7 / 24
番外/歩く危険物
しおりを挟む第二性持ちというのはきっと周りが思う以上に大変なのだろう。
だが、それに巻き込まれる周りも大概大変である。
「ラゼルゥ…、好き」
この子は学院二回生のヴァレリア君。
彼はこの学院、というか、貴族社会の中でも有名な少年だ。
希少種オメガ。それだけで特別目立つ存在というのに、その彼の振る舞いは常軌を逸していた。
彼の美貌に目を向ける人間は数多ほど存在したが、その大半は彼がこの学院へ入学して半月もしないうちに、興味を無くす、または明らかに避けて通るようになった。
可憐にして尊大。
彼の権高で苛烈な性格は外見を裏切って、見事な程自らの危険を遠ざけていた。一部の学院生達と常に何かと揉め、そして揉めた相手はすべからく被害を被っている。関われば間違いなく危害が及ぶ少年だと大多数から嫌厭されているのだ。
その噂の彼は朝一番に昨日と続け様、一方的に熱を上げている人物に同じように横抱きにされてこの救護室へと運ばれてきた。昨日と違うのは意識があるところ。だが、理性を保っているとはいえない顔付き。
「降ろすぞ」
その人物、こちらも彼と同じ二回生のベルン君。アルファらしい完成した身体付きで、軽々とヴァレリア君を抱えている。クラスは違えど入学前からの親しい知り合いで、何かと話題の絶えない二人。教諭陣の間でもこの二人の情報は共有されている。
この救護室へ飛び込むなり状況を口早に説明し、奥にあるベッドへ彼を寝かせにかかる。
「嫌! もっと抱っこしてて!」
首根っこにしがみつき駄々をこねるヴァレリア君。
「トワ…」
困ったように途方に暮れた声のベルン君。君の力なら簡単に引き剥がせるだろうに何を手間取っている。けど顔を見て納得。いつもの冷静沈着な彼と違って、緊張を孕んだ面持ち。切羽詰まってると言った方が適切か。
「ん、ラゼルの匂い気持ちいい」
「こら、トワ! やめっ」
首筋にかぷり。ヴァレリア君はベルン君の首に子猫のようにじゃれつき甘噛みして得意げに笑っている。
「えへへ。これでラゼルは俺のもの」
ご満悦の様子だ。
「この…っ」
ベルン君はすぐさま逆襲に出た。ご機嫌なヴァレリア君の両手を掴みベッドに貼り付けてその上に乗り上げる。
ちょっと、なに挑発してるの、ヴァレリア君。君、今、すごく危険な事したんだよ? 発情中にアルファにあんな真似なんて、美味しく食べてくださいって言ってるものだからね?
「あ、あん! あっ、あっ、ラゼルっ! そこっ、駄目ぇ…っ!」
ほら、言わんこっちゃない。
「はい、そこまで! ベルン君、君が先にこれ飲んで」
ヴァレリア君のクラバットを抜き取り、はだけた胸元に顔を寄せて鎖骨に吸い付くベルン君の襟首を掴み上げて問答無用で口に丸薬を三錠放り込む。
「!」
口に含んだ瞬間、ベルン君は片手を口に当てて固まった。顔は一気に青ざめて冷や汗を流し出した。
そりゃそうだろう。緊急抑制剤、という名のこの世の苦味エグ味辛味が集約された効き目抜群の気付け剤だ。フェロモンに冒された脳味噌を一瞬でクリアにしてくれる優れもの。各学年、少ないとは言えオメガ性の子は毎年何人かは入学してくるからその子達のために常備されている。それを探すのに手間取って、ヴァレリア君にあられもない声を出させてしまった罪滅ぼしで、本来なら彼の体格なら二錠で良いところを三錠使ってやった。彼はアルファだからこれくらい耐えられる。
「はい、飲んだね? じゃあ後のことは僕に任せて君は隣の控え室。落ち着いたら教室に戻る様に」
「………」
控え室へのドアを指し示すと、ベルン君は大人しくフラフラとした足取りでそこへ向かいだした。いつもの凛とした彼からは想像できない覚束なさ。緊急抑制剤は一瞬で熱を奪い去るけど、反動もキツいからすぐには立ち直れないだろう。私はアルファじゃ無いからオメガのフェロモンにやられる事は無いけど同じ男だし、辛いのは想像できる。
「や! ラゼルっもっと触ってよぅ…!」
こらこら、涙声でそんな甘えた声出しちゃダメでしょ。せっかく薬が効いてきて正気を取り戻した彼が後ろ髪引かれちゃうから。
「君もちゃんと飲んでね。ちょっと苦いけどすぐに効くから頑張って」
「……!」
追い縋ろうとするヴァレリア君の口に二錠放り込む。発情起こしてるオメガにはこれが必要量。
適量といっても、口の中は想像を絶する惨事になってるんだろうな。ヴァレリア君はすぐにベッドに沈没した。
あーあ、こんなに制服乱されて。よく見たら、胸元だけじゃなくシャツの裾はズボンから引き出され腹チラ状態だし、そのズボンのベルトの留め具は外されかかっている。抑制剤を見つけるのがもう少し遅かったら大変な事になっていたかも。これからは薬品棚の整理はきちんとしておこう。
この子達みたいな失敗は立場上よく目にするから、慣れてしまって私自身はなんていうことは無いけど、当人達は正気に戻った時気まずいだろうなぁ。
仕方なしに下の方の乱れは整えてあげた。ベルトの留め具を元のように留めて証拠隠滅。
教諭としては生徒の心のケアも仕事だ。出来るだけ傷の少ないように偽装してあげなくては。
基本、オメガの子って男女関係無く姿形が見目麗しい。そんな彼らのしどけない姿を見せられればアルファでなくともおかしな気分になってしまう。
やっぱり目の毒なんだよな。
私の恋愛対象は女性だから男性相手に間違いは起こさないけど、オメガっていうのは危なっかしくて怖い。今回はベルン君がすぐに対処して大事には至らなかったようだけど、そばに信頼できる相手がいない時に万一発情を起こしてしまったらどうなるだろう。たまたま居合わせた周りにどんな影響があるか。当人もだけど、巻き込まれた方も気の毒としか言いようが無いんだよねぇ。こればかりは巡り合わせだから誰が悪いって事は無いけど、オメガは歩く危険物であるとはよく言ったものだった。
7
あなたにおすすめの小説
星を戴く王と後宮の商人
ソウヤミナセ
BL
※3部をもちまして、休載にはいります※
「この国では、星神の力を戴いた者が、唯一の王となる」
王に選ばれ、商人の青年は男妃となった。
美しくも孤独な異民族の男妃アリム。
彼を迎えた若き王ラシードは、冷徹な支配者か、それとも……。
王の寵愛を受けながらも、
その青い瞳は、周囲から「劣った血の印」とさげすまれる。
身分、出自、信仰──
すべてが重くのしかかる王宮で、
ひとり誇りを失わずに立つ青年の、静かな闘いの物語。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
とあるΩ達の試練
如月圭
BL
吉住クレハは私立成城学園に通う中学三年生の男のオメガだった。同じ学園に通う男のオメガの月城真とは、転校して初めてできた同じオメガの友達だった。そんな真には、番のアルファが居て、クレハはうらやましいと思う。しかし、ベータの女子にとある事で目をつけられてしまい……。
この話はフィクションです。更新は、不定期です。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる