中途半端な私が異世界へ2

波間柏

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3.期待しちゃう

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「久しぶりだな使者殿」

 私は、天幕の中でヴィラスの宰相さんであるヒュライドさんと話をしている。

 相変わらず宰相さんの眼鏡の奥の緑色の瞳からは、何を考えているのか分からない彼は、とても面倒くさそうに何故ここにいるのかを説明してくれた。

「今夜は夜営をして明日にはガインの城内に入る予定だ。本当は貴方をガインの城へ連れて行きたくないのだが…。此処は既にガインの領地内であり転移してきた貴方はヴィラスール神の気を強く浴びすぎている」

それの何が問題なんだろう。

 キレッキレの宰相さんとは脳の作りに雲泥の差がある私は一生懸命に頭の中を動かす。

「えー、私が来たのが分かっていると?」

うむと頷かれた。

 当たったのは良いけれど、どうして城から距離があるこの場で早すぎないかと不思議である。

 嫌そうな表情だけど、面倒見が染み付いているらしい宰相さんが教えてくれる。

「ウチが影を各国に放っているようにガインも同じ事をしているからだ」
「成る程」

情報戦っていうやつですね!

 そして、宰相さんの話は終わってなかった。緑の瞳は私をじっと観察するように見ている。

何かな?

「気にかかる事が一つ。私は、魔法使いのモウルほど詳しくは分からない。だが、貴方の気配というよりも力が以前と大きく変化したように感じる」

そういえば。

「確か、ヴィラの力は強すぎて体が耐えられないから防御と歌った時に力を使えるようにするとか言っていたような」

 ヴィラの話を言えば宰相さんは少し真剣な様子になった。そんなに不味いのかな。

「だとすると、何が出来て何ができないのか分からないのに転移は危険だな。悪いが、やはり我々と行動を共にしてもらうしかないようだ」

 ようは、私がお荷物なのよね。いや、どこに居るか理解してた時から知っていたけどね。

 でも、この場所に飛ばしたのはヴィラだから!

 怒ってもしょうがないので、お世話になりますと大人な対応をした私は成長したような気がする。

自分の機嫌は自分でとるのだ。

「めんどっ」

 しかし、天幕を出た瞬間にダルくなってしまった。

 空を見上げれば、もう夕方で青い月が顔を出していて懐かしいわこの色としんみりする。

「終わった~?」
「ギャッ?!」

 いきなり近い距離で声をかけられ飛び上がってしまった。

「いつからいたんですか?」
「え~、けっこう前から」

 特技というか、スパイには必須であろう気配消しは凄いけど怖い。あ、首を傾けピコピコと耳が動く姿がなんか可愛い。

「ん?」

 何故か彼は、細長い葉っぱを持っていて私の頭をぺしぺしと当ててきた。

痛くはないけど煩わしい。

「どうしたんですか?」

次に彼は、急に屈むと私に視線を合わせてきた。

「んー。とりあえず、お帰り」
「…ただいまです」

なんか嬉しい。

 だけど、そんなほんわかした気持ちもラウさんの口から次々出るセリフに吹き飛んだ。

ラウさんは、更に顔を近づけてきて。

「カエデちゃんは、まず着替えて。あと今回の隊は、ヤローばかりだから気を付けてね」

何を?

 残念な子という感じの視線を私に送り説明してくれた。

「戦でもないし、後ろにはルーク副団長がいるから大丈夫だとは思うけど。ゼロじゃないからイタズラされないように注意してって意味」

ん? 今…。

「副団長?」
「そうだよ~。ルーク副団長」

 何故かニヤニヤしだすラウさん。

「隊長じゃあ元使者様と結婚する時に釣り合わないでしょ~」
「結婚?!」

いや、そりゃあ、いつかは。

 空想に浸る私の耳元に声のトーンを落とした囁く声が。

「ちなみにカエデちゃんは、ヤローと一緒に寝るのは無理。だから今夜は副団長のテントと一緒ね」

そしてトドメは。

「ガインに着いたら警護も兼ねてルークと同室だと思うよ。まぁ婚約者だから問題ないし~」

今度こそ私は固まった。

「カエデちゃん? ちゃんと付いてきて。迷子になるよ~?」

 いつの間にかラウさんとの距離が随分空いていた。

「待って下さい!」

 私は、下駄をカタカタ鳴らしながら慌ててラウさんの背中を追った。



*~*~*


「う~ん。見る人によっては違うのかも」
「現実を受けとめていますから大丈夫です」

 私の制服姿を見たラウさんは呟く。

はいはい。ブカブカだし、どうみても少年ですよ。だから残念な顔しないでくれます?

 素材はどうしょもないんですからね。

「もう少し遅めにお願いしたいです」

 あれから浴衣じゃ足がでているし下駄も歩きづらいので制服を借り、ご飯も分けていただきテクテクとラウさんと歩く。

 ちなみに、お風呂なんてものはなく皆は近くの川で水浴び。私は、濡らしたタオルで体を拭くだけだ。

「アレだよ」

 他より少し大きいテントの前でラウさんがやっと足を止めた。此方を見下ろした顔は、ニヤニヤで。

「まぁ、がんばっ」

 その台詞…。前にどこかで聞いたような。思い出せなくてモヤモヤしている私を残して彼はひらりと手を振ると早々に去っていった。

どうしよっかなぁ。

 テントの前にずっと立っているわけにもいかず。どうしようかなと躊躇していれば。

「楓?」

 気配なんか消せない私は、既に気づかれたらしく中から声がした。

 もう入るしかない。えぃっ!

「失礼します…」

 ビクビクしながらも中に足を踏み入れたら室内は思っていたより広い!

 ルークさんは、仕事をしていたようで入って右側にある簡易机の前に座っていた。

「悪いが椅子がないからどちらかに座ってくれ」

 そう言われた先には、簡易ベッドが少しだけ距離を置き二つ並んでおり、それを見てしまった瞬間。

ダラダラと違う汗が出てきた。

クゥ!変に緊張してきたじゃないか。絶対ラウさんのせいだよ!

「もうすぐ休憩するから待っててくれ」
「あっ、はい」

 顔をあげずに書類に目を通したままルークさんは言った。私は、やっとベッドの一つに腰掛け、邪魔にならない程度にルークさんを観察した。

 彼は、水浴びをした後だからか、制服の上着は脱いでいて。

 シャツ姿で腕をまくっているルークさんは、男っぽさがいつもより滲み出ている。

あれ…? なんかまた落ち着かなくなってくる。

夢じゃないよね?

 数時間前まで花火を友達と見ていたのが嘘のようだ。

「大丈夫か?」

 声にはっとなり顔を上げるとルークさんが、カップを2つ持っていて1つを渡してくれた。

「ありがとうございます」

 そっと口をつけたら温かくハーブティーの味がした。

 でも、ほっとできたのも束の間で。ギシッと音がし、ベッドが沈んだ。

 気づいた時には、既に隣に座ったルークさんから手が伸びてきて。その手は、私の胸元の中にある鎖に触れた。

 肌に触れたルークさんの手はひんやりしていて。そうこうしているうちに片手で鎖を服から出され、へッドの青い石を摘むとそれにキスをした。

視線は私を見たままだ。

石と同じ。
いいえ違う。
それ以上に深く青い瞳。

「楓」

 低い声で名前を呼ばれ、心臓はバクバクだ。

逃げたいけれど逃げたくない。

 ピンチだけど、何かを期待している自分がいた。

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