麻雀食堂−mahjong cafeteria−

彼方

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その8『新しい生活』編

第一話 手作りジンジャーエール

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ここまでのあらすじ




 乾春人はスクラッチ宝くじで60万円当てたことをきっかけに新居(借家)を契約して雰囲気だけでも新婚生活にしてみようと試みる。その引っ越し作業の際に財前カオリという女性にはじめましてと挨拶されるが、どこかで見たことがあるような気がした。

 




【登場人物紹介】




乾春人

いぬいはると




 主人公。この夏は怒涛の数ヶ月だった。あれよあれよという間に恋人が2人出来て、2人は喧嘩になるでもなく、片方を振るでもなく、双方と付き合うことで解決とするという。考えうる限り最も平和な三角関係が始まり、狼狽するばかり。そんな26歳。







髙橋彩乃

たかはしあやの




 あやの食堂の店主。爽やかな笑顔で食べてくれるハルトに惚れて積極的にアタック。ハルトのほうもまんざらでもなく付き合う流れになったが、それは奇妙な三角関係であった。得意料理は唐揚げ。今は離婚して独身だが、7才の娘がいる。







犬飼真希

いぬかいまき




 あやの食堂の近所でカラオケスナック的なものを経営するオーナー。あやのとは親友で、あやの食堂の手伝いもたまにしてる。マキもハルトのことが好きだということなので2人とも愛してもらうということで落ち着いた。







髙橋幸太郎

たかはしこうたろう




『メタ』の愛称で呼ばれている中年男性。髙橋彩乃とは3度結婚したことがある(それはつまり3度離婚したということ)。かつては超一流のプロ雀士でもあったが今は色々なものを引退してあやの食堂の手伝いをしながら気ままに生きてる。娘からは割と好かれているようだ。







左田純子

ひだりたじゅんこ




 元編集長で『月刊マージャン部』という雑誌を創り出した人。行動力があり策士で野心家。どうやら『あやの食堂』も彼女の計画と支援によって作られたようである。







寒沢司

かんざわつかさ




『カン』の愛称で親しまれるあやの食堂の常連客。21歳の若さにして麻雀の腕は一流の域。勘が良くてそう簡単には放銃しない。唐揚げ定食が大好き。たまにカレーライスも頼む。







乾美咲

いぬいみさき




 乾春人の妹。一流雀士のメタから麻雀の腕を褒められたことをきっかけにプロ雀士を目指して勉強中。兄妹揃ってゲームの才能があり、初心者ながらに高い勝率を出す。







髙橋祈

たかはしいのり




 メタとあやのの間に産まれた娘。利発な7才。あやのの事を尊敬していてお料理の手伝いをしたがる。最近は餃子を包むのが上手くなってきた。手先が器用な小学2年生。







財前香織

ざいぜんかおり




 左田が引っ越し作業の時に連れてきた助っ人。見た目は細いが力持ち。










その8『新しい生活 編』

第一話 手作りジンジャーエール




 引っ越し作業の大半が終わり、あとはマキが私物を持ち込めば完了かなという段階になっていた。もう俺は仕事が遅くなったらここに帰ればいいだけだ。帰宅できる先が増えるってかなり便利だな。

 早速今日から使ってみようと新居に帰ってみるとマキが横になってた。




「マキちゃん、来てたんだ」

「来でだ。でいゔが、私んぢでもあるんでじょ?」

「そうだね、てか……声やばくない?」

「なんが、喉やられだっぼぐで。多分風邪。エアコンガンガン入れだ部屋で寝だがらがな。せっがぐ同じ部屋に居るのにキスはお預げね……♡ なーんて。あは」

「使い慣れた自分ちでゆっくりしてればいいのに、なんでわざわざここまで来たの。いきなりマキちゃんに会えて俺は嬉しいけどさあ」

「本当よね。アダジもそう思っだじ、伝染しちゃまずいがら今日はじっとしでよと思っでだんだけどざあ。弱っでるからか……いま会いたぐなっちゃっでサ……今日がらここ使えるようになっだがらきっとハルトは来るって踏んでだの。……迷惑がげでゴメン」




 俺がここに来たのはほんの気まぐれだ。今日も残業したので早速来てみただけ。来てみて良かった。




「それは気にしないでいいよ。それより何か食べる? 食材は何もないけどコンビニで買ってくるよ」

「大丈夫。助っ人が今来るがら」

「助っ人?」




 するとその時、ガチャ! と玄関の鍵が開いた。ここの鍵を開けれる人とはつまり……




「おまたせ! マキ、具合はどう?」




「あやの~♡ 待っでだよ~」

「あやのさん!」

 あやのさんは買い物袋片手に部屋へ上がってきた。

「あ、ハルト君。おかえりなさい。遅くまでご苦労さまでした」




「あやの~。例のやづ作っでえ~」

「うんうん。今から作るからね」




 そう言うとあやのさんは鍋に水を入れてコンロの火をつけ、次に生姜を買い物袋から取り出し包丁で薄切りにした。

「スライサーでやってもいいんだけど何処にあるかまだ分かってないからね~」




 お湯ができた。




「ここに薄切りにした生姜とたっぷりのお砂糖。さらに輪切り唐辛子を入れて……と。あ、ポットの準備しないと」




「大丈夫~。それは準備じだがら」




 居間にはいつの間にか保温中のポットがあった。




「さすがマキ。風邪ひいてても有能だね。準備すべきものがわかってる」

「自分で頼んだんだがら当然よぉ。あやのも飲むど思っで氷作っといだげどまだ完成じでないかも」

「ありがとう、気が利くね。大丈夫だよ、念のため氷は買ってきたから……あっ! いけない、冷凍庫に入れるの忘れてた!」




 そう言うとあやのさんは買い物袋から買ってきた氷を取り出して中を確認した。




「セーーーフ。長持ちすることで有名なやつを選んどいて良かった。ほぼ溶けてないわ」




「あの、その鍋で作ったのは一体何なんですか?」

「ああ、これはジンジャーエールの素よ。私とハルト君は炭酸水に氷とレモン汁を入れてそこにこの素を混ぜたら完成。風邪ひきのマキはこの素をお湯と割ってショウガ湯ね。マキ、レモン添える?」

 

 マキはコクコクと頷いた。おしゃべり大好きなマキがしゃべらないとは。もう声を出すのも億劫になってきたのだろうか。




「はい、完成。ひとまず飲んで休もっか。他のことは飲んでから考えよう」




 まさかジンジャーエールを手作りするとは思いもしなかった。さすがはあやのさんだ。さて、そのお味は……




ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ




「美味しい!!」

「そうでしょ。良かったー、喜んでもらえて」

「ショウガ湯も……美味しい」

「良かった。早く良くなってね」







 ショウガ湯の効果があったのかどうか医学的な事は分からないが、マキは次の日には元通りに回復した。


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