19 / 76
サイドストーリー1
美咲の小説① 冷やしかき揚げそば
しおりを挟む
19.
サイドストーリー1
美咲の小説①
乾美咲は小説が書きたかった。でも、難しい。いつもなんとなく面白くない気がして書いては消して書いては消してしてしまう。
(お兄ちゃんの言ってたこと実行してみようかな。日記を脚色してみろ、だっけ……。面白いかもしれない)
そう思うと一気にイメージがわいてきた。そう、これは先日の『きらく庵いろり』に入った時のこと。それを元に妄想を膨らませて――
◆◇◆◇
◎冷やしかき揚げそば
今日、私は工場へバイトに行ってたのだが、本当によく働いた。ろくにご飯を食べる時間もなかった。社員ならまだしも短期アルバイトにこんな仕打ちをするなんてどうかしてる。
こんな疲れた日は帰りの電車の乗り換え駅で立ち食いそばに入るのがバイトするようになった最近の私のお決まりだ。私はいつもここで冷たいかき揚げそばを注文する。
立ち食いそば屋には様々な人が来る。おじさんが多いかもしれないが私みたいな若い女だっていたりする。
(あっ、椅子あいてる)
ラッキーだ。立ち食い覚悟で立ち寄ったが椅子の席があいてた。私は水を取ってきてその席で番号を呼ばれるのを待つ。
ゴクッ
(美味しい。キンキンに冷えてる)
季節は初夏だったが気温的には今日は真夏だ。キンキンに冷えた水が本当に美味しい。
『ピンポーン! 112番のお客様出来上がりました。カウンターへどうぞ。ピンポーン! 113番のお客様出来上がりましたカウンターへどうぞ』
私は113番だ。2人一気に呼ばれた。カウンターへ行ってみると冷やしかき揚げそばがふたつある。ふたつある、が
「あっ」
(かき揚げの大きさが違う……)
112番の人はスーツ姿の若い男性だった。ほんの少し気まずそうな空気が流れる。この不平等感はまずいだろ。と。
どちらが何番とかは書いてない。おそらく同じ注文なのだろう。忙しい時間帯だ、かき揚げの大きさが雑になるのも仕方ない。しかし、いまここで同じ注文をした人と鉢合わせてるのはよくない。
すると男性は
「どうぞ。おれ、カタチいいほうが好きだし」
『どうぞ』という部分に含まれた言葉は『アナタは大きい方をどうぞ』だ。112番の彼の方が先に注文していたのに。
「あっ、……ありがとうございます」
カタチいいほうが好き? んなわけない。今から食うのにカタチもなにもない。確かにひとつはまんまるである。小さいが。
まんまるだからなんだと言うのか。
(あ、撮影してSNSに上げるタイプの人なのかな)
狭い店内なので私の位置からは彼の席が丸見えだった。私は少し彼を観察する。
「いただきます」
ズルッ、ズルズルズーーーー
(いや、撮影しないんかーーい!)
普通に食べ始めた。もう、ただのいい人じゃん。しかも「いただきます」もちゃんと言うし。
キュン
あれ、嘘でしょ。私、大きいかき揚げ譲られてトキメいちゃってるんだけど。我ながらあまりにもチョロい。
彼が「ごちそうさまでした」を言うまで見届けて、私もおいしくそばをいただいた。
────
それ以来、私の立ち食いそば利用率は格段に上がっていた。駅中のそば屋での偶然の遭遇なんて奇跡の可能性だ。また会えるわけなんてないのに。だいたい会っても仕方ないでしょ。いったい何がしたいのか……とは思うのだけど。
でも、あと一度。ほんのひと目。ひと目でいいから、また彼を見たい。会いたい。そんな想いから仕事なのにお気に入りの服を着て行き、そば屋に入る前に必ず化粧直しをしている。
「これが、一目惚れかぁ……ふふ」
こんな期間が短期アルバイトを辞めるまでの3カ月間続いたが、もちろんあの人には会えないままだ。
私の一目惚れはロマンチックさの欠片もなく。むしろなんだかちょっとこっけいで、格好がつかなくて、またそんなところが私にぴったりだとも思って ……少し面白かった。
ときめく心をありがとう。名前も知らない、かき揚げのあなた。
おわり
◆◇◆◇
(……いいんじゃない? 少し短いけど、素人としては上出来よね? かき揚げそば2つ出てきた事実からここまで妄想できたらたいしたもんでしょう)
そうなのだ、これは実際はかき揚げそばが2つカウンターにあった。それだけが事実であり、あとは全て美咲の妄想なのである。
「あー、恋したい。……お兄ちゃんが歳離れたイケメンだと良くないわ~。同級生とか相手だとみーんな(お兄ちゃんよりは格好良くないし、ガキだな)って思っちゃう。くっそー、お兄ちゃんめ!」
恋を知らぬ美咲の美しい花が咲くのはまだまだ先になりそうだ。
それよりも先に小説家として開花する可能性のある美咲だった。
サイドストーリー1
美咲の小説①
乾美咲は小説が書きたかった。でも、難しい。いつもなんとなく面白くない気がして書いては消して書いては消してしてしまう。
(お兄ちゃんの言ってたこと実行してみようかな。日記を脚色してみろ、だっけ……。面白いかもしれない)
そう思うと一気にイメージがわいてきた。そう、これは先日の『きらく庵いろり』に入った時のこと。それを元に妄想を膨らませて――
◆◇◆◇
◎冷やしかき揚げそば
今日、私は工場へバイトに行ってたのだが、本当によく働いた。ろくにご飯を食べる時間もなかった。社員ならまだしも短期アルバイトにこんな仕打ちをするなんてどうかしてる。
こんな疲れた日は帰りの電車の乗り換え駅で立ち食いそばに入るのがバイトするようになった最近の私のお決まりだ。私はいつもここで冷たいかき揚げそばを注文する。
立ち食いそば屋には様々な人が来る。おじさんが多いかもしれないが私みたいな若い女だっていたりする。
(あっ、椅子あいてる)
ラッキーだ。立ち食い覚悟で立ち寄ったが椅子の席があいてた。私は水を取ってきてその席で番号を呼ばれるのを待つ。
ゴクッ
(美味しい。キンキンに冷えてる)
季節は初夏だったが気温的には今日は真夏だ。キンキンに冷えた水が本当に美味しい。
『ピンポーン! 112番のお客様出来上がりました。カウンターへどうぞ。ピンポーン! 113番のお客様出来上がりましたカウンターへどうぞ』
私は113番だ。2人一気に呼ばれた。カウンターへ行ってみると冷やしかき揚げそばがふたつある。ふたつある、が
「あっ」
(かき揚げの大きさが違う……)
112番の人はスーツ姿の若い男性だった。ほんの少し気まずそうな空気が流れる。この不平等感はまずいだろ。と。
どちらが何番とかは書いてない。おそらく同じ注文なのだろう。忙しい時間帯だ、かき揚げの大きさが雑になるのも仕方ない。しかし、いまここで同じ注文をした人と鉢合わせてるのはよくない。
すると男性は
「どうぞ。おれ、カタチいいほうが好きだし」
『どうぞ』という部分に含まれた言葉は『アナタは大きい方をどうぞ』だ。112番の彼の方が先に注文していたのに。
「あっ、……ありがとうございます」
カタチいいほうが好き? んなわけない。今から食うのにカタチもなにもない。確かにひとつはまんまるである。小さいが。
まんまるだからなんだと言うのか。
(あ、撮影してSNSに上げるタイプの人なのかな)
狭い店内なので私の位置からは彼の席が丸見えだった。私は少し彼を観察する。
「いただきます」
ズルッ、ズルズルズーーーー
(いや、撮影しないんかーーい!)
普通に食べ始めた。もう、ただのいい人じゃん。しかも「いただきます」もちゃんと言うし。
キュン
あれ、嘘でしょ。私、大きいかき揚げ譲られてトキメいちゃってるんだけど。我ながらあまりにもチョロい。
彼が「ごちそうさまでした」を言うまで見届けて、私もおいしくそばをいただいた。
────
それ以来、私の立ち食いそば利用率は格段に上がっていた。駅中のそば屋での偶然の遭遇なんて奇跡の可能性だ。また会えるわけなんてないのに。だいたい会っても仕方ないでしょ。いったい何がしたいのか……とは思うのだけど。
でも、あと一度。ほんのひと目。ひと目でいいから、また彼を見たい。会いたい。そんな想いから仕事なのにお気に入りの服を着て行き、そば屋に入る前に必ず化粧直しをしている。
「これが、一目惚れかぁ……ふふ」
こんな期間が短期アルバイトを辞めるまでの3カ月間続いたが、もちろんあの人には会えないままだ。
私の一目惚れはロマンチックさの欠片もなく。むしろなんだかちょっとこっけいで、格好がつかなくて、またそんなところが私にぴったりだとも思って ……少し面白かった。
ときめく心をありがとう。名前も知らない、かき揚げのあなた。
おわり
◆◇◆◇
(……いいんじゃない? 少し短いけど、素人としては上出来よね? かき揚げそば2つ出てきた事実からここまで妄想できたらたいしたもんでしょう)
そうなのだ、これは実際はかき揚げそばが2つカウンターにあった。それだけが事実であり、あとは全て美咲の妄想なのである。
「あー、恋したい。……お兄ちゃんが歳離れたイケメンだと良くないわ~。同級生とか相手だとみーんな(お兄ちゃんよりは格好良くないし、ガキだな)って思っちゃう。くっそー、お兄ちゃんめ!」
恋を知らぬ美咲の美しい花が咲くのはまだまだ先になりそうだ。
それよりも先に小説家として開花する可能性のある美咲だった。
11
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる