毎週水曜はアイスと制服と筋肉と

蝋梅

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4.ヴィンの呟き

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「筋肉ぅ~♪ アイスぅ~♪ 食べ放題からのモッフモフぅ♪ 」

 神聖な場、神獣が眠る部屋から今日も歌なのかよく分からない声が扉越しから微かに聞こえてくる。

 この扉や部屋の造りはとても強固なはずなのに声が漏れるとは、かなりの声量を出しているはずだった。

 俺は化身の護衛に就く際に副団長から受けた説明はあながち嘘じゃなかったのかなと、奇妙な旋律を聞きながら思った。



* * *



『壊滅的に音痴な化身…ですか?』
『らしいよ』
『化身の魔力で目覚めるわけではないのですか?』
『その説はあながち嘘じゃなくて、どうやら化身の音痴の声には神獣が嫌がる力も出ているらしいよ。ようは、煩い声に耐えられず目覚めるんだってさ』
『何ですかそれ…』

 その話を聞いて、俺は、まだ見たことがない化身様には喚ばれた条件を聞かれても知りませんを通しぬこうと決めた。

 だって稀にみる音痴が理由って、俺なら傷つく。

「…そういえば、最初もびっくりしたな」

 化身が万が一危険な存在だった場合に備え、歓迎というより宰相達の護衛についた俺達、本当は団長が警護するはずだったらしいが、陛下が隣国へ急遽赴く事が決まり団長も。

 そこで腕は確かだけれど、軽さがある副団長が指揮をとり薄暗い地下室、城の下に存在する洞穴のような場所で化身を待った。

 俺は、城にこんな場所もあったのかと目だけを動かし、観察していた。この場所については口外厳禁ばらしたら即、命は消えると言われたので、どうせ命令は背けないから、じっくりと見てみるかと思ったのだ。

そして、そう待たずに化身はやってきた。何の前触れもなく突然に。

 俺の中では召喚の義とは、もっとこう、神々しいというか光が溢れてそこから現れ畏怖などを感じるような。

『ぶへっくし!』

……なんとも気の抜けてしまう光景に、俺は剣の柄からすぐに手を放してしまい副団長に注意された。 

 言い訳になりますが副団長だって俺より先に構え解いたじゃないですか。

 化身様は、薄暗くても分かるほどの、面積が少ない服で肩はまる見えなうえに白く長い足が無防備にさらされている。

 思わず自分の為にもマントを外し化身様に巻きつけた。

 不在の陛下に代わりこの場を仕切った副団長は、早々に執務室へと化身を連れて行き、化身に質問をし始めた。

その瞳は好奇心だ。

 一方化身様は、いきなり召喚されたわりに、とても落ち着いており、なにやら副団長が凍らせたアイスという食べ物を溶かしてくれと注文までしている。

この方、ある意味凄いのかも。

 何がって副団長を初めて見た女性は、大半が目の色を変えるのに。

大分経ってから俺は、聞いてみた。

『副団長は自分から見ても、武術に優れ、なによりその見た目が女性達からは凄まじい人気なんですが』

 同性から見ても、軽い口調を除けば、継承を放棄したとはいえ直系の王族でただいるだけで存在感がある。まあ最近隣国の姫と婚姻したから人気は少し落ち着いたけど。

『えっとですね。副団長さんは、こんな感じです』

 そうヨシダ様は言うと、俺から少し距離をとり柱の影に隠れ顔を少し出すとなにやら手を動かした。

意味が分からない。

『あ~なんて言えば、こうファインダー越しで充分なんですよね』

そう言うと、小走りで戻ってきて、今度は俺から少しだけ距離をとって。

『で、ヴィンさんは、これくらい』
『えっと、副団長より劣るという意味ですか?』

 別に気分を悪くしたわけでも、ただ当たり前な事、副団長にいまの所敵う箇所がないので言っただけなのに。

『あっ! 違いますから! ジャンルが違うんです。ヴィンさんは、カッコ可愛いくて、ちょっと近くにいきやすいんです。話しやすいし』

 慌てる様子がなんか和んだのはいうまでもない。

 そんな穏やかな日が続いたある日、俺は、失態をした。



* * *




『つべこべ言わず脱ぎなさい!』

 ヨシダ様に半ば強引に上着を脱がされ、長椅子に倒された。「整えてあげる」そう言われて腕や腰を押し始めた。どうやらヨシダ様は、身体の歪みを整える仕事をしているらしい。

 初めて整体というのを受けたが正直あちこち触れられ落ち着かないし、その箇所が全てが痛い。それでも少し慣れてきた頃、あまり会いたくない人物が突然ドアを蹴って入室してきた。

『密室で何をしている!』

 確かにこの体勢は、異性と密着しているように見えても仕方がない。ただ次のヨシダ様に対しての暴言に俺は、一気に怒りへと駈られた。

『我が家の名を使って報告します』

 ネクターより家の位はこちらが格段に上だ。

 今まで、こんな風に家を利用した事なんてなかった。むしろ家の地位が邪魔だと考えていた俺にとって、自分でも口から出た言葉に驚いていた。

 ちなみに一番の失敗は、興奮して尾を出してしまったこと。これも滅多にない事だ。

『姿を変えられる?』

 今は血が薄まり姿を変える者は少ない。

俺は先祖返りで希だった。

 姿を変える時は無防備な状態になる為人前ではしない。それに。

『あー!』

 人に戻った俺を見てヨシダ様は叫んだ。

だから嫌だったのに。

 獣になると言葉が話せないから服を咥え全裸になると動きで伝えたつもりだった。また運悪く副団長にも見られてしまい。

 ヨシダ様の様子をみて、次回は別の護衛がつき、俺は、任務解かれるなと思っていたら。

 何の音沙汰もなく、こうして扉の前でヨシダ様の警護を続けている。

「よいしょ。あっ、ヴィンさん、終わりました~」

扉から小さな頭が出てきた。

 回想しているうちに、終わったようだ。

「中は冷えませんか?」

 こちらの服装は、ヨシダ様のジャージという服より寒そうだ。

「じゃあ、また姿を変えてください! あったかいし、フワフワ最高なんですよね~。勿論また整体しますから」

 獣に変化する俺を見てからヨシダ様は、姿を変えて欲しいと来る度にねだられるようになった。

 もうヨシダ様の前で獣の姿になるのに抵抗はあまりない。ただ、毎回抱きつかれるのが悩みだ。

獣とはいえ異性なのに。

 抗議しても同族ではないから言葉は通じず「にゃ~んって!もっとお話して下さい!」と言われて余計に身体に回されている腕が強くなるだけで効果なし。

「ヴィンさん?」
「あ、すみません」
「で、いいですか?」

 生き生きとした瞳に勝てるはずもなく。

「少しだけですよ」
「やった! えへへ」

 前を歩くヨシダ様、ヨシコ様は、とても機嫌よく歩いている。ドレスの裾や少し茶色の髪に飾られた花の髪飾りも、歩調に合わせて元気に揺れている。

 以前、背筋を丸めているヨシコ様が気になり、此方の服を着てもらったのは、つい最近の事だ。

今、前を歩く彼女の背筋は──。

一つ誤算だったのは、仲間の奴等もヨシコ様の美しさに気づいてしまい、最近では訓練中なのに「ここ、前より鍛えて割れてきました!」などと言い近づいてくるのが不愉快で仕方がない。

しかも、ヨシコ様も「いいっ! ちょっと触りたい!」など仰る始末。

俺の気持ちにいつ気がついてくれるんだろう。

「あれ? ヴィンさーん! 早く外行きましょう。じゃないとモフリ時間が減っちゃう!」

手でおいでとされる。

 ヨシコ様は、迷う為いまだ1人で城内を歩けないくせに。

「まだ時間はありますよ。それより人が来てますよ。前を見て下さい」

余所見をしているので注意をした。本当に目が離せない方だ。

「まあ、暫くはこの関係でもいいか」
「ヴィンさんーこっちだっけ?」
「逆ですよ。ちょっ走らないで下さい!」

──願わくば、もう少しだけこのままで。




✻✻✻END✻✻✻
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