私は、聖女っていう柄じゃない

波間柏

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27.久しぶりな人達

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「無駄にチャラいのがいる」

 ランクル達が存分に話し合ってもらっている間に魔術師のレイちゃんに帰宅の目処がついたのかを確認する為にお城に来たんだけど。

「やあ、久しぶりだね」

 遠目からでも窓から差し込む光でキラッキラに光る金髪には気づいていたが、一本道の為回避できず。

「今日は。じゃ」

 うろ覚えなご挨拶をし、右に舵をとれば目の前に壁が。

「殿下。私は暇じゃないんで」

 その長身と以前よりがっちりとした横幅で道を塞ぐな。

「ジルと呼んでよ」

 この人は、学習能力が退化しているのだろうか。

「ギュナイル。フリル様を呼んでもらおっか。殿下は手が空いているみたいだから、育児を交代すると伝えて」
「えっ、ちょ」
「畏まりました」
「待ってよ! 冗談だから~!」

 私のお願いに綺麗な礼をし踵を返すギュナイルの袖を引っ張る殿下。コントか?

「あのですね。息抜きは必要だけど、無駄に色気を振り撒いている時間があるなら奥さんの補助しないと。捨てられますよ」

この人に遠回しな表現は不要だ。

「捨てられるのは困るなぁ。聖女様は、変わらないねぇ」

 何故か頭を撫でられたが、手にキスよりはマシなので放っておけば、ギュナイルがいつの間にか私の背後から隣へと移動してきた。


「ジルヴェール殿下は随分、変わりましたね」
「そう?」

キョトンとするイケメンは、子供っぽい。

「上からの物言いですみませんが、前より鍛えているみたいだし、一番は雰囲気が柔らかい」
「私は、いつも柔らかいよ?」

 声を荒らげて怒鳴るタイプではないだろうけど、そういう意味じゃないんだよなぁ。

「うーん。薄っぺらがペラぐらいに見えます。きっと、お父さんになったからなんでしょうね」
「ぺらって……素直に喜べないんだけど」

 複雑な表情をし、鬚のある顎をさすっている。

「また面倒なのが」 
「どうしたの?」

 ふいにギュナイルが後を向き私に聞こえるくらいの小さな声で呟いた。その方向に首だけ動かせば。

「あれ? 嬢ちゃんじゃないか」
「ご無沙汰です」

 騎士団長のラングさんに親戚のおじちゃんに対する挨拶をしてしまった。いや、なんか流れ的にね。

「ラング、あれ?会議は?」
「殿下が急用から一向に戻らないから解散になった。あ、その会議の件で宰相が探していたから早めに会ったほうが」
「不味い!カナ、またね!」

 ラングさんが言い終わる前に殿下は来た道を足早に去っていった。

「お父さん、大丈夫かー?」

残念な殿下というか。でも、まぁ。

「ジルヴェール殿下らしい」

なんかほっとするわ。




***



「この先はレイルロードの研究室しかないはずですが」

 何故か通路で遭遇したラングがノッシノッシとついてくるので聞いてみた。

「そんなの分かっている。さっきの会議に奴が出なかったから書類を渡すよう言われてな。あんな場所に長くいるわけないだろ?すぐ帰る」

やはり、レイルロードは嫌われているのか。

「あ、カナはまだこの世界にいるのか?」
「それを知りたくて彼の部屋に向かっているんだけど」
「ふーん。あ、まだいるなら明後日、結婚式に来てくれよ」

 久しく呼ばれなくなった式にお呼ばれされるとは。

「ちなみに誰の?」
「俺のだ」
「そうなの?! あー、でもなぁ。めでたいのは良いけど正直、服とかルールとか面倒」

とにかく準備が億劫。

「飯と酒にかなり金をかけたんだ。ああ、幻の酒と言われているヤツも出すん」
「ハイ!行きます! 参加します!」

 まだ飲んだことのないお酒が飲めるだなんて素敵。奏にとってはかなり魅力的である。

「あ、一発芸とかないよね?」

 その代わり発表会みたいな出し物に放り出すぞとか言い出されたら悲しい。私には人を笑わせる技はない。

「芸?なんだそれは?」

まず、そっからかー!

「自分の自由時間がなくなっていくけど、おそらく料理も美味しいだろうしな」

皆とバカ騒ぎも悪くないか。

「まぁ無理にとは言わねぇよ」
「カナを野放しとは!式が台無しになったら困りますので私も参加します」
「なんですって?!」

言わせておけば、私の悪口じゃないの!

「事実ですから」

……ギュナイル、真顔で言わないでよ。




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