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2.様々なバグ

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 生暖かい眩い光に包まれる感触が続き、ハッと意識が戻る。
薄暗い視界で、周りには何も無いように見えるが、足元に光が集まって出来たような床がある。

「はぁ、とりあえず間に合ったみたいだが、ここは……チュートリアルと説明みたいなものか?」
 正直に言うとMMO系統はあまり遊んだことが無い。
 動画とかはよく見るが。やっとことがあるゲームと言えばRPGくらいだろう。
 ただ、ニュースなどで見たVRMMORPGというだけで心が躍り、8万もするヘルメット型コントロール端末を買ったわけだ、正直馬鹿かもしれない……。

「ようこそ、ハンドレットオンラインの世界へ。私はあなたのアドバイザー、ルームサービスなどのサポートをさせていただくNPCです。早速ですが、私の名前を決めてください。あ、言っておきますが、『あああああ』なんて名前付けないでくださいね? 恥ずかしいですからっ。」
 俺が自己嫌悪に陥っていると、いつの間にか白と黒を基調としたメイド服を着用している、金髪碧眼の美女が、背筋を伸ばし礼儀正しく立っていた。
 どうやらここはチュートリアルというよりアバター作りというやつだろうか?

 俺には最初、機械のように喋る彼女が少し怖かったが、微笑みながら言った最後の一言で、彼女の印象が一変した。あー、よく俺もRPGでライバルとかの名前めんどくさくて、『ああああ』とかにしてたなぁ……。
 懐かしい思い出に馳せながら、俺は彼女の名前を真剣に考えた、一緒に付き合っていく名前だ、後から変更も出来ないだろう。
 シャナ……いやもっと和風にするか……目の前にある、ホログラムというのだろうか、液晶のみと言った感じのタッチパネルを操作し、入力しては消すの繰り返しだった。

数分立っただろうか──。

「花子だな」
「それはないですねっ。」
 数分かけて考えた名前を即答&笑顔で否定され、なかなかに悲しいが、Bプランで行くことにする。てか俺が決めるんじゃないのか!?

「アリッサなんてどうだ?」
「…………、素晴らしいです♪」
 謎の沈黙のあと、彼女……アリッサはニコリと笑って承諾してくれた。多分ほかのユーザーたちも彼女の反応に困っているだろう……。そう思うと少し笑えてくる。

「何か可笑しかったでしょうか??  次の項目に移りますが。」
「あ、あぁ、すまない、続けてくれ。」
 顔を少しのぞき込まれながら美女のアリッサに言われると少しだけテンパってしまい、慌ててしまった。
 次の項目はハラスメント行為などの注意点、スキルの発動方法、基本的動きも習った。
 まぁまぁ真面目に適当に聞くという高度なテクニックを使い聞き流すと、次の項目に移った。

 要点を説明すると、〈百の塔〉にはスキルなる物があり、1つは使用している武器に応じて発動するスキル、〈武器スキル〉と、レベルアップで貰えるスキルポイントを、ステータスに振り、一定数スキルポイントを振ると獲得出来る〈ステータススキル〉の二種類がある。
 〈武器スキル〉は熟練度の様な物で、使えば使うほど上がるため、比較的上がりやすく、その殆どが『戦闘モーションを行うスキル』だ。
〈百の塔〉では、〈武器スキル〉を使用すると、そのスキルに沿ったモーション〈スキルアシスト〉が自動で発生する。
 例えば、素人剣士でもスキルさえ覚えていれば、達人並みの斬撃を行うことができるという訳だ。ちなみに余談だが、この〈スキルアシスト〉機能はOFFにする事ができるらしい。
 それに対し〈ステータススキル〉は、レベルアップでしかスキルポイントが貰えない為、上げにくく、様々なカテゴリに分類されているため、どれを上げるか悩むスキルらしい、まぁおまけ程度に考えるとい。
 例えばレベルアップし、スキルポイント10を貰ったとして、全てSTRに振ると、STRが10アップし、〈近接攻撃スキル〉と呼ばれるスキルに分類され、近接攻撃時に能力値がアップするスキルなどの、『ステータスに反映するスキル』で、モーションなどは特に無い。

「それでは、次にアバター作りとなっております。作成後は変更不可能の為、十分に選んでください」
 軽く頭の中でまとめると、アリッサが続ける。
恐らくこのハンドレットオンラインの5本の指にも入る目玉設定。

『アバター作り』だ。


 髪型だけでなんと100種類以上、アホ毛や髪の癖まで設定できる、他には輪郭の微調整や、口角、目の色など、全てを含めると114514通りもあるらしい、なんか微妙な数だなぁとは思うが、とてつもない種類だ。ある理由から、性別は変えられないらしい、まぁ大体予想はつくが。

 俺は元々の顔から、かなりイケメン補正をかけて、アバター作成に十数分、最後にプレイネームの設定に取り掛かった。元々章三なんて古い名前が嫌いで、変えてみたかったのだ。さて、どんな名前にしようか……。
 ファンタジックな名前にしてみたいなぁとか思いつつ、考えついた名前をタッチパネルに入力しようとするが、一向に文字が打てない。OBのバグだろうか。仕方ない、このままで行くか。

「プレイヤーネームは[ ]dよ、しですね?」
 途中で少しノイズがかかったので、やはりバグだろうか? 少し不安だが、まぁ気にしないでおく。

「それでは、最後に職業を決めてください。」
 これもハンドレットオンラインの名物、職業決めだ。職業は9種類だけだがスキルツリーが豊富で、1職業だけでも、武器ステータス含め、1000ほどのスキルがあり、長い間遊べるレベルだろう、知らないが?
 俺はVRなど生まれて初めてだ、ハンドレットオンラインは戦闘メインだと聞いている。まともに戦える自信は無いので、後衛職らしき、杖も持ち茶色のローブに身を包んだヒーラーを選んだ。

 ヒーラーは防御力が低く、力もない。
 しかし、魔法が使え、時に攻撃、時に回復と言った、なかなか俺に向いている職業だと思う、迷いなく決定のタッチパネルに触れると、本当によいですか? という最終決定が表示され、はいを選択する。

「職業の選択が完了しました、それでは最後に能力をランダムで決定致します、基本的に職業に合わせた能力になるので、ご安心ください、結果はハンドレットオンラインにログインしてご確認ください、それでは100の迷宮を突破するのがあなたであることを祈ります。」
 アリッサが手を振り、二コリを微笑みそう言うと、再び俺の体が光に包まれ、意識が遠のいていった。


■□■□■


「……ッ!  ……って、ここは……?」
 頭を打ったせいだろうか、激しい頭痛とともに目覚め、視界が明るくなると、視界が仮想世界を捉えていく。遥か彼方の向こうに、悠々と立つ、上を見上げても途切れない黒い巨大な塔が立っていた。

「あれがハンドレットタンジョンか……?」
 ──ハンドレットダンジョン──
 ハンドレットオンラインの由来とも言われる、全部で100層に別れ銅や鉄、かといって石でもない、謎の鉱石で出来た、とてつもなく高い、大きな塔だ。
 1フロアは直径15キロメートルほどで、街エリア、迷宮エリア、ボスエリアの、3つに別れている。全ては階段で繋がれており、フロアボスを倒すと次の階層が開放され、百の塔の入口から、行きたい階層を選択して、その階段前からスタートする、そんな仕組みになっている。
 2層から、迷宮区言われるダンジョンを開拓しつつ、各層のボスを倒すことによって次の層が開放されるとのことだ。

「やけに静かだな、説明では街に飛ばされるらしいだが……。」
 周りを見渡すも有るのは道端に生える大きめの木や、広大で透き通った湖くらいだ。

「絶対街じゃねぇよな……。まぁOBTだし仕方ないか、ここから街っぽいのは見えてるし
歩いていくかな、徒歩練習だと考えるか……。」
 独り言を話終わると、一応人がいるかもと思い、周りを見渡し探したがあるのは木ばかり、どうやらここには俺だけのようだ。
 暇な時間を利用し、この仮想世界は現実世界と同じように歩き、走れ、ジャンプすることが出来た。
 よし、気分を変えて、早速能力値を見てみるか、俺はアリッサから習ったメニュー表示方法を使う(こめかみあたりに人差し指をあて、メニューと考える)とメニューが目の前にホログラム状に表示された。

「能力値能力値っと」
視界の右上辺りに[ ]とネームが書いてある。
妙に高い声だが、こんな、もんだろと決めつけ、能力値を探した。
思いのほかすぐに見つかり、内容を確認する。

・──〈ステータス〉──・

STR(物理攻撃力):350
INT(魔法攻撃力):0
WIS(知力):0
DFE(物理&魔法防御力)0
DEX(器用さ):0
CONスタミナ:100/100
CHA(魅力):0
AGI(回避力):0
HPヒットポイント:500/500
LVレベル:1/100

・───────────・
 
 ……俺って……、ヒーラーだよな? 説明ではヒーラーにはINTが必須、ヒーラーとしては50以上無ければ、魔法を使えないとか言ってなかったっけ……。

「いや無理だろがぁぁあ!?」
 いやいやいやいやいやいや、ちょっと待ってくれ、こんなの絶対おかしいよ! ランダムって言ってもそんなに極端にしてんじゃねぇよ!? てかヒーラーのくせしてSTRに全部振ってんじゃねぇぞ!
 なんだよッ! 世界樹の〇宮の殴りメディックかよッ! まだそっちのがましだわッ! 俺は魔法すら使えねぇんだけどぉぉ!? くそっ……普通に350あったら、50ずつ振るだろ……初心者の俺でも分かるぞ……。
 最悪のスタートだ……だが、まぁ地道にレベル上げてスキルポイント稼いで他に振ればいいか……。
 疲れた……とてつもなく何もやってねぇのに……、一旦休もう疲れた……。
 近くに切り株があるし、あれに座って少し休むか……。ていうか何か視野が低いんだが? 不思議に思い、手を体の前に出してみる、柔らかそうな肌理の細かい、小さな手が、ぐっパーと握ったり開いたりしている。どう見ても俺の手じゃない。そんなことを思っていると、タランっと何かが垂れてきた、んー、これは髪の毛っぽいなー、誰のだー? まさかぁ、んなわけないじゃん……。
俺は、近く湖に走っていく、覗き込むと、水に反射して自分の姿が映る。

 そこには、腰までかかる白髪に、透き通るような白い肌、汚れをしらない無垢な青色の瞳は何もかもを映しているようだ、服装は申し訳程度の灰色のローブと、木製の杖、先に真紅に光る宝石が埋め込んである。
 ローブの中は、なかなか軽装で皮で作ってある長ズボン、薄い布地の半袖だった。なかなかある胸が、半袖のシャツを張り上げている。身長はは145センチ程度……。

不意に章三の体がぷるぷると震える、そして──



「女の子になってるんですけどぉォオ!?」
章三ちゃんの2度目の絶叫であった──。
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