麻雀食堂−mahjong cafeteria−

彼方

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その5『三角関係』編

第九話 常識破りのしょうが焼き

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47.




第九話 常識破りのしょうが焼き




 今日は教育している後輩が病欠ということで、久しぶりに仕事が早上がりできた。

 ダウンしてる後輩には悪いが、多忙な時期にこれは千載一遇のチャンスと思い、俺は麻雀食堂に寄ってから帰ることにした。できれば少し麻雀がやりたい。俺が最近上達したところを彼らにも見せてやりたいと思ったのだ。あと、肉が食べたいかな。




────




ガラガラガラ




「こんにちは」

「あら、ハルト君。いらっしゃいませ! 今日は何にする?」

「ん~~……。しょうが焼き定食にしようかな。ここでしょうが焼きはまだ頼んだことない気がする」

「ウチのしょうが焼きは人気メニューよ。それじゃあ腕によりをかけて作っちゃおうかなっ!」




 俺はあやのさんが手際よく料理をしてる様子を眺めてた。手順がいい。火から少し目を逸らしていいタイミングになったらサラダを作ったり洗い物をしたり、とにかく1人で店を回すことのプロなんだなと思った。

「……! な、な~に? じーっと見つめて」

「いや、ちょっと見てただけ。テキパキ働くなーって」

「どうせなら『見てた』じゃなくて『見惚れてた』って言ってよね♡ でもあんまり見つめられると恥ずかしいからケータイでもいじって待ってて。私だって見られて緊張することはあるんですからね」

「そうなの?」

「そうよ、完璧にしたいからこそ緊張するの。緊張感を支配してこそプロなんだけどね、なかなかそうは……いかなくて」

 喋りながらも厨房をあちらこちらと移動する。その移動歩数、動き方、全てが最少の動きになってることに今気付いた。

 この人はこの空間を完全に理解してて、移動の順番、歩幅、間隔、それら全てでベストを選んでるんだ。




(すごいな……。料理がうまい、だけじゃない。この空間は戦場なんだ。その中で自分の動きのベストを完全に理解して実行してる。驚いた……料理ってここまで奥深いものだったのか)




「もーーー! あんま見ないでってば! 胸をジロジロ見られるのとかはもう慣れてるけど『勉強になるなー』みたいな目で見られると失敗できないっていうプレッシャーがすごいのよ!」

「あ、そういうことか。了解。ごめんごめん(胸は見て大丈夫なんだ?)」




 なるほどな、と納得して俺は言われた通りケータイをいじることにした。するとマキからメッセージが届いていたことに気付く。




"今日、あやのんとこ行く? 私は今から行くんだけど"




 この文章が届いてたのが30分前。ということは――




ガラガラガラ




「あーーーっ! ハルト! 来てるんじゃない! メッセージ返してよね。もーー!」

「ごめんごめん。気付かなくって。てかちょうど今気付いた」

「いらっしゃいませー! ちょっと待っててね。いま少し手が離せないから。あっ、マキ。扉閉めなくていいや。いま換気扇調子悪いからしばらく開けといて」




 マキは「OK」とあやのさんに伝えると、俺の隣にドカッと座ってきて俺をジロリと見てきた。




「私からのメッセージをシカトとは、やってくれるわね、坊や?」

「いや、ちが、ほんと気付いてなくて!」

「ほんとにぃ~? あやのと楽しく話しててシカト決め込んだんじゃなくて~?」

「違うって~!!」




 冤罪で詰められてる俺の前にはいつの間にか美味しそうなしょうが焼きがそっと置かれていた。ひとまず、食べよう。




「マキちゃんのは誤解だから。とりあえず先食べるね。いただきまーす」




パクッ! モグモグモグモグモグモグ




「いや、なにこれウマ! これ、豚肩ロースじゃなくて豚バラ肉だ!」

「しょうが焼きって言ったら豚肩ロースだと思ってたでしょー。うちのは薄くて大きな豚バラ肉なの。そんなに珍しいものでもないんだけど、定食屋のセオリーから外れてるとは思うよ」




 片面にしっかり焼き色がついてる薄切りの豚バラ肉とその下にはしっかりしょうがダレの味が染み込んだ玉ねぎ。そして一緒に添えられた千切りキャベツ。なんて美味いんだ! 白いご飯にこれ以上ないほど合う! 




 米がどんどん減る。足らないかもしれない。




「ごはんのおかわりあるからね。キャベツも足りなかったら言って」

「はい」




「マキはー? 注文決まった?」

「カレー食べるつもりだったけど、やっぱり気が変わった。私もしょうが焼き定食!」




 俺はしょうが焼きには豚肩ロースという固定概念があった。

 料理は常識にとらわれるべきじゃないな。麻雀と同じだ、探せば新しい発見がどんどん出てきそうだなと思った。




「美味しかった! ごちそうさま」

「ふふ、ありがとう」








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