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31.始まりの予感
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「予想通りの反応で嬉しいね」
「も、申し訳ございません」
「何で謝るの? こっちとしては久々に分かりやすい反応をしてくれて実に良い気分だけど」
とても優秀な方に違いない魔術師がこんなに若いだなんて思っていなかったわ。だから、つい顔に驚きが出てしまった。
「しかし、久しぶりに便りを寄越したかと思えば面白い事になっていそうだね」
私は、魔術師はむしろ楽しそうに笑っているその姿が怖く感じてしまった。
そう、目が笑っていないんだもの。
──それに。
「私に何を」
窓は開いていないのに身体に生ぬるい風が絡み付いてくるような感覚を受けた。目を凝らし自分の身体を視ると、やはり緑色の植物のようなモノが巻きついていた。
「フィー、くだらない遊びは止めろ」
ライル様の一言でソレは一瞬で消えた。
「どういうつもりだ」
私に言っているわけではないのに、魔術師から庇うように私の数歩前にいる彼からからは、とても強い力が溢れている。視えてしまう私には怒気が強すぎて、身体が震えてしまった。
「別に殺さないよ。というかライ、抑えないと君こそ怖がられているんじゃないかな?」
魔術師のお蔭でライル様の今にも四方に飛び散りそうな力は目に見えなくなり悪い事をした子供のような顔をして謝られてしまった。
「すまなない」
「大丈夫です!」
無意識に呼吸が荒くなっていた私は、胸を押さえゆっくり意識し吸っては吐くを繰り返し、ようやく落ち着いた。
とても強い力を持つ騎士と魔術師。
頭で理解はしていても、実際その片鱗だけとはいえ浴びてしまうと力を察する事ができる私には刺激が強過ぎる。
「でもさ、ライも悪いんだよ。私の処に来るという事の意味がわかってるのかな?」
目が隠れてしまうほど長い銀髪をかきあげ、持っていた厚い本を閉じた若い魔術師は気だるげに立ち上がると私達の前まで来て問う。
「ああ」
「本当に? だいぶ厄介だよ。ねぇ」
コテンと首を傾げた可愛い子供の仕草とは裏腹に紡がれる言葉は、鋭く私より遥かに大人で。
「 あっ」
いきなり話をふられたと思えば右手が軽くなった。
「私は、フィルール・ド・ルノア。フィーでいいよ。あ、美味しそう~」
いまや彼の手に渡った蔦の篭の蓋を開け除く姿は無邪気な子供そのもの。
だけど。
「とりあえずコレを頂きながら話そうか。えーと君は」
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。マリー・クラウスと申します」
まだ名前も名乗ってなかった私は慌てて挨拶をする。
「マリーね。マリー、これから大事になるよ。その覚悟があるなら力になるけど。どうする?」
大事って何?
ただちょっと軽く相談するんじゃなかったの?
私は、隣にいるライル様を思わず見た。
✢~✢~✢
「その顔は説明されてないようだね。日常生活になるとライってホント言葉少ないんだよ。ん、美味しいね。肉はモイを使ってる?」
「はい。モイの塩漬けを入れてます。あの、私が尋ねないのが悪いのです」
食べる時に前髪が邪魔だと 散らばった前髪を括った髪も頷く度に揺れている。なんとなく噴水を連想させられるのだけど。
「ま、それはどうでもいいや。それより首に掛けている物を見せてくれるかな?」
私は、思わず上着の服の上から思わず言われた物を握りしめてしまった。それを魔術師は見逃すはずもなく、再度警告をされた。
「これで二回目だけど、後戻りはできなくなるよ。だから帰るなら今すぐどうぞ。でも、コレは頂いていいかな?」
緊張感のかけらもない、ふざけた髪形の魔術師は、両手に持ちながら聞いてきた。大事な話ではないの? 既に彼に振り回されている気がしてきたわ。
「⋯⋯どうぞ」
「ありがと。いくらでも食べれそうだよ」
前髪の下に隠れていた赤紫の目は、私を見ているようで違うモノを視ている。私の考え過ぎがもしれないけれど、そう感じてしまう。
「また日を改めよう」
不安な気持ちを見透かされたのか。私の右肩にライル様の手が気遣うように置かれた。
「いえ。決めました」
今日、会った方を簡単には信じられない。けれど、このままでは前に進めない気がする。
「どうぞ」
首から鎖を外し、それを彼の手のひらに置けば。
「凄いね!」
彼に向けて突風が。私には柔らかい風が微かに頬を掠める。
部屋は、一瞬にして星空が浮かぶ夜になった。
「お出ましかな?」
「え?」
顔や身体が切り傷だらけの魔術師が私の背後を見て楽しそうに呟いた。
その言葉に思わず振り向けば、あの不思議な人が立っていた。
「も、申し訳ございません」
「何で謝るの? こっちとしては久々に分かりやすい反応をしてくれて実に良い気分だけど」
とても優秀な方に違いない魔術師がこんなに若いだなんて思っていなかったわ。だから、つい顔に驚きが出てしまった。
「しかし、久しぶりに便りを寄越したかと思えば面白い事になっていそうだね」
私は、魔術師はむしろ楽しそうに笑っているその姿が怖く感じてしまった。
そう、目が笑っていないんだもの。
──それに。
「私に何を」
窓は開いていないのに身体に生ぬるい風が絡み付いてくるような感覚を受けた。目を凝らし自分の身体を視ると、やはり緑色の植物のようなモノが巻きついていた。
「フィー、くだらない遊びは止めろ」
ライル様の一言でソレは一瞬で消えた。
「どういうつもりだ」
私に言っているわけではないのに、魔術師から庇うように私の数歩前にいる彼からからは、とても強い力が溢れている。視えてしまう私には怒気が強すぎて、身体が震えてしまった。
「別に殺さないよ。というかライ、抑えないと君こそ怖がられているんじゃないかな?」
魔術師のお蔭でライル様の今にも四方に飛び散りそうな力は目に見えなくなり悪い事をした子供のような顔をして謝られてしまった。
「すまなない」
「大丈夫です!」
無意識に呼吸が荒くなっていた私は、胸を押さえゆっくり意識し吸っては吐くを繰り返し、ようやく落ち着いた。
とても強い力を持つ騎士と魔術師。
頭で理解はしていても、実際その片鱗だけとはいえ浴びてしまうと力を察する事ができる私には刺激が強過ぎる。
「でもさ、ライも悪いんだよ。私の処に来るという事の意味がわかってるのかな?」
目が隠れてしまうほど長い銀髪をかきあげ、持っていた厚い本を閉じた若い魔術師は気だるげに立ち上がると私達の前まで来て問う。
「ああ」
「本当に? だいぶ厄介だよ。ねぇ」
コテンと首を傾げた可愛い子供の仕草とは裏腹に紡がれる言葉は、鋭く私より遥かに大人で。
「 あっ」
いきなり話をふられたと思えば右手が軽くなった。
「私は、フィルール・ド・ルノア。フィーでいいよ。あ、美味しそう~」
いまや彼の手に渡った蔦の篭の蓋を開け除く姿は無邪気な子供そのもの。
だけど。
「とりあえずコレを頂きながら話そうか。えーと君は」
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。マリー・クラウスと申します」
まだ名前も名乗ってなかった私は慌てて挨拶をする。
「マリーね。マリー、これから大事になるよ。その覚悟があるなら力になるけど。どうする?」
大事って何?
ただちょっと軽く相談するんじゃなかったの?
私は、隣にいるライル様を思わず見た。
✢~✢~✢
「その顔は説明されてないようだね。日常生活になるとライってホント言葉少ないんだよ。ん、美味しいね。肉はモイを使ってる?」
「はい。モイの塩漬けを入れてます。あの、私が尋ねないのが悪いのです」
食べる時に前髪が邪魔だと 散らばった前髪を括った髪も頷く度に揺れている。なんとなく噴水を連想させられるのだけど。
「ま、それはどうでもいいや。それより首に掛けている物を見せてくれるかな?」
私は、思わず上着の服の上から思わず言われた物を握りしめてしまった。それを魔術師は見逃すはずもなく、再度警告をされた。
「これで二回目だけど、後戻りはできなくなるよ。だから帰るなら今すぐどうぞ。でも、コレは頂いていいかな?」
緊張感のかけらもない、ふざけた髪形の魔術師は、両手に持ちながら聞いてきた。大事な話ではないの? 既に彼に振り回されている気がしてきたわ。
「⋯⋯どうぞ」
「ありがと。いくらでも食べれそうだよ」
前髪の下に隠れていた赤紫の目は、私を見ているようで違うモノを視ている。私の考え過ぎがもしれないけれど、そう感じてしまう。
「また日を改めよう」
不安な気持ちを見透かされたのか。私の右肩にライル様の手が気遣うように置かれた。
「いえ。決めました」
今日、会った方を簡単には信じられない。けれど、このままでは前に進めない気がする。
「どうぞ」
首から鎖を外し、それを彼の手のひらに置けば。
「凄いね!」
彼に向けて突風が。私には柔らかい風が微かに頬を掠める。
部屋は、一瞬にして星空が浮かぶ夜になった。
「お出ましかな?」
「え?」
顔や身体が切り傷だらけの魔術師が私の背後を見て楽しそうに呟いた。
その言葉に思わず振り向けば、あの不思議な人が立っていた。
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