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32.降る言葉は
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『この娘を贄にしようとしたな』
にえ? 捧げ物って事かしら。待って。誰か何ですって?
「フィルール!貴様っ!」
──ザワリ
ライル様に強く身体を引き寄せられた。けれど、その腕の中は温かいはずなのに再び力の波を感じ皮膚が粟立つ。
強い。
この方はなんて意思が強いのだろう。
ついに、力の波動で机の上に置かれていたカップが割れた。軋んだ音を辿れば本棚の扉に亀裂がはしる。
『もうよい』
彼女が手で軽く払う仕草をしただけでライル様からの圧迫感が消滅した。
『探究心は時に身を滅ぼす。次はないと思え』
気配や口調は穏やかだ。それだけに、とても恐ろしい。
『我が血をひく娘』
「は、はい?」
返事をしてしまったけれど、私の事かしら?
「あの?」
いつの間にか頭を撫でられていて困惑する。
『気がつけば、心は満たされる』
「え?」
『後ろにいる男、今まで築いてきたもの。いつか会うことになる血縁者達』
何かを見透かすように覗き込まれ。
『どうだ? 独りではないだろう?』
昔から、ふいに訪れる独りという孤独感。
お父様がいなくなってそれは更に深くなっていった。
作って食べて掃除して裁縫に勤しむ。
全ては生きる為に。
自分の為に。
『マリーの作る料理はいつも大胆だな! いや、とても美味しいよ!』
新たな料理を作り出す度に、わかり易いほどの反応、時に上手い、時に辛いと叫ぶお父様の声に姿。
一人は、静かで平穏で邪魔されず理想。
──だけど、寂しい。
『あと二つだ。頼む』
「あ、まっ、待って下さい!」
その言葉に現実に引き戻された。けれど急いで伸ばした手は空をきる。星が弾け闇が溶ける。地面があやふやになっていく。
「いいねぇ。面白いじゃないか。マリー、君に協力しよう」
周囲の変化した景色に立っていられずしゃがみ込んでいた私の前に手が差し出されたが、消えた。
「フィルール、マリーと契約しろ。でなければ消えてもらう」
腰から外した鞘付きの剣で魔術師の手を払ったらしいライル様の顔が怖い。
「へぇ、僕に勝てると思ってるわけ?」
いえ、怖いのは二人。再び力の圧迫感で吐き気まで感じた時に。
「いいかげんにしなさいー!!」
怒鳴り声とともに飛び込んできた女性は、黒塗りのステッキのような物で二人の頭を容赦なく叩いた。確かメイさんと呼ばれた人。
「怖かったわよねー! これだから足りないバカ共は疲れるわ!」
「あっ、バカッ加減しなよ!」
「マリー!」
……メイさんに強く抱きしめられ過ぎ気を失った私は、悪くないと思うの。
にえ? 捧げ物って事かしら。待って。誰か何ですって?
「フィルール!貴様っ!」
──ザワリ
ライル様に強く身体を引き寄せられた。けれど、その腕の中は温かいはずなのに再び力の波を感じ皮膚が粟立つ。
強い。
この方はなんて意思が強いのだろう。
ついに、力の波動で机の上に置かれていたカップが割れた。軋んだ音を辿れば本棚の扉に亀裂がはしる。
『もうよい』
彼女が手で軽く払う仕草をしただけでライル様からの圧迫感が消滅した。
『探究心は時に身を滅ぼす。次はないと思え』
気配や口調は穏やかだ。それだけに、とても恐ろしい。
『我が血をひく娘』
「は、はい?」
返事をしてしまったけれど、私の事かしら?
「あの?」
いつの間にか頭を撫でられていて困惑する。
『気がつけば、心は満たされる』
「え?」
『後ろにいる男、今まで築いてきたもの。いつか会うことになる血縁者達』
何かを見透かすように覗き込まれ。
『どうだ? 独りではないだろう?』
昔から、ふいに訪れる独りという孤独感。
お父様がいなくなってそれは更に深くなっていった。
作って食べて掃除して裁縫に勤しむ。
全ては生きる為に。
自分の為に。
『マリーの作る料理はいつも大胆だな! いや、とても美味しいよ!』
新たな料理を作り出す度に、わかり易いほどの反応、時に上手い、時に辛いと叫ぶお父様の声に姿。
一人は、静かで平穏で邪魔されず理想。
──だけど、寂しい。
『あと二つだ。頼む』
「あ、まっ、待って下さい!」
その言葉に現実に引き戻された。けれど急いで伸ばした手は空をきる。星が弾け闇が溶ける。地面があやふやになっていく。
「いいねぇ。面白いじゃないか。マリー、君に協力しよう」
周囲の変化した景色に立っていられずしゃがみ込んでいた私の前に手が差し出されたが、消えた。
「フィルール、マリーと契約しろ。でなければ消えてもらう」
腰から外した鞘付きの剣で魔術師の手を払ったらしいライル様の顔が怖い。
「へぇ、僕に勝てると思ってるわけ?」
いえ、怖いのは二人。再び力の圧迫感で吐き気まで感じた時に。
「いいかげんにしなさいー!!」
怒鳴り声とともに飛び込んできた女性は、黒塗りのステッキのような物で二人の頭を容赦なく叩いた。確かメイさんと呼ばれた人。
「怖かったわよねー! これだから足りないバカ共は疲れるわ!」
「あっ、バカッ加減しなよ!」
「マリー!」
……メイさんに強く抱きしめられ過ぎ気を失った私は、悪くないと思うの。
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