中途半端な私が異世界へ

波間柏

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28.油断するとどうなるか

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「詳しい話は後程、宰相からあると思いますので」 

 そこで神官長様が、悪い笑みを浮かべた。

「舞に関して私にも良い案がありますのでカエデ様とじっくりお話をする時間をとれるとよいのですが」

 あの神様のような微笑みは嘘だったんですか?

 今、どす黒いオーラが滲み出ていますよ?

「ひとまず、この話は後に」
「…はい」

 抵抗するのも面倒になってきた。

なんだろう。弱い自分だな。

 私はまた杯もどきの前に立つ。石の台に乗り指先だけ水に触れる。今日は寝ないで直ぐ胚もどきに力を注いでいく。取り込んで開放し願う。

遠くまで届け。ヴィラにも。

「今日は力を上手く加減できたようですね。お顔の色もよさそうで安心しました。ではまた明後日お願い致します」
「はい」

 帰りの際に、トイレに行きたくて借りる事にした。石造りのせいか冷えるんだよ。気遣ってくれたのか神殿の女性の人がトイレに案内してくれた。

「こちらです」
「ありがとうございます」

 そして済ましてドアを開けたら。案内してくれた女性が立っていた。

あれ?

 待っていてくれたのかな。至近距離で待たれていたのが恥ずかしい。でもお礼を言おう。

「ありがとうございま…」
「申し訳ございませんっ」

 最後に見たのはその女の人のとても悲しそうな顔だった。



✻~✻~✻


目を覚ますと真っ暗だった。

 本当の闇。ここ何日かで何回か気を失い、その度場所が違うので大分なれてきた。けど真っ暗は流石に困る。

あっ腕輪。

 腕を動かすと、ヴィラの腕輪と皆からもらったブレスレットがあたりシャラと音をたてた。

 あれ?なんか一瞬青く光ったような?

 もう一度腕を振っても光らない。気のせいか。とりあえず両方無事だよかった。

地下かな?

 床が石のようで少し湿っている。

さて、どうするか。

 物凄く行儀が悪いけど胡座あぐらになり考える。やっぱり神殿のお姉さんだよね。少しの危機感はあったけど、まさか神殿内とはね。

 それよりさ。私、防御の膜を察知されないようにかけていたんだよね。術式ではなく自分の言葉やイメージでやるから曖昧なのかなぁ。

 悪意が分かったり、刃物で傷をつけられそうだったら発動していたのかも。

改善の余地ありだな。

 私はやる事リストに書きわすれないようにしないとなと色々考えていたら突然扉の外からダッ、ダッと音がした。

バンッ!

急に光が入ってチカチカする。

「泣き叫んでいるかと思いきや余裕だな。さすが使者殿」

 上から目線の悪意のある口調。よく見えなくてもわかる。

辛子オジサンである。

 私の中でおじ様ではなくオジサンと呼ぶ事にした。夜会や馬車での会話でこの人の地位はかなり上。郷に入れば郷に従え。普通はそうかも。でも強制的に連れてこられ、期間限定の私は従わないぞ。

 なにより今監禁されてるのだから。

「さて、使者様は大層人気なのはご存知ですかな?」
「…」

 聞かれても答えられません。私、今は口を塞がれてますから。彼は、私の返事など必要としてないらしく話は続く。

「他国の中でも特に興味を持ったのが、ガイン。そこの王子様は夜会で見た使者様に御執心だ。まあ父親は軍事力として使いたいみたいだか」

 そんなにべらべら話して大丈夫?

「話して大丈夫なのかって顔だな。問題ない。直ぐにこれからガインに引き渡す」

 辛子オジサンが睨み付けてくる。

「何が可笑しい?」

 何故なら今私は物凄く馬鹿にした表情をしているから。そしてまた、見下すように私は笑った。

「この小娘がっ!」

 罵声と一緒に頬の辺りに衝撃の後痛みが襲う。

そのまま私は倒れこんだ。

「フンッ!まぁ余裕なのも今のうちだ。せいぜいあの変態王子に可愛がってもらうがいい」

 捨て台詞を吐き辛子オジサンは去っていった。足音が遠くなったのを確認して、ゆっくり起き上がり私は念じる。口の布、手足の枷外れろ。


 そう、辛子オジサンや多分他の人も勘違いをしているのだ。

 私は、歌や言葉を発しなくても力は使える。人前で歌ったり、言葉で防護の膜をかけたりしていたから思いこんでいるんだろうな。

 先ほど叩かれた時、手に入れた物を小さい光を発生させ見てみる。私の手の中には辛子オジサンの多分紋章とよばれるマークが彫られた高級そうなカフスが片方手の掌で光に反射し光っていた。

 頬がズキズキし口の中は鉄の味がする。もしかしたら、治癒を自分に使えるかもしれないけど今はしない。次はここから出なければ。考えようとしたその時。

カッン、カッン

先ほどとは違う音がした。
次は誰?

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