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第3章【強敵あらわる編】

6話目◉尊敬と愛

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 今日は依頼が多い日だった。担当者の椎名だけでは足りない。そんな日は都合が合えばヤシロも闇メンをやる。天才ウェイトレス福島ヤシロの、その精度が高くて優れた麻雀は男たちを虜にした。

 ヤシロの麻雀は白発中の切り順ひとつとっても優れていた。
 
 ヤシロは中から切り次に白、最後に発を切るという手順を基本としていた。それはなぜかとある日椎名が聞いてみると
「中は人気あるから使われやすいわ。デザイン的にもザ・麻雀牌といったデザインだし名前の響きもかわいい。なので出にくい牌になりやすいと思う」
「へえ…。じゃあ発と白の比較は?」
「白もシンプルで人気はあるし、何より視覚的に枚数を瞬時に数えられるという違いがあるの。白が何枚切れてるかの確認は0秒で出来るけど発は疲れてきてると何枚切れてるか数えるのが億劫でヒョイと切ってしまった後で(あ、ションパイだった!)ということがあるわ。なので重ねて鳴きやすい牌はこの場合発になるの」
「なるほどなあ」
「でも、これも相手次第よ?玄人気取った人とかは往々にして発が好きだったりするし。システム化しすぎて読まれるのも良くないわ。ランダムに打つ時も必要」
「玄人気取った人… ククク」いい子100%という印象のヤシロがそのような言い草をする事がなんだかとても可笑しかった。
「でもね、これが対子だとまた違うわよ」
「?」
「例えば、白対子発対子ドラ対子の所でどちらかの役牌対子を処理したいとしてどちらも1枚切れだとしたら」
「さっきの理論だと発残しだったはずだけど」
「そうはならないわ。今回は白残し」
「どうして?」
「ションパイと1枚切れはまるっきり違うの。さっきはションパイだと分からないようにしたかったから発。でも今回は1枚切れでしょ」
「そうか、字牌1枚切れはむしろ安全性が高いから1枚切れていることを認識されたいんだ!」
「そう!つまり」
「白残しだ! 白は1枚切れを視覚的に発見しやすい!」
「正解」

 精密なヤシロの麻雀は読み、読ませ、に特化しており全ての展開を操った。まさに闇メンにふさわしい能力の持ち主だ。椎名はヤシロを心底尊敬して師と仰いだが、ヤシロはそれがちょっと嫌だった。人は尊敬する相手には距離を起きがちだ。あまりに素晴らしい人に対して馴れ馴れしくすることは出来ないからだ。(尊敬されるより愛されたい。仲良しになりたいのにな)と、少しだけ不満だった。
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