上 下
43 / 114
第二章【最善の敵アキラ編】

十三打目◉代走練習

しおりを挟む

 今日はアキラのアルバイト初日。
 午前中は仕事内容の説明とマニュアルに書いてある通りの接客の練習。午後になってもお茶出しや料理の説明だけで麻雀牌には触れないまま一日が終わった。
 どうやら初日から本走はさせないというルールがあるらしい。初っ端から負けてアウトスタートさせることになるとすぐに辞めてしまう人が出てくる為、ある程度まで給料を貯めさせてから麻雀させるという仕組みなんだとか。

 2日目もマニュアル練習と清掃業務ばかり。まだ牌には触れない。
 そして3日目、ついに牌に触れることになる。

「西川くんもそろそろ麻雀やりたいだろ。俺の代走で打っていいよ」とマサルが代走をやらせてくれる。
「ただし、これは代走の練習だ。代走として打ちなさい。リーチを打つことも鳴くこともなしだし不用意にドラや連風牌を鳴かせてはいけないからな。オッケー?」
「わかりました!」とアキラは元気よく返事をして着席。麻雀が出来るというだけで嬉しくて仕方ないのである。
 初めての仕事での麻雀が始まる。

「よろしくお願いします!」

 挨拶して一礼してから対局開始。チーチャはアキラ。サイコロボタンを押す右手が興奮で震えていた。

 カラカラカラカラ……
 サイコロが卓の中央のサイコロドームで振られる。出目は1と1の2。ふたつの真っ赤な1の目が上を向いていた。

(右2っと…)

ドラは一

 配牌を4枚づつ受け取る

④5西3

一九一③

一42②

3西

(すごくいい配牌だ。……というかこれテンパイしてるな。しかも親番でドラ3枚持ち!)

アキラ手牌 切り番
一一一九②③④23345西西

 考える前に口が動く。

「り…」(あ、代走はリーチ出来ないんだ)

 アキラは声が小さいので幸いにも誰にもこの『り』は聞こえていなかった。

(くううう。勿体ないなー)
 苦しみを堪えてアキラはそっと九を縦に置いた。
しおりを挟む

処理中です...