気がつけば異世界

蝋梅

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112.異世界での旅は

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「んー、いくら乗り物が快適とはいえ地上が一番だわ」

 大きく伸びをして風を肌で感じた。鼻は土と花の香りをとらえる。

「キュ!」
「ノア? まだシャイエまで距離あるけど敵とか?」

 ノアが小さいながらも鋭く鳴いた数秒後、火をおこしていたり剣の手入れや洗濯をしていた皆が急に動きを止めた。

「魔物だな」
「一⋯三頭か」

 ラジとモーさんの呟き。数が分かるの?

 さらにドドッと駆けて来るような音が林の中から聞こえてきた。その時点でやっと私は、何かが向かって来るのだと分かる。私が決して鈍いわけじゃないと自分を慰める。

「いえ、5頭ですね」

 リアンヌさんが数を訂正したが、まだ姿は見えていない。

「シャー!!」

 また猫とは違う変な声と同時に開けた場所、即ち私達の前にソレは現れた。

「見た目が牛で、鳴き声が蛇のイメージなんだけど。なんか調子狂うな」

いや、訂正しよう。

 どう見ても私の知るなんとか牧場にいる牛より倍以上は大きいし、目つきがいってしまっている。

「これ、魔獣なの? 従えたりは無理? 食料になる?毒はあるのかしら?」

 矢継早に質問するとモーさんが回答してくれた。

「魔獣の使役は不可能だ。食する事は種類によるが。このモイネは内蔵を除ければ食える」
「わかった」

 この間の会話時間は数秒。

「ユラ?」

 帯剣していた剣を鞘から抜き、皆より前に出た私の名をラジが呼ぶ。

「即死にするには何処の部位がいいのか?」

 今度は返事を待たず一気に牛もどきの前に走り出た。迎え撃つよりこっちから。

「ハッ」

 気合を入れ、一番先頭の魔獣を狙い両手で掴んだ剣を振り上げ、力が逃げないよう一気に振り下ろす。

「次っ」

 身体が傾いたので逆らわず左足にしっかり重心か乗ったら、今度は左足を軸に右の牛もどきに下から斜めに剣を振るも。

「おっ流石」

 三頭目の角が目の前に来たが、その角が私を刺すことなく崩れ落ちた。

「このメンバーだとあっと言う間ね」

 汚れた剣をとりあえず振り血を飛ばすも落ちない。

 この状態の剣を鞘には入れたくないな。水場が近くにあるかしら?

「ユラ様。無理に剣を振るう必要はありませんよ」
「あ、凄い。ありがとうございます」

 リアンヌさんは、私の手から剣を半ば強引に外し、手をかざした。すると青い光る水が彼女の手のひらから溢れてきて私の剣にベットリと付いている血を洗い流していく。便利だなぁ。

「ユラ、いきなり敵に向かうのは危険すぎる」

 ラジが、目尻を釣り上げながら注意してきた。なんて口に出せばいいかなと綺麗になった剣を鞘に納めながら考えていると。

「慣れる為ですか?」

 ナウル君が、私が答えるより先に薪でおこした火の上に金網を設置しながら呟いた。

「だいたい当たりかな」

 光に頼んで周囲に結界と新たに風に覚えてもらった消臭をかけてもらう。よく血に誘われて来るとか言うじゃない。まぁ、新たに魔物が来てもやっつけるしかないんだけど。

「経験してきていない行動を直ぐに移せるか?今の私は五分五分なのよね。直接命を奪うって、人ではなく食料になる生き物全てに対してさえハードルが高いのよ」

 その日に食べる分だけ、生きるために他の命を狩る。頭では理解しても、いざ実行に移すには戸惑いが動きに出てしまう。

「ごめんね」

見たくない。

 だけど、自分が殺めた生き物の頭にあえて触れて謝った。



***



「ケホッ…ハァ」

 カッコよくみんなの前で言い切ったのに。

「なっさけないな」

 解体場面で耐えきれなくなった私は、皆から後退し結界内ギリギリの木の下で吐いた。朝食を食べてから時間が経過しているから出る物はあまりない。

「う~、胃液で口の中が気持ち悪い」

 それに、まだ解体の際に嗅いでしまった臭いが鼻の奥から消えない。

「口をゆすげば少しスッキリする」

 いつの間にか至近距離にいたラジに水の入った器を手渡された。

「あ、レモンだ」

 レードというレモンそっくりな酸味のある果物の果汁を垂らしてくれたらしい。冷えているそれを一気に喉に流した。

「ふぅ、美味しい」
「ゆっくり飲め。むせる」

 確かにとラジの教えに素直に従い今度は口にゆっくり含んだ。

「せっかくのご馳走だけど、ちょっと無理かも」

 肉の焼ける匂いがしてきたけど、残念ながら食欲はすっかりなくなっていた。

「燻製や塩漬けも作る。それならば後で食べれるだろう。今は胃を休ませたほうがいい」

 ラジの声のトーンは、気のせいかもしれないけど優しげだ。

「生き物を食べるとは即ち、それを殺める。頭では理解していて残さないようにしよう、美味しく作りたいって思う。だけど視覚と匂いの刺激がなぁ」

 経験をしていくしかない。

「ユラが殺めた魔物は苦しむ間もなく逝った」

 苦しまないように、いや息絶える瞬間を長く見たくないから一回で切り落とした。

 魔物は人を襲うから。意思の疎通はできないし共存は不可能。殺めてしまった命を無駄にしない。

「寸前にね、ちょっと気持ちに迷いがあった」

 最後の水を口に入れゆすぎながら飲む。火の煙が強くなった。風向きが変わったのだろう。

「焼き鳥風かな。それともジューシーな焼肉風か。ラジ、せっかくの出来たてなんだから食べるわ」

 この世界は、嫌なモノばかりじゃない。たまに大事な事も教えてくれる気がする。

「もう大丈夫。皆のトコに戻る。ラジ、もう一杯同じの作ってよ」
「ああ」

 空になった器を返しながら注文すれば、ラジは微かに笑った。最近、かなり柔らかくなったな。

「ギュイギュイ」
「君は、そうやって楽していると太るよ?まてよ?それならそれで美味しくいただけるのか?」
「ギュー!?」

 ラジの頭の上にいるコワニは、食料にはなりたくないらしく尾を激しく動かした。

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