30 / 36
30.ワーズ街に住む魔術師
しおりを挟む
「あの、本当に此処なのでしょうか?」
ワーズ街に住む魔術師に会う為にライル様に連れてこられたのは何故か格式が高そうな服屋だった。
外観からして年月を感じさせる建物で磨かれ艶やかな扉を前にし、私は戸惑ってしまった。
磨かれた硝子に映る私がいる。
──みすぼらしいわね。
丁寧に作られているお気に入りとはいえ、蔦の篭を手にする私にはとても似つかわしくない。
「あの」
「久しぶりだが間違いない。さあ、ここに立ったままだと目立つ」
私の気持ちなんてお構いなしに大きな手が私の背を押し前へと強く促した。
* * *
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのは、それは美しい女性だった。金色の髪を複雑に編み込み高く結われているからか細い首か際立つ。その背は伸びており自信に満ちているように感じた。
いけないわ。
私ったら、このお店を見てからなんだか良くない事ばかりを考えている。
「あら、ライルじゃない。ごきげんよう」
その女性は、ライル様を見て親しみのある笑みを浮かべた。とたんに柔らかさが加わり可愛らしい。
「メイは変わらないな」
自分を強く持たなくてはと姿勢を正したのに。彼のいつもより砕けた口調に動揺してしまう。
「貴方は変わったわね。素敵なお嬢さんのせいかしら?」
暖かみを感じさせる茶色の瞳が私を見た。なんだかその表情は楽しそうで。反対に私の顔は歪んでしまった。
どうしましょう。この方が魔術師様なのかしら。上手く話せる自信がないわ。
「メイ、世間話は後だ。先に話をしたい」
親しげな呼び方を耳から疲労度にソレが尖った針となり私を刺してくる。
「確かにそうよね。今ならまだ寝てないんじゃないかしら」
「まだ昼夜逆転の生活をしているのか?」
会話はどんどん進んでいく。
「私に改善させる力はないわ。話がついた頃にお茶を持っていくわね。ゆっくりしていってね」
後の言葉はウィンクと共に私に向けられた。
「こっちだ」
いきなりライル様に手をとられ、今まで気がつかなかった隅にある小さなドアの奥へと私達は進んでいった。
「私だ」
小さな階段を上がりきった先にあるドアをノックしながら中の返事を待たずに彼は開けた。
「田舎暮らしでマナーも忘れたかな?」
「どうせ返事をしないだろう」
その部屋は、昼間なのに薄暗かった。窓はあるのにその原因はうず高く積まれた本のせい。
「やあ。いらっしゃい」
本と本の隙間から顔を出した、この部屋の主は、どう見ても私より若い少年だった。
ワーズ街に住む魔術師に会う為にライル様に連れてこられたのは何故か格式が高そうな服屋だった。
外観からして年月を感じさせる建物で磨かれ艶やかな扉を前にし、私は戸惑ってしまった。
磨かれた硝子に映る私がいる。
──みすぼらしいわね。
丁寧に作られているお気に入りとはいえ、蔦の篭を手にする私にはとても似つかわしくない。
「あの」
「久しぶりだが間違いない。さあ、ここに立ったままだと目立つ」
私の気持ちなんてお構いなしに大きな手が私の背を押し前へと強く促した。
* * *
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのは、それは美しい女性だった。金色の髪を複雑に編み込み高く結われているからか細い首か際立つ。その背は伸びており自信に満ちているように感じた。
いけないわ。
私ったら、このお店を見てからなんだか良くない事ばかりを考えている。
「あら、ライルじゃない。ごきげんよう」
その女性は、ライル様を見て親しみのある笑みを浮かべた。とたんに柔らかさが加わり可愛らしい。
「メイは変わらないな」
自分を強く持たなくてはと姿勢を正したのに。彼のいつもより砕けた口調に動揺してしまう。
「貴方は変わったわね。素敵なお嬢さんのせいかしら?」
暖かみを感じさせる茶色の瞳が私を見た。なんだかその表情は楽しそうで。反対に私の顔は歪んでしまった。
どうしましょう。この方が魔術師様なのかしら。上手く話せる自信がないわ。
「メイ、世間話は後だ。先に話をしたい」
親しげな呼び方を耳から疲労度にソレが尖った針となり私を刺してくる。
「確かにそうよね。今ならまだ寝てないんじゃないかしら」
「まだ昼夜逆転の生活をしているのか?」
会話はどんどん進んでいく。
「私に改善させる力はないわ。話がついた頃にお茶を持っていくわね。ゆっくりしていってね」
後の言葉はウィンクと共に私に向けられた。
「こっちだ」
いきなりライル様に手をとられ、今まで気がつかなかった隅にある小さなドアの奥へと私達は進んでいった。
「私だ」
小さな階段を上がりきった先にあるドアをノックしながら中の返事を待たずに彼は開けた。
「田舎暮らしでマナーも忘れたかな?」
「どうせ返事をしないだろう」
その部屋は、昼間なのに薄暗かった。窓はあるのにその原因はうず高く積まれた本のせい。
「やあ。いらっしゃい」
本と本の隙間から顔を出した、この部屋の主は、どう見ても私より若い少年だった。
2
あなたにおすすめの小説
他国ならうまくいったかもしれない話
章槻雅希
ファンタジー
入り婿が爵位を継いで、第二夫人を迎えて後継者作り。
他国であれば、それが許される国もありましょうが、我が国では法律違反ですわよ。
そう、カヌーン魔導王国には王国特殊法がございますから。
『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)
岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。
エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」
二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです
はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。
とある国のお話。
※
不定期更新。
本文は三人称文体です。
同作者の他作品との関連性はありません。
推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。
比較的短めに完結させる予定です。
※
私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい
しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる