気がつけば異世界

蝋梅

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106.ナウル君、縛るつもりはないのよ

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「二粒なら」

 乗り物をレンタルる為にナウル君が持っている水の木の種を一粒だけでも譲って欲しいと交渉しようとしていた私の顔は、さぞや間抜けな表情になっているのだろう。

「残り一つはまだ手元に置きたい」

 ナウル君は、小さな声でそう呟きながら種が入った袋をまるで生き物のように優しく撫ぜ、その手が止まり再び薄い唇が開いた。

「命令すれば済むのに」

ああ。
知っていたのか。

「命令って何だよ?」
「殿下には関係のない話なので」
「なっ、可愛くねぇ!」

 マート君が目敏く反応したものの、ナウル君はスルーをかましながら包から種を取り出した。

「どうぞ。暗所で保管して下さい」

 マート君の手のひらに乗せられたのは、研磨されたサファイアのような青い種。直径3センチほどだろうか。多面体の少し細長いソレはキラリと光った。 

「おー」

 やはり異世界はこうではなくては!

「お前、何か不敬な事を考えたな」

 マート君の手のひらに顔を近づけ過ぎていたらしい。いや、だって申し訳ないけど先程の種と雲泥の差がね。それに。

「私だってキラキラした物は嫌いじゃないし」
「「えっ」」

えって何よ。なんなのよ。

「食うばかりな奴が」
「普通な所がユラ様にもあったのですね」

おいおい。

「私に対して酷すぎじゃないかしら?」

 最後の一番、感じ悪い台詞はなんとナーバスさんである。

「ま、今は許してあげる。マート君、後で水の木の育て方の本をナウル君にも貸してあげられる?」

 しげしげと種を見ている王子様に声をかければ。

「ああ、構わない」

いや、本当に素直な子でよかったわ。後のナーバスさんなんて言いたくてしょうがなさそうだ。

 そう、彼の様な反応があたりまえだ。この場合、タダで貸すなんて生温い事はしない。

 大概は、自国に有利になるよう必ず条件をつけるはず。

「やっぱり君が不安だな」
「言ったか?」
「何でもないです」

「皆さん、夕食の用が出来ましたが」

 控えめなノッの後に入室してきたのはリアンヌさん。タイミングがいい。というか事前にだいたいこの時間に呼んでほしいとお願いしていたんだけどね。

「ありがとうございます」

リアンヌさんを入れ、四人と一匹は部屋を出た。


* * *



「あ、種の袋忘れた」
「はぁ?! 国宝級なんだぞ!」
「ごめん。食堂に先行ってて。すぐ行くわ」

コンコン

「どうぞ」

 どうやらナウル君は、私が戻ると察知していたらしい。

「忘れ物しちゃって」

 テーブルに置いたいずれ大事な戦力になる、今は干からびた種が入った巾着袋を手に取り腰につけてある袋へとしまう。

「口実なのは分かっている。何が知りたい? いや、俺に何をさせたい?」

 やっぱり、そうなるわよね。

「あのね。水の種は悪いと思ってる。ただ、貴方が風の国とつるんでいたのは、私とラジ、リアンヌさんしか知らないし、外での会話は周囲に聞こえてないわよ」

 目が見開いている。わかり易い反応は助かるな。

「ただ、この世に完璧はないとも思う」

 あのやり手な水の王がこの城に影を送っている可能性は大である。

「私は、君を盾にするつもりはない。生かすために契約したの。安全が保証されたら解約するつもりだから」

 いまや茶色い瞳が零れそうなくらいに大きく見える。

「どうして」

 信じていいのか。ならば、どうしてそこまで手をかけるのかと言いたいのよね?

「神や神器に頼らず平和を保つには、過度な憎しみは減らしていかないといけないのかなって」


 人と人が殺し合う。それは、終わりがない。

「ねぇ、ラナールやエレールは、この世界を見捨てたんじゃなくて、もう修正する力が残ってないという可能性もあるわよね」
「まさか」
「ま、あくまで可能性の一つよ」

 もし、この説が当たりなら私は確実に泣く。

「ナウル君、食堂まで歩けるなら一緒に食べよっか」

 私を帰せる力もないかもしれないから。

「立てる? 今日の食後のデザートは、私が大好きなタルトだから食べたほうがいいわよ」

 だからって、諦めない。

 私は、最後まで足掻くわよ。

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