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5.作業が大詰めの夜に
「もうすぐですね」
「予定より随分かかってしまった。あっ、ありがとうございます」
ジュリアさんが温かい紅茶とマンゴーにそっくりなドライフルーツが入れられた小さな花形の器を置いてくれた。
「しかし、今まで考えつかなかったな」
のんびりとした口調に似合わず手は休むことなく繊細かつ大胆に動いているこの隣に座る人のお名前は、クリストファーさん。
「そうかな。逆にこの装置が凄いと思いますけど」
「よし、終わりました!」
クリストファーさんは、額の汗をぬぐう仕草をしジュリアさんが淹れてくれた紅茶を一気のみ。
ちなみに彼の紅茶はキンキンに冷えたミルクティーである。
「あー! 生き返る! 僕は酒なんかよりこっちがいい。そういえばノノムラ様は成人されているのですか?」
「とっくに」
この国の成人年齢は17歳だ。
「なら酒が飲めますね。僕は身体が受け付けなくて。本当は、ほんの少しですよ。少しだけ楽しそうな奴等をみていると時折羨ましくなりますよ」
本当に残念そうな顔である。そう、友達とワイワイして飲むお酒はとっても楽しいよ。でもね。
「…お酒は、飲まないって決めたんです」
もう手遅れだけど。飲まれたらどうなるか身に染みて、し過ぎて恐怖よ。
「そうなんですか? 」
事情を知らないクリストファーさんは、不思議そうな顔をしていた。
「あとは明日ですね」
ジュリアさんが、気をきかせて話を戻してくれた。
「うん、頑張る」
そうだよ。手をだしたからには、最後までやりとげる。
「僕はやっと寝れる!」
「クリストファーさんが助けてくれて助かりました。本当にありがとうございました! とりあえずは好きなだけ寝てください」
クリストファーさんの大袈裟な様子にジュリアさんと笑った。いや新婚らしいので、申し訳なかったよ。
*~ * ~ *
「風邪をひきますよ」
夜、自分が住まわせてもらっているバルコニー下の庭でのんびりしていたら声をかけられた。
「モナさんこそ」
夜だというのに乱れもなく制服を着ている。こんな遅くまで仕事だったのかな。
「甘いお菓子は大丈夫ですか? よかったら」
昼間に息抜きで作ったお菓子を食べていたので一つおすそわけ。
「これは」
「私の世界のお菓子です」
モナさんは、一口食べると微笑んだ。笑うとえくぼが出るんですね。
なんか可愛い。
「美味しいですね」
「本当? よかった」
作ったのは、チョコチップ入りクッキーもどき。特に技も必要なく、コツは低温で焼くくらいかな。この国のお菓子は激甘なので甘さをかなりおさえた自分好みの味だ。
「まだ此処に?」
「うーん。 もう少しだけ」
夜に出歩くのはよくないとジュリアさんにも注意されているけど、たまに息がつまる。
「そうですか」
部屋に連れていかと思いきや。
「怒られて強制的に部屋に帰らされると思ってました」
彼は私の肩に自分のマントをふわりとかけてくれた。
「いいえ。ご一緒させて下さい」
モナさんは、階段になっていて座っていた私の隣に意外にも乱暴に腰を下ろした。
緊張感もなく、なんとなく二人して無言でぼんやり。そんな沈黙を破り先に口をひらいたのはモナさんだった。
「作業は順調ですか?」
「はい。あとは明日皆さんに協力してもらって、また確認後御披露目です」
「一生懸命やられてましたね」
ん?なんか他人事だぞ。ここはビシッと言わないと。
「モナさん」
「はい?」
「モナさんかなり重要ですからね」
「練習はしてみましたが。責任重大ですね」
穏やかな笑みで返された。本当に要なんだからね。呑気なモナさんの様子をにちょっと不安になる。そんな彼に聞かれた。
「ジュリアに聞いたのですがノノムラ様の名前はミライ様なんですね」
名前の話?
「はい。こっちの世界と逆なんです」
緑の瞳が細くなる。
「ミライ様とお呼びしても?」
様づけが違和感。
「様はいらないです。未来で」
「では、俺の事もグランと」
また、何かひっかかった。そうだ。いつもモナさんは、自分をさすときは私と言っている。
「ミライ」
「えっ? あ、はい」
何か急に落ち着かないぞ。
「あの」
急に影がさしたと気づいた時には隣にいたモナさん、グランさんが手を伸ばしてきて──。
「花びらがついてました」
髪に付いていたらしい白い花びらを見せてくれた。
「あ、ありがとうございます」
なんか意識してしまった自分が恥ずかしい!
誤魔化すように、他にもまだついてないか自分の髪を触れば、小さな笑い声と。
「ミライ」
「はい!?」
「何もしないですよ。 今は、まだ」
耳元で小さく囁かれたので息がかかり思わず耳を塞いだまま彼の言葉が頭の中で再生される。
……どういう意味だろう?
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