気がつけば異世界

蝋梅

文字の大きさ
36 / 124

36.悔しいが言い返せない

しおりを挟む

「なんか、色々お世話になったわ。ありがとう」

 私は、海辺で遭遇した風の人達にお礼を伝えた。

 結局、あれから簡易寝床まで貸して頂き、夕食だけでなく今朝の朝食も提供してもらった。食事は硬い携帯用のパンと現地調達のおかずだった。

 そして昨日から今日迄に私が痛感した事がある。

 今の私では一人での夜営は無理だという現実。

 ダッガーの視線を感じ昨夜の彼のムカつくけれど正論な言葉を思いだした。

『アンタさ~、偉そうな態度のわりに何もできないのな』

 簡易テントのような物もやり方がいまいち分からないから組み立てられない。飲み水を運ぶにも力が足りないので少量しか持てず、現地調達の食事、ようは動物は、光達の力を使えばすぐ仕留める事ができるのに的をはずしっぱなしで出来ない。

 下処理なんてもっと駄目だった。

 魚は大丈夫だけれど、あのつぶらな瞳の動物を…。結局お肉は食べられなくて焼いた魚を食べた。

 あれも駄目、これも駄目。出来るのに出来なかった事ばかり。

これでは駄目だ。

 私は、不思議な例えるならガチョウに似た生き物に乗っているダッガーに言った。

「今度、森の中で夜を明かす時は、必ず獲物を仕留めるから捌き方教えて」

違う。

「教えて下さい」

ダッガーに頭を下げた。

 遠目に見た彼の狩りや処理の動きは皆の中で一番無駄がなく、見た目に似合わずとても丁寧な仕草だったから。

 正直、元の世界に戻るのだから、そんな事を覚える必要はない。でも、出来るはずの事をしないのは違う気がした。なにより生きる事は誰かの命を奪う事。

 生きるた為に獲物を狩るのは必須であり必要な分だけを狩り無駄なく食べる。

当たり前だけれど、今の元の世界ではリアルに感じることがないものだった。

 いや、感じないままのが良かったのかもしれない。

『いただきます』
『なんだ、そりゃ?』
『感謝しているんです。気にしないで下さい』
『へんな奴だな』

 昨夜、私は人生で初めて心から戴きますと口にした。

 私は、誰かの命を奪い生きていると自覚させてくれたこの世界に後悔とほんの少しだけど感謝したくなったりと、矛盾な感情を抱いている。

「ふ~ん。教えてやってもいいが、その時までにもっと成長しとけよ」
「下品ですよ」

 こことかと、言いながら身体のラインを手を使い空中で表すダッガーをすかさず叱るリース君。

 悪かったわね!足りてないのは自分が一番わかっているわよ。それに27歳の私は少しはくびれがあるんだから!

 この男、無駄にイライラさせられるんだけど。



***


「じゃ、機会があったらまたね」

私は、大人げないから口にはださず、でも心で覚えてなさいよ! と捨て台詞を吐き、挨拶をして教えてもらった地の国の方角へと足を向けた。

…ん?

 背後に視線を感じ後ろを振り向けば。

「なんで付いてくるの?」

 別れたはずのリース君とダッガーが、ガチョウもどきに乗って真後ろにいた。

「あ?リースが行くってごねたんだよ!」
「あなただって、あいつすぐ獣に食われるんじゃねーかって言ってましたよね」

 なんだか二人で言い合いが始まったと思ったら、息ぴったりにこちらを向き。

「危なっかしいので」
「死んだら後味わりぃし」

 うん、言い方に差はあれど、気にはしてくれているらしい。

「他の人は?」
「任務は終わったから先に帰らせましたよ」

 だから私達だけですとリース君。

 目的地迄の距離はそう遠くないが、この大型の獣がいつ出没するかわからない環境で1人よりはこの二人がいたほうが良いわよね。

「見返り求められても何もないわよ?」
「そんな事なんて考えていませんよ」
「俺好みに成長しろ」


最後の台詞は無視。

 まぁ、いっか。ラジが騒いだら逃げてもらおう。

「じゃあ近くまでお願いします」

 私は、ガチョウもどきに乗っている二人によろしくと手を差し出した。

 だいたい目的地まで4時間くらいだ。でも、その間だけ限定の珍妙なチームがこうして出来上がったのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

私は、聖女っていう柄じゃない

蝋梅
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。 いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。 20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。 読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)

処理中です...