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4.魔法使いは、ココアが好き
しおりを挟む「帰る」
「えっ」
拾った貝を入れたケースに蓋をして、まだ途中だったご飯を袋に押し込め立ち上がった。
「あ、俺、明日は登校日だから来れない!」
「…そう」
別に待ち合わせなんてしてないのに。
「かーい、朝っぱらから元気だねー」
「そりゃあ海だしな。それよりあの子誰?」
背後で騒がしい声を背に私は自転車の速度を上げた。
***
「お待たせ致しました。Bランチになります」
「すいませんー。お会計お願いします」
「はい!」
五月さつきさんのお店は、軽食とはいえランチも出しているので日によってはかなり繁盛していて。
「お、終わった」
やっとピークが去った。最後のお客様を送り出し、いったん休憩だ。
「はい、ココア。随分慣れたわねぇ。ホント助かるわ」
ばったりとカウンターテーブルに伸びた私に大好きなココアを淹れてくれた。
「ありがとう。美味しい」
五月さんのアイスココアは、甘すぎない。ストローで吸いながら叔母が動く姿をぼんやりみていた。
まるで、このココアのようだ。
踏み込みすぎない、かといって無関心とは違う。不器用な私には無理な芸当だ。
カラン
「宅配でーす」
扉に取り付けてあるベル代わりの貝の飾りが鳴り、運送屋さんが入ってきて荷物を渡すと忙しそうに去っていった。
五月さんは、大きな箱を抱えたまま、私の前に来た。
何だろう?
私宛なのかな。でも、お父さんが何かを送ってくるとは思えなかった。
「間に合ってよかったわ。夏休み期間だけど明日から数日間、登校日があるらしいのよ。これは制服よ。サイズは聞いただけだったから大丈夫かしら? とりあえず開けてみて」
明日から学校に行くの?
聞いてないよ。動揺しながらも、せかされるので、のろのろと箱に手を伸ばす。テーブルに置き、頑丈に巻かれているテープと格闘し開くと。
「この制服」
「リボンが可愛いわよねぇ」
今朝、海に来た女の子が着ていたやつだ。
『あ、俺、明日登校日だから来れない!』
海のあの台詞。同じ高校なの?
「部屋で着てみてサイズ確認してきなさいな」
ニコニコしている叔母をよそに、私は、いっそう暗くなった。
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