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34.魔の悪いお客様
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「来客中だったか?」
「いえ、今しがた帰られました」
リィン!
「ヤッホ~」
ですので大丈夫ですと言おうとしたのに。彼の後ろに現れたのは。
「やっほー!元気~?」
便利屋さんだった。試作を食べて欲しかったので来てくれたのは丁度よかったけど、間が悪すぎるわ。
「あれ? お客さんだった? 今日は~」
「失礼ですが、貴方は」
「俺? 色々な呼び方をされているけど便利屋って呼ばれているかなぁ」
便利屋さんは、首を傾げキョトンとした後に二ヘラっと笑みを浮かべた。
おそらくは彼なりの気遣いのつもりだろうけれど。
⋯⋯空気が悪る過ぎる。
この二人というか主にライル様が嫌がっているのが眉間に寄せられた皺でわかる。
「マリーちゃん、取り込み中みたいだからまた来るよ、って! それ凄いね!これたけ貰っていっていい?」
珍しく何かを察知したのかすぐに去る気配にほっとしつつも便利屋さんが目を輝かせ手に取った品は、たった今交換した鞭である。
「いいねぇ~!」
本当に?便利屋さんの何に刺さるのかしら。
私には、申し訳ないけれど、その良さが全く理解できない。たとえ高価な品だとしても店に置いて置きたくないので非常にありがたいわ。
あ、ライル様が鞭と私とを交互に見ているわ。この品は、お店の物で私は使いませんから!
「あの、初めて作ったので味はわかりませんが召し上がって下さい」
こうなったら早く帰って頂かないと。急いで試作品を包み便利屋さんに握らせれば隙間から見えたのか頬を緩ませた様子に少し嬉しくなる。
「桜が入ってるじゃない~。塩漬けを早速使ってくれたんだぁ。勿論、頂いていくよ~!じゃ、またね!お邪魔様~」
リィン
最後のお邪魔様は、ライル様に向けての言葉だった。絶対にわざとだわ。残された私はどうしたらよいのよ。
「よかったら、試作品を召し上がりますか?」
マリーは、仕方なく彼の苛立ちを落ち着かせる為にお茶をお出しする用意をし始めた。
***
「サクラ蒸しパンとサクラとムイ豆の握り飯です。あと、これでは物足りたいかもしれませんので、白い握り飯は、モイ肉を濃く煮込んだ物を中に入れています」
「ありがとう」
私も一息いれようと、便利屋さんにトウモロコシのお茶に似ていると言われたミール茶を口に含む。
ライル様は、相変わらず不機嫌な様子であったものの握り飯を口に入れ咀嚼した瞬間、驚いた顔になったので、ソワソワしてしまう。
「サクラという花の塩漬けと緑が映えると思い今が旬のムイ豆を入れて。あっさりと仕上げましたがお口に合いましたか?」
つい彼の機嫌より味の感想を聞きたくて話しかけてしまった。
「彩りが美しく微かに花の風味を感じ、不思議な感じだ。もう少し塩みがあっても、いや、こちらのモイは甘辛いから、このままで良いのかもしれないな」
「とても参考になります。ありがとうございます」
食べて口の中を空にした合間に、律儀に答えてくれて。私は、彼のそういう所も惹かれるのかもしれない。
「これの中身はウイか?」
「はい。蒸しパンは、甘じょっぱいを目指し、中は、ウイを茹で潰し甘さを出し、少しのアクセントと飾りを兼ねてサクラの塩漬けを加えました」
この国に、甘くてしょっぱいという味付けはないので好みが分かれるだろうけれど、好きな人は必ずいるはず。だって、この蒸しパンは私のお気に入りになったのだから。
「これも初めてだが、あとをひく味だ」
褒められて思わず頬がにやけてしまう。
「マリー、先程の客は何者だ? 随分親しいようだが」
気を緩めたら、これだ。便利屋さんには口留めされていないし仕事に関してのノートには何も書かれていない。
だけど、そう簡単に何でも話してよいのかしら。
「マリー? 私が貴方に伝えた事は覚えているか?」
なんだか、今夜のライル様の笑みは怖いのだけど。
「私は、とても幸せな夢をみたんだと思いたいです」
伝わったかしらと彼を見れば、口角は上がったままだけど。
「夢とはね。マリー、もう少し詳しく私に教えてもらえるだろうか?」
食事など出さず、便利屋さんよりライル様に帰ってもらえばよかったと後悔するも、もう手遅れだった。
「いえ、今しがた帰られました」
リィン!
「ヤッホ~」
ですので大丈夫ですと言おうとしたのに。彼の後ろに現れたのは。
「やっほー!元気~?」
便利屋さんだった。試作を食べて欲しかったので来てくれたのは丁度よかったけど、間が悪すぎるわ。
「あれ? お客さんだった? 今日は~」
「失礼ですが、貴方は」
「俺? 色々な呼び方をされているけど便利屋って呼ばれているかなぁ」
便利屋さんは、首を傾げキョトンとした後に二ヘラっと笑みを浮かべた。
おそらくは彼なりの気遣いのつもりだろうけれど。
⋯⋯空気が悪る過ぎる。
この二人というか主にライル様が嫌がっているのが眉間に寄せられた皺でわかる。
「マリーちゃん、取り込み中みたいだからまた来るよ、って! それ凄いね!これたけ貰っていっていい?」
珍しく何かを察知したのかすぐに去る気配にほっとしつつも便利屋さんが目を輝かせ手に取った品は、たった今交換した鞭である。
「いいねぇ~!」
本当に?便利屋さんの何に刺さるのかしら。
私には、申し訳ないけれど、その良さが全く理解できない。たとえ高価な品だとしても店に置いて置きたくないので非常にありがたいわ。
あ、ライル様が鞭と私とを交互に見ているわ。この品は、お店の物で私は使いませんから!
「あの、初めて作ったので味はわかりませんが召し上がって下さい」
こうなったら早く帰って頂かないと。急いで試作品を包み便利屋さんに握らせれば隙間から見えたのか頬を緩ませた様子に少し嬉しくなる。
「桜が入ってるじゃない~。塩漬けを早速使ってくれたんだぁ。勿論、頂いていくよ~!じゃ、またね!お邪魔様~」
リィン
最後のお邪魔様は、ライル様に向けての言葉だった。絶対にわざとだわ。残された私はどうしたらよいのよ。
「よかったら、試作品を召し上がりますか?」
マリーは、仕方なく彼の苛立ちを落ち着かせる為にお茶をお出しする用意をし始めた。
***
「サクラ蒸しパンとサクラとムイ豆の握り飯です。あと、これでは物足りたいかもしれませんので、白い握り飯は、モイ肉を濃く煮込んだ物を中に入れています」
「ありがとう」
私も一息いれようと、便利屋さんにトウモロコシのお茶に似ていると言われたミール茶を口に含む。
ライル様は、相変わらず不機嫌な様子であったものの握り飯を口に入れ咀嚼した瞬間、驚いた顔になったので、ソワソワしてしまう。
「サクラという花の塩漬けと緑が映えると思い今が旬のムイ豆を入れて。あっさりと仕上げましたがお口に合いましたか?」
つい彼の機嫌より味の感想を聞きたくて話しかけてしまった。
「彩りが美しく微かに花の風味を感じ、不思議な感じだ。もう少し塩みがあっても、いや、こちらのモイは甘辛いから、このままで良いのかもしれないな」
「とても参考になります。ありがとうございます」
食べて口の中を空にした合間に、律儀に答えてくれて。私は、彼のそういう所も惹かれるのかもしれない。
「これの中身はウイか?」
「はい。蒸しパンは、甘じょっぱいを目指し、中は、ウイを茹で潰し甘さを出し、少しのアクセントと飾りを兼ねてサクラの塩漬けを加えました」
この国に、甘くてしょっぱいという味付けはないので好みが分かれるだろうけれど、好きな人は必ずいるはず。だって、この蒸しパンは私のお気に入りになったのだから。
「これも初めてだが、あとをひく味だ」
褒められて思わず頬がにやけてしまう。
「マリー、先程の客は何者だ? 随分親しいようだが」
気を緩めたら、これだ。便利屋さんには口留めされていないし仕事に関してのノートには何も書かれていない。
だけど、そう簡単に何でも話してよいのかしら。
「マリー? 私が貴方に伝えた事は覚えているか?」
なんだか、今夜のライル様の笑みは怖いのだけど。
「私は、とても幸せな夢をみたんだと思いたいです」
伝わったかしらと彼を見れば、口角は上がったままだけど。
「夢とはね。マリー、もう少し詳しく私に教えてもらえるだろうか?」
食事など出さず、便利屋さんよりライル様に帰ってもらえばよかったと後悔するも、もう手遅れだった。
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