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プロローグ
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「ねえ、皇子さま、これを差し上げますわ」
それは幼い折、春霞香るある日の記憶だった。彼はいまだ五歳と半年、艶のある藍のお髪を光に瞬かせた、牡丹もたじろぐ眉目秀麗な皇子様であった。その彼へと、碧髪を揺らめかせた、ほぼ同い年の少女が贈り物をした。白き箱を紗で包んで。広い宮殿の四阿に、長い朱の袖を青草に触れさせて。
「ねえ、開けてみてくださいな」
少女の見せる、子猫の甘えるようなまなざしは、あまりに愛らしく断ることは不可能だった。龍王と呼ばれる皇子はしずしずと紗を開き、箱のふたに触れる。その時、であった。
突然、ふたが開いて、その中に押し込まれていた毛虫が踊りだした。
「きゃああああ」
龍王が泣き叫び、碧の宝玉のような眼をした少女が指をさして笑った。
「おほほ、龍王ったら、いつでもこんな手にひっかるんだから! 私がお前に優しくして、何か仕組んでいない訳ないじゃないの! 」
ひーっひひ、ほほほと少女の笑いは止まらない。ばねで飛び跳ねる毛虫の人形に、いまだ
震えの止まらぬ皇子は泣きじゃくるばかり。
(この女、この女……)
この毎度の悪行に、龍王は眼に涙をたっぷり含ませて、心中密やかに誓う。
(いつかこの女に復讐してやる! 俺を散々泣かせたこの女、碧玉へ!!)
それは幼い折、春霞香るある日の記憶だった。彼はいまだ五歳と半年、艶のある藍のお髪を光に瞬かせた、牡丹もたじろぐ眉目秀麗な皇子様であった。その彼へと、碧髪を揺らめかせた、ほぼ同い年の少女が贈り物をした。白き箱を紗で包んで。広い宮殿の四阿に、長い朱の袖を青草に触れさせて。
「ねえ、開けてみてくださいな」
少女の見せる、子猫の甘えるようなまなざしは、あまりに愛らしく断ることは不可能だった。龍王と呼ばれる皇子はしずしずと紗を開き、箱のふたに触れる。その時、であった。
突然、ふたが開いて、その中に押し込まれていた毛虫が踊りだした。
「きゃああああ」
龍王が泣き叫び、碧の宝玉のような眼をした少女が指をさして笑った。
「おほほ、龍王ったら、いつでもこんな手にひっかるんだから! 私がお前に優しくして、何か仕組んでいない訳ないじゃないの! 」
ひーっひひ、ほほほと少女の笑いは止まらない。ばねで飛び跳ねる毛虫の人形に、いまだ
震えの止まらぬ皇子は泣きじゃくるばかり。
(この女、この女……)
この毎度の悪行に、龍王は眼に涙をたっぷり含ませて、心中密やかに誓う。
(いつかこの女に復讐してやる! 俺を散々泣かせたこの女、碧玉へ!!)
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