マリアージュ〜お探しの物あります〜

波間柏

文字の大きさ
32 / 36

32.降る言葉は

しおりを挟む
『この娘を贄にしようとしたな』

 にえ? 捧げ物って事かしら。待って。誰か何ですって?

「フィルール!貴様っ!」

──ザワリ

 ライル様に強く身体を引き寄せられた。けれど、その腕の中は温かいはずなのに再び力の波を感じ皮膚が粟立つ。

強い。

 この方はなんて意思が強いのだろう。

 ついに、力の波動で机の上に置かれていたカップが割れた。軋んだ音を辿れば本棚の扉に亀裂がはしる。

『もうよい』

 彼女が手で軽く払う仕草をしただけでライル様からの圧迫感が消滅した。

『探究心は時に身を滅ぼす。次はないと思え』

 気配や口調は穏やかだ。それだけに、とても恐ろしい。

『我が血をひく娘』
「は、はい?」

 返事をしてしまったけれど、私の事かしら?

「あの?」

 いつの間にか頭を撫でられていて困惑する。


『気がつけば、心は満たされる』
「え?」
『後ろにいる男、今まで築いてきたもの。いつか会うことになる血縁者達』

 何かを見透かすように覗き込まれ。

『どうだ? 独りではないだろう?』

 昔から、ふいに訪れる独りという孤独感。

 お父様がいなくなってそれは更に深くなっていった。

 作って食べて掃除して裁縫に勤しむ。

全ては生きる為に。

自分の為に。

『マリーの作る料理はいつも大胆だな! いや、とても美味しいよ!』

 新たな料理を作り出す度に、わかり易いほどの反応、時に上手い、時に辛いと叫ぶお父様の声に姿。

一人は、静かで平穏で邪魔されず理想。

──だけど、寂しい。

『あと二つだ。頼む』
「あ、まっ、待って下さい!」

 その言葉に現実に引き戻された。けれど急いで伸ばした手は空をきる。星が弾け闇が溶ける。地面があやふやになっていく。

「いいねぇ。面白いじゃないか。マリー、君に協力しよう」

 周囲の変化した景色に立っていられずしゃがみ込んでいた私の前に手が差し出されたが、消えた。

「フィルール、マリーと契約しろ。でなければ消えてもらう」

 腰から外した鞘付きの剣で魔術師の手を払ったらしいライル様の顔が怖い。

「へぇ、僕に勝てると思ってるわけ?」

 いえ、怖いのは二人。再び力の圧迫感で吐き気まで感じた時に。

「いいかげんにしなさいー!!」

 怒鳴り声とともに飛び込んできた女性は、黒塗りのステッキのような物で二人の頭を容赦なく叩いた。確かメイさんと呼ばれた人。

「怖かったわよねー! これだから足りないバカ共は疲れるわ!」
「あっ、バカッ加減しなよ!」
「マリー!」

 ……メイさんに強く抱きしめられ過ぎ気を失った私は、悪くないと思うの。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

他国ならうまくいったかもしれない話

章槻雅希
ファンタジー
入り婿が爵位を継いで、第二夫人を迎えて後継者作り。 他国であれば、それが許される国もありましょうが、我が国では法律違反ですわよ。 そう、カヌーン魔導王国には王国特殊法がございますから。   『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

ありふれた聖女のざまぁ

雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。 異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが… 「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」 「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい

しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。

処理中です...