マリアージュ〜お探しの物あります〜

波間柏

文字の大きさ
27 / 36

27.欠片は

しおりを挟む
「この絵本に書かれていているのは、以前に見た竜の事でしょうか」
「証拠もなく確かとはいえまい。たが、おそらくは⋯」

 ライル様も覚えてらした。やはり夢ではないのね。

 あの一瞬に女性と銀色のとても美しい生き物。

 未だに本当に、この目で見たのか信じ難い出来事だけど。

「貴重な品ですよね。ありがとうございま」

 ライル様が持ってきた古い絵本は、私が預かっていた小さな鍵で開いた。絵が主に描かれており文字は少なくすぐに読み終えてしまった。

「あら?」

 本をそっと閉じライル様にお返ししようとして表紙に目がいった。普通は本の題名のみ記されているはずが、小さいながらも竜が描かれていた。

 その翼の一ヶ所が、不自然に盛り上がっていて。

 そっと触れただけで外れてしまった。

「あっ! 申し訳ございません!」
「問題ない。知り合いから借りた品だ。かなり古い品だから劣化しているのだろう」

 膨らみをなぞっただけなのに。この本の造りからして、とても貴重な品なはず。どうしましょう!

「いえ、私の注意がたりなかったのです。修理お支払致します! あっ」
「どうした?」
「いえ、この形見たことがあるような」

そうよ。さっきの!

「あの、この欠片お借りしても」
「構わないが」

 私は急いでカウンターのガラスケースの鍵を開け中から目当ての物を掴みライル様の元に戻り、布を広げて中身を見せた。

「マリー、これは?」
「こちらの源らしいのですが、欠けがあって」

 その本からとれてしまった欠片は、ぴったりと石の欠けた部分に合った。でも。

「はまらないわ」
「貸してみろ」

 ライル様の手が伸びてきて私の手ごと石を包めば。

「はまったわ! あっ光が」

 ほんの一瞬だけだったけれど、銀色の光が手の隙間から発せられた。

「凄い力だ。下手に触ればこちらがもっていかれる」

 私には何も、むしろ心が落ち着くような光だったけれど…あ。

「あの」
「ところで、この不思議な匂いは」
「あっ、召し上がりますか? 独特なのでお気に召されるかわかりませんが」
「是非頂きたい。あまり腹にいれてなくてね」
「すぐご用意致しますので。あの、手を」

 まだ、私の手はライル様に石と一緒に握られいて。

「ああ、すまない」

 それに、頭の上に口づけされていたような。今もライル様の手がいやにゆっくり離れていく気がするのは。

嫌だわ。
気のせいよね。

「お待ちください」

 いやだわ。絶対私の顔赤い。

 手が届かない方なのに。

わかっているの。

 なのに、私は、この方の事が──。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

他国ならうまくいったかもしれない話

章槻雅希
ファンタジー
入り婿が爵位を継いで、第二夫人を迎えて後継者作り。 他国であれば、それが許される国もありましょうが、我が国では法律違反ですわよ。 そう、カヌーン魔導王国には王国特殊法がございますから。   『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)

岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。 エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」 二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい

しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

ありふれた聖女のざまぁ

雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。 異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが… 「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」 「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

処理中です...