から不機嫌そうな顔は益々近寄りがたくなる。
「やれやれ。ほれ」
大きなため息と共に手渡された品は。
「これ…」
「そうじゃ。お前さんの世界の源の一部じゃよ」
私が髭のお爺さんに渡した丸い石ころと同じ物。
ただ、その石は二ヶ所ほど欠けがあった。
「足りない、欠けている源を元に戻せ。まぁ、戻したとしても今のお前さんには、こうは出来んだろうがの」
髭のお爺さんは、そう言いいながら手の中にある光る石を撫でた。
「用は済んだ。帰るかの」
「あっお食事は」
「いらんわ。匂いからして好かん」
立ち上がりながら言われた言葉に苛立ちを抑えられなくなってきて。
「そんな言いか…」
「ああ、忘れとった。わしが好かんやつを持ってきた者がいてな。あの馬鹿にはこれで充分じゃろ」
言い出しかけた言葉は遮られ、何処から取り出したのかテーブルにはとても大きな瓶が乱暴に置かれた。
「まあ、せいぜい足掻くがよい」
「あの」
「今度はワシ好みの飯を用意しておくんじゃぞ」
リンッー
「…悪い方ではないのかしら?」
テーブルに置かれた瓶はお酒だった。それもお父様が一番好きだった銘柄だわ。
「足掻けと言われても」
手には、欠けた石ころ。私は、どうしたらよいのかしら。
「なんだか、とても疲れたわ」
お茶でも淹れましょ。
リンッー
「今までに嗅いだことがない匂いだ」
「いらっしゃいませ」
鼻をひくつかせながら来店された本日三人目のお客様はライル様だった。
マリアージュの夜は、まだ終わりそうになかった。
売れた品
1人目のお客様から受け取った丸い石(ある世界の源?)
受け取った品
丸い石(欠けあり)
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