気がつけば異世界

蝋梅

文字の大きさ
63 / 124

63.再びジャスダに乗れば、ラジの過去を知る

しおりを挟む
「ごめん、遅くなった」

 ラピスラズリの石の謎は解けぬまま、とりあえず集合場所に戻れば準備を終えたまま待っていてくれた皆は微妙な空気になっていた。

 まぁそうだよね。今、私は瞼が膨らんで、いや腫れているのが自分でもわかるくらいの酷さだ。

「おぃ」

 マート君が最初に声をかけてきた。私は、年下なくせに背は私を通り越している彼に手を伸ばした。

「なっ何すんだよ!」

 ギュウッと抱きしめというか、抱きついているように見えてしまうがしょうがない。

 次に、体を放し彼の背中をおもいっきり叩いた。

「いってーな!」

 角が生えた彼はやっと私をちゃんと見た。

「ねぇ、君のお兄さん、最高にカッコイイわ」

 恐らく怒鳴ろうとしたマート君の口は、そのまま、まるでご飯を食べたがる金魚のように口が開いたままだ。

「最後、あなたに見せたくなかったのはプライドだよ。兄としての」

 私も長女だから、なんか分かる。

「お兄さんいて幸せだね」
「…変なやつ」

 私は、妹から見たら、どんな姉なんだろう。きっと頼りなくて、詰めが甘い小うるさい奴かな。

 マート君、顔を背けても顔が赤いよ。

「ユラ様」
「リアンヌさん、ありがとう。さて、出発しますかね」

 リアンヌさんが、そっと濡れたハンカチを渡してくれた。

まだ泣きそうになるけど。

──今は前に。



* * *



「暫く目が細いままだな」

 ジャスダに乗りまた空の上。ラジは本気で言っているわけではない。

 だがしかし! マスカラとアイライナーを使用してきた私にその整った顔でその発言をするとは。

……許しがたい。

 ここは、足場が透け透けで踏ん張りがきかない。というか、そもそも力業では勝てないだろう。

ならば!

「何がしたいんだ?」
「本当に面白くない!」

 世の中にはくすぐったくないタイプもいるのか。

 もう、私は無視をきめこみ縁に肘をつき景色を眺めていれば、ふいに私の頭をゆっくりと撫でてくるラジが、いた。



 年下は好みじゃなかったんだけどなぁ。それに最近なんかガードが緩い自分も嫌。

「お姉さんとは久しぶりに会ったの? とても綺麗な人だね」

 なんか今なら少し踏み込める感じがして聞いてみた。

「手紙のやり取りはたまにしていたが、随分間が空いていた。あそこにいれば確実とはいえないが戦とは無縁だ」

 それに近づくと逆に迷惑をかけると言うので不思議で。

「兄妹なのにどうして?」

 家族に会うのがいけない事なの? 私の質問で頭から手が離れ、今度は毛先を遊ばれているようだ。

「姉との繋がりは半分だ。母親が違う。ユラも気づいていると思うが、俺の瞳はミュランとも他の国の者とも違う。かつて、遥か昔、この世界を支配していた一族の血が混ざっている」

「危険視されているから?」

 何かを諦めた笑いが背後でした。

「それだけならいいが。当時、姉は体が弱いながら強い力を中に持っていた。ただし解放すれば恐らく身が持たず、すぐに終わりがくるとも。だが他国は違う。美しく強い力を内に秘めた娘を欲しがった」

 驚きと混乱でわからなくなってきた。ただ、何で、それが会いづらい事につながるのか。

「ミュランは、無駄な戦は望まない。だが小娘一人のお陰で乱れようとしていた。ならばどうしたか。娘の弟が、今は亡き一族の血をひく子が姉を欲している。姉としてではなく。そんな噂を流した」

何それ。

「姉は、弟を恐れ神域に逃げ込んだ。神域は独自の規則があり、またどの国にも属さない。姉はそこで身体を休め、力を徐々に解放しこの世界の安定につくし始めた。そしてその後、良き伴侶を得た」

私の髪から手が離れた。

「全ては作り話なはずだったが、そうではなかった」
「本当だったって事?」

 首を振るラジの表情は何を考えているのか読めない。

「俺は、そういう気持ちではなかった。ただ、俺は尊敬していただけだ。瞳の色は関係ないと私の只の弟だと言い切る姉を。だが」
「だが、何?」
「姉は違っていた。ある日、随分前から弟ではないと言われた」

ラジは、数歩下がった。

「俺は、抱きついてきた姉を突き飛ばした」

 ラジの静かな澄んだ目は変わらない。ただ、私との距離が更に数歩下がるラジによって空いた。

「姉に裏切られた気がし、とにかく気持ちが悪かった。それからは悪化する一方で。その後、姉は神域に半ば強制的に連れていかれ俺は、ほっとした」
「今は? 昨日見た感じだと普通の仲の良い関係に見えたし、そんな事があったようには…」

 確かに最初は、この美人は何者かと思ったけど。

「姉は、心が弱っていたのだと、今ならそう判断がつく。戦で親や親族は死に、自分と同じ幼い友も戦力になる者は駆り出された」

 スフィー君の顔がふと浮かんだ。

「なんか、ただ悲しい」
「貴女らしいな」

 というか当事者じゃないから、わかんないよ。

「とにかく、現在のお姉さんは旦那さんと幸せなのよね。じゃあラジは? まだ噂を流されているとか大丈夫なわけ? 」
「当時を知る者は戦死し、または引退している」

なら。

「じゃあ、なんで後ろに下がってるの?」

珍しい。

ラジが困った顔をした。

「いや、情けなさがでてきた。…俺はやはり側にいるべきで」
「はい、却下。ん」

ラジの前に手をだした。

 どうしていいかわからないらしい。

「なら、掴んで。私は出会う前のラジは知らない。でも、今のラジはわかるよ」

 早く掴みなよと手をさらにつき出した。

「ラジの事、好きよ。ただ、彼氏とかは今は余裕ないから無理だけど」

 私の手にラジの指先が触れた。

「いいじゃん。それで。今が大事だよ」

 考えるのは悩むのは悪くない。でも、今は私と一緒に次に行こ。

「ちょっと」

 手を強く引っ張られラジの腕の中に入ってしまった。

「ユラ」
「はい!ストップ。軽い抱きしめはいいけど、その先はなし。私、緩いから元来のお堅いタイプに戻るんだから!」

 ラジの腕を剥がし腰に手をあてそう高々に宣言すれば。

「ユラ、貴女が愛しい」

 破壊力満点な笑みで砂糖の攻撃を受けた。

「なんで、この場面でその台詞?!」
「救世主ー! 煩いぞ!! また枯れるから静かにしろ!」

 マート君がなにやらキレ出した。

「枯らせないわよ!」
「実践済だろ? 不安しかねーよ!」

失礼な奴!

 そんなやり取りは暫く続いたのだった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

私は、聖女っていう柄じゃない

蝋梅
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。 いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。 20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。 読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)

処理中です...