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第1章【入社テスト編】

7話目◉大ミンカン

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 椎名に勝負手はなかなか来なかった。東場は全て耐えて降りて耐えて降りての繰り返しで苦戦を強いられた。だが、その降り方に才能が光っていた。
 中盤で降りを決め込んだ椎名は自分視点でのみ安全が保証されている牌をキープした。本当はそれを先に捨ててまだ粘りたい場面だが、椎名はこの局はきっとあがれないと見切ると今度は1人でも多く道連れにしてノーテン仲間を増やす方針へと中盤時点で思考を切り替えて手順を組み立てた。そうすることで終盤に勝負牌に見える牌を切り出すことが出来るようになる。つまり、降りていることを感じさせない降り。それが椎名の魅せた最初の技術だった。

「ノーテン」

 ただノーテンと伏せただけ。それだけだが、この時ヤシロと渡邉は(だまされた!)と思ったという。
 アガリだけが技術ではない。ノーテンに巻き込むこともまた失点を防ぐという価値ある戦術なのである。そして、その次局から椎名の反撃が始まった。

「チー」「ロン。1000は1600です」
「ポン」「ツモ。1000.2000です」

 まさに韋駄天。
 打点力はないが自分がアガることに大きな意味があるのである。じわりじわりと加点していき自分のペースで支配していく椎名。そしてラス前。ここでアガれれば勝ちが見えてくるという所まで行って椎名が受け取った配牌は絶望的に悪かった。

 中の対子はあるがそれだけ。あとは②が2枚とバラバラ。そんなのどうもならないよという手だが、第一ツモで②が刻子になった。すると、その直後に4枚目の②が場に放たれる。
「カン」
 椎名はなんとそれを大ミンカン。新ドラは九。椎名の狙いは一体なんなのか? 全員がメンゼンでやっていて自分の手はバラバラの場面での大ミンカン。しかしこれこそが椎名の真骨頂。韋駄天と言われるようになるきっかけでもあったのだった。
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